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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第四章 エンタープライズ躍動編
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時代に対応

「今、渡した紙に目を通しなさい。理解できたものから、ドワーフがつくってくれた道具を持って設置よ」

「「「ハイ!」」」



 エンタープライズの一階。

 広いロビーには、メイド達がぎっしりと並んでいた。

 メイド長ニコシアは、横に置いている……電子レンジ、掃除機、テレビ、冷蔵庫など家電製品が整列した場所に目を向けながら、正面のメイドに話す。

 今から行われるのは、各部屋に家電製品を設置すること。

 エンタープライズの王様ミミゴンが、リライズに許可をもらったことで可能になった便利。

 ドワーフたちが、大喜びで作業をして完成させた家電の性能は心配ない。

 電気に関してもドワーフ達が完成させた。

 電力系統はバッチリである。

 通信システムも整え、テレビにはリライズで放送されている内容が遠く離れたこの地でも見ることができるのだ。



「私達も行くよ、リィン!」

「はい、ヴィナ先輩。私達は、オルフォード様のところですよね。この……プリンターというのを配置するんですね」



 無機質な白い箱を両手で抱えて、新しくできたエレベーターに乗り込む。

 1階からミミゴンの部屋がある最上階まで貫く昇降機。

 4つ用意されており、ある程度の人数が乗ったのを確認したメイドがボタンを押して、1階ずつ昇って扉が開閉する。

 鬼人のヴィナと人間のリィンがペアとなって、目的の78階でエレベーター内から出る。

 78階には、情報の取り扱いを専門とする『エンタープライズ情報調査管理本部』が存在する。

 最高情報責任者のオルフォードが中心となって、日々各地の情報を収集、活用しているようだ。

 エンタープライズの中で最も働く人が少ない場所でもある。



「私、オルフォード様が苦手なんですよね」

「リィン、決して口にしないようにね。あの人、怒らせたらきっと大変なことになるから……」

「聞こえておるぞ!」

「「ぁー! オルフォード様! 申し訳ございません!」」



 二人の謝罪は、扉の前に立っていたオルフォードにされた。

 見るからに不機嫌な顔をして、メイドを睨む。



「くぅ! ニーナにはバカにされる、メイド達の間でも嫌われる! 噂はちゃんと耳に入ってきているのだぞ! 聞こえていないとでも思っていたのか、間抜けっ! それに、ワシたちにそんな道具、不要だ! さっさと帰れー! ばーか、ばーか!」

