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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
119/256

109 VSラオメイディア―2

 無傷のラオメイディアは一言、呟く。

 「始めろ」と。

 特殊部隊には聞こえない声量だが、タクティカルグラスが収音し、ハッキリと聞こえた言葉。

 嫌な予感……そんなの最初からだ。



「傭兵派遣会社を終わらせるぞ! かかれー!」



 先頭の特殊部隊の一人が叫んだ。

 軍勢が津波のように襲いかかる。



 そして、現実は地獄へと様変わりした。



 先ほど何もできず殺された兵士が、鋭い殺意と明確な生命力を伴って起き上がってくる。

 この世界では、聖水を浴びることなく死した者は夜……”ゾンビ”と呼ばれる異形となって蘇るのだ。

 けど、タクティカルグラスから見ているこの光景。

 死したはずの兵士は確かに生きている、生き返っている。

 黒い血液を噴出させていたかと思えば、すぐに止血されていた。

 常識が一瞬にして覆された気持ちは、宇宙に向かって体が浮いていくようである。

 地面に、しっかりと足を着けられない。

 全方位を囲むように死体が配置されていたため、解決屋と特殊部隊はピンチと言ってもいいかもしれない。



「怯むな! また、殺してやればいい!」



 刀を手にした人物は、胴体を斬り捨てる。

 銃を手にした人物は、頭を狙撃する。

 近接武器でも遠距離武器でもやることは変わらない。

 多少、非常識なことが起こっただけ。

 蘇っても殺すだけ。

 確かな歩みと殺意を向けて、突撃してくる死体を皆は冷静に対処している。

 すぐさま、動く死体は倒され、死体としての役割を果たすこととなった。



「大したことはないな。ラオメイディア……残念だったな」

「人は生まれながらにして、限界という鎖で縛られているんだ。しかし、死者となることで……」



 武器は、兵士の肉体を確実に抉った。

 死者は死を受け入れ、動かないはずだ。

 だが再び……起き上がろうとしている。



「迷いから脱し、限界自体を消滅させる。生まれ変わったことによって、真理を体得したのだ」



 両手を使わず、垂直に起き上がったのだ。

 こんな状況でも冷静に努めていられるだろうか。



「輪廻から解放された彼らは自由だ。人という存在から解脱したのだ! 僕は彼らのような存在を”解脱を果たしたもの”……『解脱者モークシャ』と名付けた! 『モークシャ』というのは、この世界を超えた次元の言葉だ!」



 なんだ、奴らは。

 モークシャ、だと?

 ふざけるな、明らかにこの世のものではない。

 ”非常識”に包囲された彼らに、モークシャの手刀が決まる。

 モークシャの正拳突きは、肉の壁を越えて、内臓をも貫通し、虚を完成させていた。

 攻撃力は生前の倍以上、防御力は変わらないみたいだが、脅威であるのは誰が見ても間違いない。

 黒色の鮮血が地を染めていく。



 しかし、やられているのは解決屋で低レベルのハンターのみ。

 レベル40以上のハンターは経験の量からか、緊張状態からの精神安定が速かった。

 ゾンビ以上に厄介な敵を相手に武器を振るう。

 死んだ仲間に構うことはなく。

 だが、それでもギリギリついていっている感じだ。

 肉体への疲労、同時に精神への疲労も襲っている。

 一瞬でも隙を見せたら、最期。

 俺も力を貸してやりたいが、復讐しにきたんだ。

 ラオメイディアを倒すために、お前たちは”犠牲”になってもらう。

 今は情報収集だ。

 モークシャに対するための作戦を立てないとな。



「『貫通断裂』!」



 あるハンターがスキルを使用して武器を強化し、モークシャの首を吹き飛ばした。

 不死身に近いモークシャと言えども、頭を失えば天地がひっくり返ったかのように倒れ込んだ。

 もう動くことはなかった。

 なるほど、頭を失えば確実に死ぬ。

 解決屋と特殊部隊も理解したようで、防戦一方だったのが、首を狩ろうと反撃を開始した。

 息つく暇もなく、上空を目指すように頭部がジャンプしていく。

 中には狙いが逸れ、腕を斬り落としたり、脚を切り離してしまったが、動きは確実に鈍っている。

 とうとう、モークシャ全ての頭と体はバラバラになって、終わったのである。

 あちこちに黒の血だまりが生まれていた。



「あちゃー! やっぱり、頭を無くしちゃったら動かなくなっちゃうか。それに腕とか脚を失えば、死にはしないもの鈍臭くなるな。いや、貴重な実験データだ。これを基に、新たな開発を進めるべきかな」

「何をごちゃごちゃ言ってやがる」

「でも、君たちでは力不足だよ。あそこの彼は、録画しているのかな?」



 ラオメイディアが指で示した方向。

 タクティカルグラスでズームしてみると、青年がリモコンを操作しているみたいだ。

 空……ドローンでの空撮か。

 それにしても、いきなりラオメイディアは何を言い出したんだ。



「ああ。お前の死に様を世界に晒してやるのさ」

「ひどいなぁ、傷ついたよ……心が。もぉう、違うでしょ! ”君たちの死に様”を、でしょ?」

「冗談に付き合っている暇はない。お前を殺した後も、傭兵派遣会社は徹底的に潰していく。抵抗しても無駄だ。綺麗に死んだ方が、世界に印象付けられる。理想の死に方を考えることこそ、人生じゃないか?」

