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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
115/256

105 転生者:伊藤真澄―3

「お兄様、ご命令を」

「ぎゃあー! なんで俺じゃないんだ! ネーブルちゃん、俺がお兄ちゃんだよ」

「……ネーブル、お前の兄はあいつだ」



 すぐ近くに女性の顔。

 ファジー・ネーブルという女性型のロボットは、なぜか俺をお兄様だと呼び、命令を求めている。

 本来の予定なら、伊藤真澄のハーレム一員となっていたはずだが。

 ちゃんと教えても、ピクリとも動かないネーブルに諦め、理由を述べてみる。



「俺は機械だからな。言うてみれば、兄妹みたいなものだ」

「認めてたまるかー! ネーブルちゃん、俺がお兄ちゃんなんだよ!」

「最初に認識したのは、この方です。あなたではありません」



 さも当然かのように言い放ち、ついに我慢できなくなったのか、真澄がネーブルを捕まえようと瞬間移動してきた。

 面白くなりそうだな。

 確か、攻撃しろと命令すれば。



「攻撃しろ」

「戦闘モード……」

「ええい、遅いわ! レベル256の俺を舐めんじゃねぇ!」



 俺は真澄の伸ばした腕を掴んで、思いっきり壁の方に投げ飛ばす。



「なんでぇ!?」

「試しに、こいつの性能を見たくなった」

「全力で排除します」

「やめてぇ! ネーブルちゃーん!」



 壁に叩きつけられ、動けなくなったところを、ネーブルの背面から現れた兵器の数々に的にされ、ボロボロになったしまった。

 壁は爆発と弾痕で真っ黒になっている。

 とにかく兵器の威力は恐ろしい。

 容赦なく突っ込んでいくミサイルと、同時に二門のガトリング砲で集中砲火を浴びせているのだ。

 果てには、レーザー光線まで発射される。

 伊藤真澄の、相手の骨を残さない破壊力は間違っていなかった。

 白衣や髪の毛は焼かれ、ところどころ穴が空いていた。



「ミミゴン! 酷いじゃないか! どうして、こんなこと平気なんだ!」

「ネーブル……命令だ。あいつをお兄様にしてやってくれ」

「指揮権の譲与……でよろしいですね」

「ああ。これでお前のお兄様は、伊藤真澄だ」



 傷は見当たらないものの、衣服は使い物にならない。

 さすがの転生者だな。

 先ほどから睨んでいた真澄だったが、俺の言葉が聞こえると嘘のように歓喜していた。

 何らかの回復スキルで全身を治し、衣服も早着替えする。

 何事もなかったように元通りにして、ネーブルを迎えに行った。



「あなたがお兄様……」

「そうだよ! いやぁ、待ってたよー! あれ、なんか嫌な顔してない? 大丈夫だよ……養ってあげるから」

「良かったな、真澄。俺は帰る……いいもん見れたわ」

「ミミゴンさんが意外と良い人で助かりましたぁ。また、来てください。歓迎しますよぉ!」

「お兄さ……ミミゴン。ありがとう……最高の”お誕生日会”だったよ」

「真澄お兄様と仲良くしとけよ。あと、伊藤真澄……この異世界から脱出する方法、探しとけ」

「ちょ、”転生”ですよ! 俺ら、何かあって死んでんですよ!」



 俺は転生したとは信じられない。

 とても死ぬような……殺されるようなこともない。

 現実世界に帰ったら。

 転生者と会ったことが、俺の何かを変えた気がする。

 エリシヴァ女王に感謝しないとな。

 後ろから「ひぃひぃ、どうしよう」と叫ぶ声が響いてきて、それは白い扉で閉じられたときには完全に聞こえなくなった。

 伊藤真澄、警戒しておくべきか。

 ただ、味方にしやすい奴だがな。

 『テレポート』を発動し、エンタープライズをイメージした。







 玉座の間に帰ってきて、メイド達から「おかえりなさいませ」と挨拶される。

 「ただいま」と返してから、あることを命令した。

 メイドは快く頭を下げ、部屋から退出していく。

 さてと、次は我がままジジイの対処だな。

 地下2階の独房に『テレポート』した。



 地下2階も相当、広く造られており、独居房エリアと雑居房エリアとで分かれている。