「ほらね、リィン……」

「ええぇ……」

「帰れ! ここは機密情報が大量じゃあ! 一文字も見せてやるものか、あほあほ!」

「なんなの、これ……」



 しまいには”これ”呼ばわりされたオルフォードだが、変わらず悪口を垂れ流し続ける。

 帰れと言われても引き下がることはできず、メイドは仕事をしなければならない。

 ヴィナは、申し訳なさそうに述べる。



「あのぅ、プリンター置いていくだけですから」

「ダメじゃ! 部屋に一歩でも入れさせるか」

「こうなったら……」



 リィンとヴィナは頷きあって、事前に考えていた計画を実行した。

 それは。



「突撃させてください!」



 二人はプリンターをしっかりと胸の前で抱きしめて、扉に突っ込んでいく。

 そのあまりの速さにオルフォードは追い付けず、侵入を許してしまった。

 それが、さらに激怒させた。



「かぁー! このワシの命令にも逆らい始めたぞ! ミミゴン、どうなっておるんじゃあ!」







「さてと……どこに置きましょうか」



 リィンは冷静に辺りを見回す。

 赤いじゅうたんが敷かれ、磨かれた重厚な木の机がきれいに設置されていた。

 他と同様、広い部屋ではあるがその広さが人の少なさを強調する。

 20名ほどしか、この部屋にはいなかった。

 不人気の職場と言ってもいいかもしれない。

 オルフォードというリーダー、情報を扱うといった頭脳を求められる。

 そして、メイドの噂通りで二人は困惑した。

 床には集団となって紙がばら撒かれ、それを拾いながら机を整頓する職員がいた。

 ある日の休み時間、ここを掃除するメイド達が不満そうに、こう呟いていたのを思いだす。



「掃除しても、次の日には元通り。しかも、オルフォード様一人の仕業よ。職員は満足に調べることができないって愚痴ってたわ」



 高級な机には、山積みとなった資料で溢れかえっていた。

 職員が拾っては机に戻すという仕事を続けていた。

 オルフォードは、鼻をほじりながらメイドの二人を睨んでいる。



「その、プリンターとかいうのはそこらへんにでも置いておけ。お前たちがいなくなったあとで、捨ててやるだけだ」

「なんで、そんなに家電製品がお嫌いなんですか?」

「環境が変化し、ワシがついていけないからじゃ。それに、職員の連中も困るじゃろ。のう?」



 オルフォードの目は、あくせくと床の紙を手に取る職員に向けられた。

 嫌な視線を感じ取った職員は顔を上げ、オルフォードの言葉に嫌々肯定する。



「なんか怖いよ、ヴィナ先輩。圧力を感じるよ!」

「職員さんの表情が、やばいね」

「ほらみろ、ほらみろ! やっぱり今まで通りが一番というわけだ! ガーハッハッハッ!」



 明らかに聞く者を怯えさせる笑い声が響き、職員たちは困った顔をしてオルフォードを見つめていた。

 そして、勝ち誇ったような声を出して宣言する。



「デジタルなんぞに頼るものか! リライズのドワーフは悔しいじゃろうなぁ!」

「あら、オルフォード。家電を導入しないなんて、あなたにしては頭が悪いのでは?」

「あん……?」



 オルフォードの背後から、圧を伴った声を発した人物。

 振り返った先には、アイソトープがいた。

 いつもと変わらず、艶やかなメイド服を着衣している。

 アイソトープは無表情を貫き、視線はオルフォードに向いているものの凍てついた怖い瞳がそこにあった。

 もちろん、オルフォードはこれに臆さず、軽く笑う。



「アイソトープ……お前も、アナログな人間じゃろ。ワシらは、昔からの方法で慣れておるじゃろうが」

「私がいつ、アナログ人間だと発言しました? この、スマートフォンをご覧ください」



 パッと開いた手のひらには、スマートフォンが握られている。

 電源ボタンを押すと、画面には……リライズで有名な動画共有サイト「NEWTUBE」が表示されていた。

 何かの動画を見ていたようだ。



「お前も堕ちたのう。時代に抗うこともできなくなったとはな」

「時代には流れがございます。流れの本質は、人々の生活を便利にすることですよ。このスマートフォンというのは、まさにデジタル時代をつくりだした革命児です。よーく、ご覧なさいませ。電話機能の他にネットに繋げば、ゲームはもちろんのこと……あなたが生業としている”情報”についても取り扱われているのです。あら、なんということでしょうか。いちいち、あなたに聞かなくても”スマートフォン”が、簡潔に、分かりやすく、教えてくれるではありませんか」

「なにぃ? ワシの説明は難解で理解しにくいとでも言うのか!」

「おっしゃる通りです。もう、エルドラ様がいた時代とは異なります。あなただけが、取り残されているのですよ。時代に抗えていないのは、そちらのように思えますが」

「――究極スキル『完全制圧司令塔』!」



 床を突いていた杖が、アイソトープ目がけて飛んでいく。

 オルフォードは全力で振り回し、頭に命中させにいった。



「オルフォード……あなたは戦闘向きの能力ではないでしょ。大人しく引っ込んでいなさい。そして、デジタル人間に進化しなさい」

「アイソトープよ、お前はできるメイドだと思っておったのじゃが。今はもう、その面影すら見受けられんぞ!」



 語尾を強め、かわされた杖を再び構え、アイソトープを襲う。

 オルフォードの持つ究極スキル『完全制圧司令塔』は、触れた相手の全てを操ることができる効果を杖に付加させる洗脳系スキルの極みである。

 素早く振り回される杖の乱撃を、アイソトープは華麗に避けまくる。



「あらあら、あなたと同じ愛国者である私に乱暴するとは。エルドラ様がおられたら、きっと大激怒される光景ですよ」

「ふん! エルドラも、アナログな奴じゃ! お前はデジタル、ワシらはアナログ。どういう意味か、分かるか? お前は愛国者ではないということじゃ!」

「なら、エルドラ様に訊かれてはいかがでしょう? さて、どちらに味方するか楽しみですね」



 リィン、ヴィナは目の前の状況についていけず、啞然としていた。

 言うまでもないが、ここの職員もだ。

 杖がアイソトープを襲っているのは分かるが、目で捉えることなど不可能な速さで乱れ突き。

 白いメイド服の残像しか捉えることしかできなかった。



 長く感じた攻防が終わり、それでも両者は息を乱さず佇んでいた。



「アイソトープ、いい加減認めんか」

「いえ、あなたは部下を束ねるリーダーのはずです。皆、あなたではないのです。職員をよくご覧ください。あなたの我がままに我慢しているのが見えるはずです」

「途中で切り替えるのは、かっこ悪いぞ。あいつらの弱った心には、アナログで鍛えなおさねばなるまいのだ! 現代の人間はメンタルが弱いのじゃぞ! お前の部下もそうじゃろ!」

「根性論は古いですよ。時代に合わせた生き方があるのです。私の指導は『強制』ではなく『自発的に』を大切にしています。あなたの厳しい環境には耐えることができず、結果としてエンタープライズが潰えることになります。なぜ、デジタルという言葉ができたか。便利だからですよ」

