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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第五章 傭兵派遣会社壊滅編
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99 新都リライズ―5

「また、ミミゴン様一人か! 護衛が必要だろ! 俺が引き受ける!」

「……僕もです! このシアグリースが強く希望します! もちろん、僕の命を懸けてお守りいたします!」

「お前らなぁ……ちょっと出かけるだけじゃねぇか! どこまで、心配性なんだ!?」



 今日、新都リライズの中央を占めている官邸に訪れる予定だ。

 が……護衛やら何やらで、全然出発させてもらえない。

 正直、誰でもいいから早く行きたいんだけど。

 玉座の間で騒々しくしているのは、トウハとシアグリースだった。

 乱闘になりそうで、ビクビクしているのだが、気づくことなく言い争っている。

 だいたい、俺一人で何とかなってきただろ。



「もう構ってられん。テレポ……」

「――させるかぁ!」

「アブなっ!? トウハ、お前……」

「トウハさん、やりすぎでしょう! というわけで、僕に任せてください」

「どういうわけだ、この野郎!」



 『テレポート』しようとすれば、斧を振り下ろす。

 当たれば、即死レベルの威力を誇る斧をだ。

 トウハ、シアグリースはエンタープライズの中でも、最強クラスに位置する兵士だ。

 正直に言うとだな……俺より強くなりそうなんだ。

 俺のレベルは101。

 対して、こいつらは90前半に差し掛かってる。

 先月会った、クラヴィスのレベルもおかしかったけど。

 【名無しの家】での事件から、こいつら……というか兵士がかなり強くなってる模様だ。

 皆、負けじと鍛え上げているようで、最近ではラヴファーストの注意も聞かずに、魔物を勝手に狩っているらしい。

 ダメだろ、教官の指示を無視するなんて。

 エンタープライズ崩壊の予兆とさえ思ってしまう。

 お前らの安全を思って、ラヴファーストは注意しているわけだ。

 ということで、昨夜ラヴファーストに相談したのだ。

 もうじき……くる。



「おい、問題児。付いてこい」



 ラヴファースト、ナイスタイミング!

 さあ、二人とも連れて行ってくれ!



「トウハさん、呼ばれていますよ」

「バーカ、シアグリースだよ。お前、何かやらかしただろ」

「やらかしていませんよ、何も! それを言うなら、トウハさんでしょ!」

「お前ら、二人だ……」

「あ、そういうことか。シアグリースと、ミミゴン様だな」

「そんなわけないでしょ! トウハさんとミミゴン様です!」



 何で、しれっと俺を入ってんだよ!

 お前ら、二人だよバカ。

 特にシアグリース、お前は常識人のはずだろ。

 ラヴファーストは指示を聞かない二人に呆れ、近づいていく。

 トウハとシアグリースはお互いに押し合って、ラヴファーストに寄せようとしている。

 ラヴファーストは、そのまま……二人の首根っこを鷲掴みにして引きずっていった。

 二人はラヴファーストの腕を叩いているがビクともせず、やがて顔を真っ赤にして力尽きてしまった。

 そうして、扉は静かに閉まっていく。

 護衛として、付いていきたい気持ちは分かるんだが。

 単に、新都リライズに行きたいだけなんじゃないのかと思わされた。



「私から一つ、進言させてください」

「なんだ、ニコシア。お前まで連れていけというのか」

「やはり、護衛は必要かと。ちなみに私は別に行きたいとは思っていませんし、はい全然。化粧品が買いたいとかは考えていませんし」



 めちゃくちゃ震えているぞ、ニコシア。

 隣に立っているメイドの手足が小刻みに震えている。

 唇を噛んで堪えているようだが……おい、下唇から血が出てるぞ。

 そんな行きたいのか?

 新都リライズに行きたいという顔をしているような気がする。

 俺の事を守りたいなんて、微塵も思っていなさそうな表情だ。

 休暇は申請すれば、すぐ取れるのだから遠慮なく言えよ。

 しかし、護衛ねぇ。

 普通に考えて……いらない。

 ぞろぞろ連れて、エリシヴァ女王に会うってのも考えものだ。



 よく見ると、ニコシアは疲れているみたいだ。

 無理矢理にでも休ませてやりたい。



「ニコシア、疲れてるみたいだな」

「えっ!? 疲労など全く……」

「いーや、精神的に疲れているはずだ。別に恋愛したっていいんだ。現を抜かしても……」

「ミミゴン様、あなた様がお疲れのようですね。私に恋愛などできるように見えますか? 私は、ミミゴン様のお側で支えるためだけに生まれてきた存在」



 泣けてくるよ……その反応は。

 はなから諦めた様子で語ってくる。

 冷静に考えて、たぶん普通の男性ではダメだな。

 エンタープライズの恋愛事情も考えるべきなのか。

 城内に漂う雰囲気が常に引き締まっているせいか、恋愛に関する噂を聞いたことがない。

 クラヴィスみたいに、無理矢理してもいいからさ。

 護衛はいらないと、ニコシアに納得してもらうには……脅す。



「婚期……逃すよ?」

「ハッ!? ずるい! ミミゴン様、それはずるいです!」

「結婚式、挙げるのが夢……なんだろ? ノウアに、しょっちゅう相談してたみたいだな」

「ファーザー・ノウア……あとで殺す!」



 ニコシアの膝が、ガクガク震えてきている。

 そもそも、このエンタープライズでちゃんとした恋愛をしているやつはいるのか?

