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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
110/256

100 新都リライズ―6

「久しぶりね。……ミミゴン」

「エリシヴァ女王、相変わらず……お元気なようで。それで、俺を呼んだ用件は?」



 官邸の中でも、特に小さい部屋ではないだろうか。

 この部屋は、やたらと圧迫感を感じる。

 物は散らかっていない。

 それもそのはず、机はないし椅子もない。

 白い壁紙、黒い床と天井。

 何とも奇妙な部屋で、二人――ミミゴンとエリシヴァ――がお互い、壁を背にして立っていた。

 黒には圧迫感を与える効果もあるが、それよりもこの小さな部屋で、エリシヴァの放つ存在感が俺を押し潰す原因ではないかと思う。



「なんなんだ、この部屋。とても息苦しい」

「小部屋だけど、用途は……拷問よ。拷問だと感じさせない拷問部屋」

「わざわざ、拷問されに来てしまったのか俺は。悪いが……並みの拷問でも、あんたの拷問でも屈しないぞ。だって、悪い事してないから」

「もう一つの用途……外には言えない秘密を告白する、デートスポットでもあるわね」



 今日は白いドレスを着用し、長い髪もシュシュで髪留めしている。

 表に出るときの、エリシヴァはいつもこんな格好だと思う。

 まさか、本当にデート……?



「そんなわけないでしょう……こんな老婆とデートしたところで、あなたは捕まるわ。女王様誘拐の現行犯ね」

「だいたい、ここに俺がいるだけでも捕まりそうなんだが」

「まあ、脱獄なんて簡単でしょうね。そんなことは、どうでもいいの。用件を話すわ」



 かっこつけて、デートスポットとか言うからだろ。

 まあまあな大声を出しても、壁の向こうにいる相手には聞こえていないようだ。

 現に、さっきから人の往来が激しい部屋の前でも、誰一人として反応していない。

 壁の向こうを”覗く”ことができるスキル『ウォールハック』で、鮮明に見ることができる。

 近くのトイレとか脱衣所とかも、簡単に覗ける。

 ……興奮はしないな。

 服は透けるわけではないし、そもそも興味がない。



「ミミゴン……トイレのある方向見て、何してるの。話を聞きなさい」

「施設の中を見学している。あの丸くて、大きいテーブルがある部屋はなんだ?」

「会議室よ。それも”滅多”に使わない隠れた会議室。あの部屋、簡単なスキルでは視認できないはずなのに、凄いはね。そんなことはどうでもいいの。身を入れて聴きなさい」



 俺も悪かったと思いながら、エリシヴァの話に耳を傾ける。

 悩まされているような重い口を開いた。



「あなたに……傭兵派遣会社『VBV』を壊滅させてほしいの」

「最近よく聞く単語だな、傭兵って……それで、どうしてそんな依頼を」

「【名無しの家】の件、どうなったか知ってる? 私はエンタープライズの名を出さず、傭兵派遣会社の仕業だと世間に発表した。前から、傭兵は恐れられている。……既に傭兵による被害が、このリライズでも起こっているからね」

「このリライズでも? 影響力をもつ人物の暗殺だとか?」

「それもあるけど……この国で生まれた国民が、傭兵派遣会社に就職してるのよ。他にも、各地で誘拐が発生していたり……根深く侵入されているわ。それよりも重要なのが……世界が傭兵派遣会社を頼っているということよ」



 あのラオメイディア、かなり幅広くやってるみたいだな。

 グレアリングに、エンタープライズを認めてくれと言いに行った時も傭兵を派遣していたし。

 世界が傭兵を頼っている。



「グレアリングとデザイア帝国の戦争……それにも傭兵が絡んでいるのか」

「絡んでいるも何も……傭兵が戦争を引き起こし、継続させているのよ。……リライズが、潤うためにね」

「まさかとは思ったが、戦争ビジネスというやつか。リライズが依頼して、戦争を引き起こさせ、武器を買わせて……」

「……あなたを見て、確信したの。考えが変わった。戦争に頼らなくても、リライズは上手くやっていけると。利益のほとんどは、戦争によって生じたものだけど……私は戦争を止めたい。今、戦う相手は人ではない。私達、共通の敵は魔物。世界が……変化し始めている、あなたも感じていないかしら」

「さあな……この世界に来て、日は浅い。だが、魔物に異常な事態が起こっていることは聞いている。人類は元々、魔物を共通の敵として捉え、種族関係なく仲間として戦っていたそうだ。エリシヴァ女王、見直したよ」



 目の前の人物が放つ存在感、それは敵としての恐怖だったのではないか。

 俺は恐怖の正体を知った。

 相手を理解すれば、なんてことない……味方だ。

 この小さな部屋が不意に大きく感じた。



「ミミゴン、協力してくれるってわけね」

「ああ、壊滅させてやる。だが、どうして俺に……いや、エンタープライズに?」

「あなたに期待してるからよ。それに、リライズに軍事力は皆無。軍隊なんてないもの。戦争を仕掛けられたら、私達なんてすぐ終わるわよ。素晴らしい技術と、武器の提供が抑止力になってるだけ。だから、あまりドワーフを外に出したくないの。『ヴィシュヌ』も、そのためにある」

