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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
111/256

101 新都リライズ―7

 エリカゴに乗車して、10分。

 備え付けの座席は長時間、着席しても苦痛でない優しい素材。

 だけど、視線は痛い。

 この国は、よほど目の前の人物が気になるらしい。

 情報を共有しない俺を見る目は、とにかく苦痛だった。

 誰も話しかけてこないように祈る。



 到着先は当然、リライズ大学。

 皆が思う大学のイメージとそう変わらない外見。

 ただ、建物は街一つを支配するほど広いし、まるで巨大な墓石かのように見える。

 新都リライズでは、かなり重要な機関として設置されているようだ。

 だいたい、ここは何が学べるんだ?



〈あなたの世界の大学は専門の学芸が深く学べ、研究に特化した教育機関ですよねー。説明はあっていますかー?〉



 俺って大学、行ったのか?

 そもそも、中学校も行ったのか?

 記憶が定かではない。

 助手の言う通りで合ってるはず、たぶん。



〈しっかりしてくださいよー。でも、異世界の教育機関は異なりますー。まず、ここに通うのに年齢は関係ありませんー。そもそも小学校とか中学校とかありませーん。今のエンタープライズのように簡単な教育機関しかないのですー。その教育機関は識字率を高めるためですねー。道徳教育や歴史を学んだりー。これが一般的な異世界教育ですねー〉



 なんにしても、読み書きは重要だな。

 あとは正義と悪の区別。

 理解する能力も必要なわけだ。

 だが、リライズ大学はどうなんだ。

 ていうか、魔物とかいる世界なんだぞ。

 人類が生き残るための教育とか、されているのだろう。



〈大学というのは、もちろんリライズにしかありませんー。リライズには複数、大学と称した機関が存在しますがー、リライズ大学はその中でもハイレベルな研究をしていますー〉



 リライズにある大学は教育機関というより、研究機関としての意味合いが強いのか。



〈そうですねー。教育より研究ですねー。人類の研究、歴史の研究、アイテムの研究、魔物の研究ー……学生の皆さんは研究員として、働いているようなものですねー〉



 ただで働いているのか。

 国だけにとどまらず、世界に関係する研究を金を払わずしているわけか。



〈ちゃんと給料は存在していますよー。大学で学ぶことは、就職のようなものですー。ちなみに受験なんてありませんよー。卒業はありますが、それは研究員から教授になることを意味しますー〉



 ずっとリライズ大学前で佇んでいても何も起こらないので、正面玄関を目指しながら話を聞く。



〈卒業するには何かしらの結果を出すかー、国に認められる人材になるかー、ですねー〉



 通い続けて……だよな。

 結果を出すか、素晴らしい人物になるかで卒業になるのか。

 つまり、一年で卒業できる者もいれば、何年経っても卒業できない者もいるわけか。

 ずっと研究員だったら、途中でやめたくなるな。



〈自由に退学できますしー、逆にいつでも入学することができるのが大学ですー。退学というよりは退職に近いかもしれませんがー。それからリライズ大学がハイレベルというのはー、学生の質がハイレベルというわけではなくー、研究室の多さや研究開発費が豊富だったりー、教授も名のある者たちが多いからですー。まあ、卒業しにくいというのもあるのですけどねー。そもそも、結果と言っても先人たちの多くが既に出していますしー、国に認められるのにも大変ですからー。研究するにしても、多くのルールがありますからねー。ここの学生は、かなりの忍耐力をもった偉人達ですねー。他にも様々なハイレベルにまつわる解説があるのですがー……今日はここまでにしておきましょー〉



 かなり解説してくれたな、ご苦労さん。

 今の解説っぷり、助手を名乗っているだけのことはある。

 知識量がすごいみたいだな。



〈当たり前ですー。それが『助手』に与えられた使命というわけですー。いやぁ、褒められると照れちゃいますねー〉



 照れとけ照れとけ。

 褒められて照れない奴は怖いからな。

 誉め言葉は、素直に受け取ってくれよ。







 エントランスホール。

 中に入ろうとしたが、足を止める。

 正面に長いトンネルがあり、横に警備員が立っている。

 それよりも、このトンネルの機能だ。

 壁の注意書きを読む。



「『ヴィシュヌ』の開示を求めます……だと。なかったら、当然入れず……最悪、牢屋行きか」



 エリシヴァ女王……入れねぇじゃねぇか。

 他の入り口でも探すか。

 別に大学に興味があるわけではないが、見学したいんだ。

 ガラスの窓が目立っていたから、突き破って侵入することも案として考えておく。



〈そんなことしたら、捕まりますよー。このトンネルをくぐることで『ヴィシュヌ』を検知するのでしょうねー。他の入り口も同様のようですよー〉



 なら、帰るしかないな。

 後ろを振り返って帰り道を考えていると、前から誰かの名前を呼ぶ声が聞こえる。

 発話者は遠くにいるようだが、かなりの大声で叫んでいるみたいだ。

 近くの大学生は、ある一点を見つめている。

 その先にいるのは、発話者に決まっているが。



「おーい! ……ンさーん! こっちですよー!」



 声の質は老人のようだ。

 リライズ大学を出て、夕陽を浴びる。

 リライズに来て、そんなに時間が経ったのか。

 暇つぶしとしては最高の国だな。



「おーい! こっちですー! おーい! ……ゴンさーん!」



 ……まだ、声が聞こえる。

 早く反応してやれよ、可哀想じゃないか。

 俺も学生たちに倣って、声のする方向に顔を向ける。



 あいつ……俺を呼んでいるのか?