 なんか、エンタープライズに移住している者は、恋愛感情を失っているようにしか見えない。

 いい年して、恋バナとかは聞きたくないが、国として見過ごすわけにはいかないな。

 恋愛も満足にできない国なんて、誰が住むか。

 この国は、全員恋愛してたって機能するはずだ。

 ……リライズに行けないな、こんなこと考えていたら。



「護衛……なら、僕にお任せください。ふふふ……と」

「だ、誰だ!?」

「戦闘準備!」



 突如、玉座の間に男の声が響き渡る。

 ニコシアがさっきまでのネガティブから一瞬で立ち上がったのを見て、俺は感動してしまった。

 メイド達は、ニコシアの指示で武器を片手に構えている。

 メイドの武器は銃器のようだ。



「出てきなさい! ミミゴン様のお命、簡単には取らせませんよ」

「僕ですよ、僕……ツトムです」



 ……窓から、すり抜けて現れたのは吸血鬼のツトムだった。

 どっから現れてんだよ。



「何のために、扉がついてるか……知ってる?」

「失礼いたしました、ミミゴン様。それより、僕に護衛させてください」

「隣でお前が歩いていたら、俺まで捕まっちゃうよ」

「大丈夫です! 護衛にピッタリのスキルを獲得したので。見ててください……『潜影』!」



 唱えた途端、ツトムの姿形は地面に沈んで黒い影となり、泳ぐようにして俺の影と混ざり合った。

 そう、本当に混ざったのだ。

 影となったツトムと、俺の真下に存在する影と。



「ね、これなら隣で歩く必要はありません。私の気配にも気づきにくいので、ミミゴン様一人だと思っていたら、僕もいた……という驚きを与えることができますよ」

「なるほどな……今、俺が襲われかけていたとしたら?」

「このように!」



 俺の影から、ツトムの実体が勢いよく飛び出し、両手に短剣と拳銃を構えている。



「そして、僕の登場によって生まれた隙を突いて……抹殺します! 吸血もします! 暗殺も得意ですよ!」

「よし……採用!」







「ここが新都リライズですか……すごいですね。グレアリングとは、全く違います」

「静かにしてくれ。影に潜んでいるといっても、声は聞こえるのだからな」



 中央官邸前。

 新都リライズは、前と変わらず……ドワーフと人間がビジネススーツを着て、鞄を片手に持って、スマホを耳に当てて電話したり、誰かとメッセージを送ったり。

 俺も溶け込めるよう、スーツを着た人間の姿だ。

 前も思ったけど、日本の都会の景色と同じに見える。

 強いて言えば、エリカゴという空飛ぶタクシーと鍛冶屋とかがあることかな。

 それが異世界っぽい。

 もうちょっと、未来的にはできなかったのか。



「ミミゴン様……やたらと注目されていませんか? 周りの人の目線が、ミミゴン様に」

「ああ、たぶん……あれだろうな。ツトムは、いざとなったら……皆殺しする覚悟もしておけよ」

「もちろん、グレアリングでの”吸血鬼”は常に忘れずにいますよ……」



 ツトムも感じた視線は当然、俺にも分かっている。

 忘れていた……『ヴィシュヌ』という存在を。

 こいつら、血中に『栄養』として体内に取り込んでいる。

 ヴィシュヌは確か、相手の”簡単”な個人情報にアクセスし、安全を確保することができる代物。

 更には、健康と美の追求ヘルスコンシャスをも完備した……完璧なシステム。

 まさに、新都リライズは安全と健康で覆われた傘である。

 戦闘しない奴らにとっては、十分すぎる物だろう。

 何も知らなかったら、俺も入れているはずだ。

 だけど、ダンダンの言う通り……国に管理される。

 機能の一つに「社会評価」というのがあり、簡潔に説明すれば……このリライズで活躍できない者は追放されるという、言わば「選民」が行われる機能である。

 神は国家であり、神は特別な存在を選べるのだ。

 そりゃ、リライズは発展するわけだ。



「ツトム……”静か”に頼むぞ。本当にな」

「任せてください……」



 官邸に向かって足を進める。

 同時に、ツトムは警察に通報しようとする連中のスマートフォンを”こっそり”と壊す。

 音もなく忍び寄り、音もなく中身を破壊して、音もなく去る。

 誰にも、その存在を確認されずに。

 さすが、ツトム。

 ……俺よりレベルが高いだけあるな。

 レベル……140だったっけ。

 試しに『危機感知』をオンにしてみると、脳内をうるさくされた。

 足元からとてつもない警告がされ、すぐにオフにした。

 グラウンディング、本気でツトムを『領域管理者』にしたいみたいだな。

 あいつ、もうすぐ死ぬというのか?

 うーん、考えないとな。

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