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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
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106 精神的外傷

「レイラン! あそぼー!」

「おい、レイラン! 起きてないのか、おーい!」



 下から子供の声が聞こえてくる。

 女の子と男の子の二人が生み出した叫び声が、俺の脳を覚醒させた。

 寝惚け眼を擦りながら、ベットから起き上がり、窓を勢いよく開け放つ。



「うるさーい! ミウ、エイデン! こんな朝早くから、遊べと!」

「起きるのが遅いんだよ。もぅ!」



 と、むくれているポニーテールの女の子が「ミウ」。



「今日の鬼は、レイランな!」



 と、意地悪そうな見た目をしている男の子が「エイデン」。

 森林に覆われているマギア村は、魔人と人間のハーフが集団となって暮らしている。

 それは堂々とではなく、隠れ住むように。

 村の中央を支配するように、俺の家があり、村長の家。

 村長の家には、代々受け継がれてきた『光の玉』があり、それによって村への魔物侵入を防ぐ他に、村の外からでは認識できない効果もある結界を張れる。

 これで魔物は疎か、外部の人も入れないようになっている。

 村がここにあるなんて、絶対に分からない。



 なぜ、そんな暮らしを俺らは営んでいるのか。

 おかげで俺や子供たちは窮屈な思いをしている。

 だけど仕方のない事だ。

 人間と魔人……他種族同士の混血が世間では差別の対象となる。

 俺らが村の外に出れば、魔物に加えて、人も敵になる。

 敵にならない奴なんているのか。

 信じられるのは……この村の人間だけ。

 10歳の子供同然である俺が、そう思うぐらいだから異常だよな。

 世界は今日も、俺たちを目の敵としている。







 今日も、いつもと同じ予定で進行していく。

 朝食を食べて、年下のあいつらと遊んで。

 村の人間が生まれつき使える魔法、それと『魔法剣』という剣に魔法を纏わせるスキルを、教官の下で特訓する。

 教官のとにかく厳しい訓練で、『魔法剣』の持続時間や扱える魔法の数を増やしていく。

 そして世界の歴史についても学び、村周辺の魔物も学ぶ。

 いずれ大人になったら、狩猟者となって村のために尽力しなければならない。

 厳しいのも生きるためなんだと思えば、耐えることができた。



 現在、木の柵の中で「魔物狩り」が行われている。

 子供一人ずつ、教官付き添いで外から連れてきた魔物と戦う訓練。

 予め狩猟者が弱らせて捕獲するから、一人ひとりに合わせて魔物レベルを合わせる。

 俺とエイデン、ミウは柵の外で見学している。

 中では、家の近くに住んでいる子が泣きながらも立ち向かっていた。



「正体がバレなかったら、外の世界でも生きていけるんだよね」

「ん? ああ、そうだな。人間と魔人のハーフじゃないってことを隠しながらな」



 ミウの質問に、困惑しながらも答える。

 どうしたんだ、突然。



「なんで、だめなの。私達、悪いことした? ……息苦しいよ、こんな村」

「昔、旅人であった人間と、少女の姿をした最恐の魔女がいたんだ。その二人が産み落とした存在……それが俺たちだ」

「ただ、それだけだろ。ったく、分かんねぇなぁ。なんで混血の種族は受け入れないんだ! ていうかよ、いったい誰が教えてんだ? 混血はダメだ、ってよ」



 確かに気になる。

 いや、答えは分かってる。



「俺らと同じ歳に、教育で教えられるのだろ。勝手なイメージで」

「次、テル・レイラン! どうした、お前が怖気づくような”人間”か」

「いえ……」



 泣きじゃくる子供と入れ替わるようにして、柵の中に入っていく。

 俺らは”人間”扱いされている。

 魔人よりも人間の方が、普通だから。

 このどうしようもできない怒りを、猪型の魔物にぶつけてやる。







「すごい、暴れっぷりだったね、レイラン!」

「『魔法剣:炎』も炸裂してたな、レイラン! すげーよ、さすが次期村長だ」



 ミウとエイデンが褒めてくる。

 親父が死んだら、次の村長は俺か。

 その思いは一瞬、並んで歩く二人に視線を向ける。

 こいつらもすごいけどな。

 お得意の魔法を放って、突進されても避けて。

 おかげで、服が泥だらけだ。

 「魔物狩り」で泣かなかったのは、俺たち三人だけ。

 他にもいるけど、勇敢な心がある俺らが一番強いと言える。

 いや、恐れしらずなだけかもな。

 教官がいるってだけで安心している。

 大人になって狩猟者になれば、そんな便利なのはいない。

 あるのは自分の実力。

 成長するためには努力するしかないのか。



 三人は家路をたどっていると、遠くからいくつかの足音が重なって聞こえてくる。

 その足音は急いでいるようで、テンポが速い。

 どうやら狩猟者数人が、村長の家を目指して走っているみたいだった。

 家の中へ入っていくのが見えて、三人は当然気になった。



「な、なにかな。今の狩猟者だよね」

「確認しよう。何か起こっているのかもしれない」



 三人は盗み聞きしようと玄関前で待機し、家の中へ耳を澄ませる。

 ふと空を見上げると雲は暗くなっていき、雲行きが怪しくなった。

 さっきまで照らしていた太陽光は、雲に隠される。

 今にも雨が降り出しそうな黒い雲は、災難を訴えているような気がした。



「武装した集団? 外から?」



 村長の声は、怯えるように緊張している。