 そうとしか見えない人物。



「たぶん、ミミゴン様ですよ。あの老人が呼んでいるのは」



 影から、ツトムが囁いてきた。

 あの人影……まさか。



「ミミゴンさん! ミミゴンさんですよねー!」



 出会ったことを喜んでいる老人は走って、近づいてきた。

 ドワーフの特徴である小柄な体型、白い口髭。

 それから、あの時は着ていなかった白衣。

 いよいよ、ハッキリと見える位置にまで寄ってきた老人に声をかける。



「お前、確か……『未来来訪人類生活パターン環境アナライズチーム』のダダダンダダン・ダンダンじゃないか!」

「よく覚えていますね! すごいですよ、ミミゴンさん! 私の名前と所属をちゃんと言えたのは、二人目ですよ!」

「記憶力は、まあまあ自信あるんだよ」



 記憶を頼りに、というよりも口が勝手に喋ったといった感じだ。

 ダンダンは息切れして、肩が上下に動いていた。



「それにしても奇遇だな、ダンダン」

「本当ですね。ミミゴンさんは、この大学に何か用でも?」

「俺は見学だ。教育機関をつくってみたいと思っていてな」

「教育機関をつくるのですか!? なんと、それは素晴らしい! 雇っていただきたいほどですな」

「ダンダンは、なぜここに?」



 白衣を強調するように胸を張り、答えた。



「私は大学教授もしていましてね……専門は『歴史認識学』でしてな」

「『歴史認識学』……? 歴史を研究する学びとして捉えていいのか?」

「大雑把に言ってしまえばそうでしょう。ですが、視点が違います。ただの歴史学とは違うのです。ここで立ち話するのもなんですから……私の研究室に移動しましょう。大丈夫ですよ、今は学生たちはいないですし」

「本当に大学教授みたいだな。あんた、名前の割にすごいやつだ」

「ダンダンは筆名ですよ。名前なんてものは、どうでもいいでしょう。さあさ、権力で突破しましょう」

「権力で突破? あんたも『ヴィシュヌ』は……」



 小さい体ながらも、押す力は強い。

 流れるプールのように、逆らうことはできるのにじっと流されていく感じだ。

 再び、リライズ大学へと戻されていった。







 戻されたところで、俺には『ヴィシュヌ』がない。

 入出不可能な俺を教授は、どうやっていれるつもりなのか。

 簡単だった。

 ダンダンは、警備員と話して簡単に通してもらった。

 二人は、あのトンネルをくぐることなく、関係者以外立ち入り禁止と書かれた警備員室を通過して、大学内に入ることができた。



「私も悔しいですが『ヴィシュヌ』を入れています、ので……トンネルを本来ならくぐらないといけない。ですが、私は教授……いやー、初めてですよ。権力を振るうのは」

「なんか、すまないな。だけど、こんなんで通ったら……」

「セキュリティ対策なんて、表向きの理由ですよ。あのトンネルは『ヴィシュヌ』を入れさせるのが目的なんですから。『ヴィシュヌ』を体内に侵入させれば、個人情報を奪えますしね。国にとっては嬉しいことです。あのエレベーターに乗りましょう」



 俺の腕をがっと掴んで、ドワーフが引っ張っていく姿は子供に見える。

 そんなにしてまで、話したいことでもあるのか。

 大学内も、普通に大学感が出ている。

 私立の大学のように、お金をかけて”美”を求め行くデザインだ。

 私服姿、白衣姿のどちらかを着た学生……または研究員が歩いている。

 複数あるエレベーターの内、一つに乗り込んで22階に向かって上昇していった。



 最上階は35階のようだが、エンタープライズの80階と比べたら、ましな高さだ。

 何でも高けりゃいいってもんじゃないが……何というか、日本は高層ビルだとか高さをアピールしていることが多い。

 確かに目立つことは間違いない。

 高い場所から見る景色も最高なんだろ。

 俺は生きることを優先している人間だからか、災害時のことを考えて、マンションに住もうとは思わなかった。

 妻とも、相談して普通の一軒家にしたのだった。



「さあ、私の研究室でお話でもしましょう! いやー、聞いて下さるだけでも嬉しいです。今の学生は私の話を聞きたがらないのですよ。最初、私に憧れて来たというのに、半年もすれば嘘のように態度が変わってしまって……教授、大ショックです」

「あはは、そうか」



 リライズ大学。

 何かあるかと思って『危機感知』を発動していたのだが……一人、上の方から感じる。

 脳内をうるさく震わす誰かがいた。

 それってつまり、俺よりレベルが高いってことだ……嘘だろ。

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