「デジタルにも危険はあるじゃろが」

「技術によって生まれた危険を回避するのもまた、技術ですよ。このプリンターを導入すれば、経済面はもちろんのこと時間的余裕も生まれます。あなたが食堂で食べている料理、あれもスマート家電によって調理された物ですよ。スマートフォンから、手軽に調理できるのです。そんなに嫌いなら、食堂に来ないでください」



 まさに言葉と言葉の、ぶつかり合いである。

 アイソトープにかなりの説得を浴びせられても、オルフォードはまだ反論する。



「そんなものに頼っていると体が弱るぞ!」

「それも技術で解決です。ドワーフ達が屋内運動場も造ってくれたのですよ。最新技術で、メイド達の身体を強化しています。あなたも一度来られてはいかがでしょう。あ、それとここの職員もたまに来ていますよ」

「なにー! 誰じゃー! 外で運動しろ! そして魔物に食われろォ!」

「ここには、あなたより賢い方がいらっしゃいます。どうぞ、1階の【空想科学型トレーニングジム】にお越しくださいませ。もちろん職員の皆さまも大歓迎です。可愛いメイドがサポートしてくださいますよ」

「ふざけんなー! そうだ、ラヴファーストだ。ラヴファーストのところは、そんなものに頼っていないだろう」

「俺たちも使わせてもらっている」

「ラヴファーストもか!? お前も、やられたのか!」



 黒スーツに高身長のラヴファーストまで現れ、場は混乱し始めた。

 リィンやヴィナも、まさか超人三人集まるとは思っておらず、脳天の一撃を食らったかのように動かなくなった。

 本来、アイソトープやラヴファースト、オルフォードなど皆から超人呼ばわりされている三人が一堂に会するなどよっぽどのことがない限り、有り得なかった。

 今は、よっぽどのことが起きているのだ。



「いや、普通にジジイの我がままが発動してるだけだよね。よっぽどって」

「しぃー!」



 リィンのツッコミを、人差し指を口に当ててヴィナが黙らせた。



「ラヴファースト! 機械ごときで、強くなれると考えているのか! お前も堕ちたのう!」

「”機械ごとき”というセリフ、ミミゴンに対しても言えるのか?」

「オルフォード、あなたの言動……とても目に余るものですわ。特に、あなたに部下ができた時から。エルドラ様の時代は、ちゃんと部下に対しても優しかったですよね」

「うるさいわ、二人とも! 言っておくが多数決で決めようなんてダメじゃぞ! 『ミルの警句』を知っておるか! そもそも『エンタープライズ情報調査管理本部』は、ワシの領域じゃぞ! ワシの勝手にしていいのだ!」

「ラヴファースト、ミミゴン様に訴えましょう」

「そうだな。さすがに今の発言は上に立つ者の言葉ではない」

「よし、訴えられる前にミミゴンを殺す!」

「ラヴファースト、ミミゴン様をお守りしましょう」

「任せてくれ、アイソトープ」







「で、なんで……『エンタープライズ情報調査管理本部』が爆発したわけ?」

「申し訳ございませんでした、ミミゴン様」



 アイソトープ、ラヴファーストが跪き、頭を下げていた。

 横に、オルフォードもいたが反省の色は見られない。

 あの後、騒ぎは拡大し……遂には部屋が爆散した。

 せっかく職員が積み上げた資料の山は、粉々になり。

 職員やメイドも巻き込んで全員、新しくできた集中治療室に収容された。

 皆レベルが高いため、被害は少なかったが……今まで集めた情報が全て消え去ったのだ。



「ミミゴン! ワシらが集めたデータがぁ! こいつら反アナログ派のせいで!」

「オルフォード……また爆発させる気か、俺の部屋で」



 豪華な玉座、エアコン、ベッド、本棚が揃い、王様に相応しい煌びやかな部屋である。

 ミミゴンは頭を抱えて「教育に力を入れるべきか」と呟いた。



「努力の結晶が消えてしまったぞ! どうすればいいんだ、ミミゴン!」

「……高性能パソコンを用意しろ。職員の数だけでいい。部屋とその他、電化製品も。職場を改善しよう。あと、オルフォードは独房に入れろ」

「まともなのは、ワシだけか!」

「いや……お前、まともじゃないよ。あと、職員たちに伝えておけ。データはちゃんと、バックアップしとけ……と。オルフォード……バックアップしていれば、こういうことが起きてもデータの復元が可能になるんだ。だから……」

「――なに!? そんなことができるのか! よし、ワシもデジタル人間になるぞ! どんどん導入してくれ! 最新技術を!」



 こうして、エンタープライズは進化した?

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