「君は銃より、ペンを握った方が良かったんじゃないかな。理想の死に方かぁ……参考になったよ。けどね……僕はまだ『始めろ』としか言ってないんだ。『終わり』とは一言も言ってないんだよ」



 特殊部隊のリーダーは、機械仕掛けの特殊な散弾銃をラオメイディアに向ける。

 しかしその後、何かを感じ取ったのか……銃口はラオメイディアから外し、周りに振り回し始めた。

 他の特殊部隊も同じように、それそれの得物をリーダーと同じように振り回している。

 何かに恐れているようだ。



「そのバトルスマートスーツ、だったっけ? 機能の一つに生命体を感じ取るものがあるよね。他にも自動的にレベルを算出してくれたり。防御力も高い。便利だね、君たちだけ。解決屋の連中は、ポカンとした表情で君たちの間抜け面を拝んでいるよ」



 生命体を感じ取る機能だと。

 そこには、ラオメイディア以外に敵はいない。

 だというのに……『不可視』か。

 確か『不可視』は得るのに、かなりのスキルポイントが必要だったはず。

 レベル80かつ、一度もスキルポイントを使用しないで、ようやく得られるスキルだったか。

 まず、普通の人に取得は不可能。

 それに『不可視』だったとして、出現する敵は無害に等しいはず。

 ただ身体が見えなくなるだけ。

 スキルもそれだけしか得ていないから、弱い。

 だけど……治まらない不安、むしろ全身を染め上げるほどに深刻化していっている。

 なんだ、ラオメイディアは何を用意しているんだ!



「いい加減、くどいよね。さっさと見せろよ、って話だよね。分かってる、言いたいことはすごく分かる」

「な、何をする気だ! はっ!? 今、目の前に突然! ぐぅぇ!」

「準備時間が無駄に長いけど……ようやく間に合ってくれたかー。よくやったよ、オベディエンス! やあ、見てるー?」



 不意に特殊部隊のリーダーの誇っているであろう巨体が、空中へ浮遊し、何かを掴んでいた。

 何もない空間を。

 『不可視』か?

 しばらく間を置いて……圧死。

 巨体は、たっぷり詰まった血液を爆散させ、跡形もなくなっていた。

 炎はなく、ただリーダーは何かに押しつぶされた。

 何もない空中で。



「ひ、ひぇ!? あぁぁ……あー!」



 解決屋のハンターである一人が怖気づいたのか、終いに逃げ出してしまった。

 心の限界だったんだろう。

 それまで一緒に戦った仲間を、武器を、覚悟も放り投げ、全力疾走でこの墓穴から脱出しようとする。

 他の連中だって、そうしたいだろう。

 生きようと必死なハンターは、やがて。



「がっ! いてぇ……なんだ? 何もない……あれ、浮いてないか俺」



 独りでに浮きはじめ、リーダーと同じように、防具のあちこちが嫌な音を立てながら歪になっていく。

 何が起こっているんだ?

 ハンターは抵抗する様子もなく、素直に死を受け入れているように見えるが。



「だれがっ! だずげで! ちゅ、ぢゅぶれでゅ! ぐぎゃ」



 悲願の助けを求めるも、連中は目の前の光景に納得できず、遂には見殺した。

 勝手に浮いて、勝手に不規則な形状になって、勝手に破裂する。

 腕と脚は有り得ない方向に捻じられ、泣きじゃくる顔もリンゴを握り潰すように醜くなっていく。

 光景を眺めていた者は、豪勇な気持ちで挑んでいたであろう戦意は失いかけており、中には武器を落とした者もいる。

 結局、再び拾うことはなかった。

 ハンターを圧縮した場所から、リーダーを圧縮した場所から、それぞれ異質の存在が現れた。

 全身に新鮮な血を塗りたくったかのような容姿。

 まるで人の血管内を表したかのような存在。

 その血は本当に血流しているみたいで、赤黒くなったかと思えば、流れるように白が混じった赤に変色し続けている。

 理屈ではなく本能が、その敵を受け付けなかった。

 思わず、目を逸らしたくなるような化け物。

 人型の化け物。

 ラオメイディアは嬉しそうに紹介する。



「シトロン・ジェネヴァに特殊部隊があるように、僕たち傭兵派遣会社にも新たに特殊部隊を採用したんだ。苦労したよね、オベディエンス。今のところ、数は全部で二体だけ。そう、ここにいるので全員なんだよ。ごめんね、もうちょっと時間があれば三体目も造れたのに。戦わずして勝つには……戦う前に相手の心を挫かせるのが基本だね。どうかな? これでも挑みたくなったら遠慮なく特攻してね。綺麗に死んだ方が、世界に印象付けられるからさ。理想の死に方を考えることこそ、人生じゃないか?」

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