 だいたい拘置所みたいなのいるか、と思ったが何かあるかもしれない。

 今のところ、お仕置き部屋みたいな扱いとなっている。

 で、こんなところに来たのは問題のオルフォードだ。

 目前の独居房には、オルフォードがスマホの扱い方を学んでいた。



「おっ、なんじゃ。ミミゴンか……ふんふん、だんだん慣れてきたぞ」



 以前までのデジタル嫌いが、今ではすっかり変貌していた。

 オルフォードの根は真面目なので、スマートフォンの機能、設定を一つひとつ確認していた。

 こんなに勉強家だったとはな。

 いや、褒めに来たわけではなくて。



「オルフォード……スマホぐらい『EIHQ』でもできるだろ。早く、独居房から出てくれ」

「ここは静かなんでな。非常に落ち着くわ」

「そうかもしれないが……メイドやドワーフに頼んで『EIHQ』に、お前専用の部屋をつくらせてもいいんだぞ」

「ワシはな……あいつらとは離れた方が良いと知ったんじゃ。常に目を合わすとこにおったら、職員は満足に働くことができんじゃろ」



 ずいぶんと反省したみたいだな。

 プライドを捨てたようだ。



「あいつらに謝りたくないのじゃ。それだけは嫌なのじゃ」



 あ、プライド捨ててなかったわ。

 このジジイ、謝るのが嫌、って。

 やっぱり、めんどくさい事になったか。

 階段から多数の足音が聞こえてくる。

 それを聞いて、連れてきてよかったと安堵した。



「謝る必要なんてないさ。こいつらに聞いてみろよ。さあ、ぶつけてやれ。お前たちの想いを」



 後ろを振り返って、集団の方に目を向ける。

 『EIHQ』の職員たちだ。

 部下に説得してもらった方が理解しやすいはずだ。

 部下の一人、グレーが軽く笑いながら、オルフォードに話しかけた。



「オルフォード様……私達は、あなたを待っています。謝罪など必要ありません。あなたが側にいて下さるだけで、私達は仕事を頑張れるのです。だから、帰ってきてください……本部に! お願いします!」

「「「お願いします!」」」



 グレーの言葉に続いて、職員一斉に90度も頭を下ろした。

 オルフォードは、その様子をじっと眺めていた。



 ややあって、オルフォードは決意したのか、頭を掻き……立ち上がる。

 着物の隙間からはみ出す全身の毛を整えながら、スマホを懐に仕舞いこんだ。

 「オルフォード、ありがとう」と呟いて、持ってきた鍵で檻から解放した。



「反省は口ではなく、行動で示すべきじゃと思っておる。それでミミゴン……何か頼みたいことがあって、ワシを”自由”にしたのではないか?」

「どうやったら、そんなに察しが良くなるんだ? まあ、それよりもだな……エリシヴァ女王に依頼された。傭兵派遣会社の壊滅を……」

「分かったぞ。じゃあ……部下よ。これからはお前たちに任せる。部下の『自発性』を高めたいのでな……どうじゃ、やれそうか?」



 グレーが頷き、他の職員も大きく頷く。

 ニヤニヤと口角を上げ、更に付け加えた。



「自分のやれることだけでいい。無理するな。困ったことがあれば、ワシが助けてやる。ちゃんとできとったら、褒めちゃる。存分に発揮しろ、己の実力をな」

「「「はいっ!」」」



 職員は『EIHQ』に走って帰った。

 オルフォードも成長してくれて、エンタープライズはより強くなっていく。

 何物も凌駕する力が、エンタープライズには必要なんだ。



「ミミゴン……変わったな。最初に会った時とは、ずいぶんと」

「そうか? あの頃よりも進む道が明確になってきただけだ。仲間が光となって、行く先を照らしてくれている。俺も他人の暗闇を明るくする『太陽』のような存在になりたいのさ」

「だったら見せつけないとな。ワシは……新しい余命を見つけたぞ」



 ”教示”するかのように言い残して、去っていった。

 実際、頭の中を駆け巡るかのように、オルフォードの言葉が刻まれた気がした。

 今更ながら、自分の胸に空いた穴を見つけたみたいだ。

 この穴を何で塞ごうか。

 今の自分に足りない”もの”か。

 俺はまだ……頂上に辿り着いていないんだな。

ここまでがプロローグ。

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