 声の調子から、嫌な内容だというのは子供でも分かる。



「ええ、それも……一直線にこちらへ」

「ばかな、村は見えてないだろう。この通り、光の玉は今日も守っている」

「迎え撃つ用意をしましょう。あれは……魔物狩りではない。確実に俺らを……」

「……狩猟者を全員集合させ、装備を確認しろ。それから子供たちと戦えぬ者は、反対側から逃がす。早く動くぞ!」

「はい。……レン! 鐘を鳴らせ! お前たちは付いてこい!」



 家から、狩猟者が駆けていく。

 俺たち子供には気付かず、そして大声で叫ぶ。



「皆さん! こちらに集まってくださーい! 緊急事態です! 早く!」



 絶叫に近い声を発しているが、状況を把握できていない者は動こうとしない。

 だが、村中に響く金属音が村人の脳内を活性化させた。

 鐘が鳴り響き、大人は子供を連れて、狩猟者のもとへ走っていく。



「ミウ、エイデン! 俺たちも行こう!」

「分かってる!」



 二人が頷いたのを確認して、避難している人たちの列に並ぼうとすると……空が歪み始めた。

 黒い雲と青いの日光が混ざり合っているが、一つになろうとはしない。

 もしかして、結界が攻撃されている?

 直後に、大きく揺らす地響きに襲われた。

 一瞬、体が浮いて上手く着地できず、転倒していた。

 皆も同様だ。

 足腰が鍛えられた狩猟者は耐えたみたいだが、次の瞬間には狩猟者が爆発して後方に大きく吹っ飛んでいく。

 あれを食らって、生きていられるわけがない。

 それが理解できるほど、不思議と冷静になっていた。

 そして”死体”は遥か彼方から、俺の側を通過して建物の壁に激突した。

 衝撃は全身に走り、目玉は飛び出し、頭蓋骨は割れて脳みそが噴き出す。

 血と脳漿が混ざった池をつくり、死体は沈んだ。

 俺たち三人は攻撃されたわけではないが、その眺めは強く精神に作用した。



「きゃあ! 助けてー!」

「うっ……おえっ。う、く……うう、はしるぞ……」



 軽く嘔吐したが、俺は二人を守るようにして肩を寄せ合い、攻めてくる反対側へ逃げていく。

 狩猟者が先導し、森につながる道を指さして、声を上げる。

 後ろを振り返らぬよう、必死で歩き続けた。

 爆発音と悲鳴、それが連続して響いてくる。

 逃げ道に人がやってくる様子はない……はやく、はやく!

 今も空から狩猟者が降ってきて、妨害するように着地する。

 胴体に大きく穴があけられた……既に死人だった。

 「目を閉じろ」と囁いて、二人にこの光景を見させないようにする。

 俺だけで構わない……こんなのを見るのは。

 そして、唐突に狩猟者の声が響き渡る。



「ま、前からも! ぐぇ」



 あと、もう少し……坂を上れば、森に逃げられる。

 だけど、その道は頭を撃ち抜かれたことで排出される血で染まっていた。

 先導していた狩猟者を筆頭に、その後ろに続いていた避難者に弾丸が加速していく。

 大人の女性は抵抗することもできず、胴体に数発、撃ち込まれ。

 子供は、どうすることもできず泣き叫ぶ。

 「魔物狩り」の時以上の声量で。

 前から、アサルトライフルを両手で構え、次々と相手目がけて連射している。

 こいつら、既に回り込んでいやがった。

 二人の手を引っ張り、後退する。

 俺たちは見つかっているが、武装集団はこちらに銃口を向けない。

 どうやら、先に大人を射殺しているようだ。

 狙いは子供?

 荒れ狂う弾丸の嵐は戦場を出現させ、あちこちで魔法攻撃や爆発が起きている。

 いや、こんなの戦場じゃない。

 一方的な虐殺だ。

 遠くの方に目を移すと、教官が『魔法剣:炎』で抗っているみたいだが、突然首を押さえて倒れ込んだ。

 奇妙なローブを纏った女が、伏した教官の胴体に赤い剣を突き刺した。

 教官まで!



「きゃ!」

「ミウ! 大丈夫か!」



 建物が密集しているところまで戻ってきたが、ミウが転んでしまった。

 エイデンがすかさず駆け寄って、腕を持って立ち上がらせる。

 この間に逃げ道を確認する。

 確か、この先にも森まで続く坂があったはず。

 森まで無事逃げ切ることができたら。

 あと、無数の樹木が俺たちを隠してくれる。



「いたぞ! 子供だ!」

「まずい、見つかった! ミウ、エイデン! あっちだ!」



 兵士が逃げてきた方向から銃を向けて、近づいてくる。

 エイデンはミウの肩を掴んで、俺が指さす先を目指して走り出す。

 確認できた俺も、脚を動かした。



 しかし簡単には逃がしてもらえず、武装した兵士が行く手に現れる。



「挟み込むぞ! おとなしくしろ、ガキ共!」



 くそ、ここまでか!

 俺が立ち止まっていると、エイデンたちも俺に近づいて佇む。

 剣……剣があれば『魔法剣』で突破できるのに。

 こんなやつらの胴体、掻っ捌ける訓練をしたってのにな。

 第一クラスの魔法くらいは使える。

 ミウは膝頭を擦りむいて血が滲んでいるから、力が出ないかもしれない。

 エイデンと二人がかりなら、可能かもしれないな。



「エイデ……」



 巨体が空から落ちてきた。

 死体ではなく、岩の塊かのような肉体を持つ何かが。

 猪のような顔をして、牙が反り立っている。

 顔の周りは茶色い毛が生え、ライオンのたてがみのようで思わず注目してしまう。

 鋼の鎧を纏って、腕を顔の前でクロスさせていた。

 それから間があって、左右に開いた両足を伸ばし、姿勢を正していく。

 その男の瞳は、酷く濁っていた。

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