「あっ、そう。あと、質問したいことが一つある」

「何かしら。協力できることなら可能な限り、手伝うわよ」



 さっきから渦巻いていた疑心暗鬼。

 疑いの心があるから、何もかもが怪しく見えるわけだが……特にエリシヴァの覚悟。

 傭兵に頼らないという覚悟と、もう一つ。



「この依頼、俺はリライズの総意で生まれたものだと思っていたが……ゼステラド大統領がいないことから、もしかして……あんたの独断か? 誰にも相談せず、独断専行しているのか」

「……? 何か問題でもある?」

「あるに決まってるだろ。エリシヴァの信用に関わることだぞ。悪の傭兵派遣会社を倒すというのを何で言わないんだ。反対されるとでも……なるほどな」



 普通に考えたら、そうだよな。

 リライズの世論は傭兵派遣会社を許さないだろうが、その実、支えられてもいるのだ。

 国民は知らないから口にできる。

 だけど知っている者だっている。

 むしろ、そいつが。



「何、名推理しましたみたいな顔してるの。私は、まだやるべきことが残っているの。こんなところで死にたくはない」

「それで、あんたの敵は……ゼステラド大統領か?」

「違うと思うわ。……いいかしら、私の言う敵は【名無しの家】を襲うよう指示した者。それと、あなたを襲うよう指示した者。そいつを捕らえないと、私に自由な発言は与えられない」

「【名無しの家】を襲撃したのは、間違いなく傭兵派遣会社だ。エンタープライズを襲ったのも傭兵派遣会社だ。……今更ながら、ある疑問が生じた。なぜ、生まれて間もないエンタープライズを襲ったのか。全くと言っていいほど無名の国を襲うよう指示したのはなぜか、ということだが」

「あなたが持ってきた……『最高の魔石』。あれが原因ね。リライズで、エンタープライズの名を知っている者の中に”敵”がいるということよ。敵に関してはある程度、絞れているわ」



 もう、目星が付いているんじゃないか。

 そう思うほどに、目の前の人物は厄介だ。

 それゆえに、味方となれば頼もしい限りである。



「ミミゴンは傭兵派遣会社を壊滅させて。そうなれば”敵”が尻尾を出すはずよ。そこを捕らえるわ」

「一人で大丈夫か?」

刑事警察機関(シトロン・ジェネヴァ)に親しい友人がいるの。あの人なら信頼できる。こっちはこっちでやるから、あなたも早く行動してね」



 シトロン・ジェネヴァに友人。

 この国の警察だったな。

 まあ、エリシヴァが信じているのなら大丈夫だな。

 エンタープライズに戻って、傭兵たちの情報でも集めるか。

 本気のエンタープライズでかかれば、怖くとも何ともない……はず。

 戦争屋ではないが、無駄に力がある。



「エリシヴァ女王……俺たちに依頼したのは正しいと思う。さすがの判断力だ。尊敬する、じゃあな」



 扉を開けて、退出しようとしたとき。



「シトロン・ジェネヴァは『VBV』を壊滅させようと躍起になっている。私が頼んだけど、彼らでは無理がある。この国で最も強い組織だとしてもね。彼らにバレないよう行動してちょうだい。それから、シトロンに用事があるなら私に連絡しなさい。その方が、スムーズに事が運ぶわよ」

「助言どうも。それほど期待しているということだな、任せておけ」

「ついでに、リライズに来たんだから大学に寄っていくといいわ。この国、最高峰の教育機関よ」

「そんなとこ行って、何になる。勉強はもう、こりごりなんだ」

「まるで、もう卒業したみたいな言い方ね。あそこは、あなたにとって有意義な時間を過ごせるはずだわ。暇なら覗いて欲しいの」



 何が狙いだ?

 エンタープライズに教育機関は欲しいが、参考にしろと言ってるのか。

 それとも。



「『ヴィシュヌ』を入れろと?」

「あら、見抜かれたわね。あなたを国で管理できれば、便利に使える奴隷になっていたんだけどね。残念だわ」

「大学と『ヴィシュヌ』の関係は良く分からないが、一回だけ見学させてもらおうか」

「賢くなったあなたに、また会いましょう」



 言葉が耳に入ったのを確認して、扉を開けた。

 幸い、人は歩いておらず見つかることはなかった。

 リライズ大学ねぇ……あまり行きたくないな。

 それでも、エンタープライズには教育機関が必要なんだ。

 参考になるところは見て盗んでいくか。

 傭兵派遣会社の壊滅……簡単に解決できるだろ。

 そう思ったことで余裕が生まれ、リライズ大学に向かう空飛ぶタクシー「エリカゴ」に乗り込んだ。

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