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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第四章 エンタープライズ躍動編
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97 シュトルツ村:ゼゼヒヒ―21

 マトカリアの母親は盛大にぶちまけた……胃の吐瀉物を。

 『テレポート』を使い、魔物のいない草原で吐かせて、再び村に瞬間移動して寝させた。

 マトカリアの家で、そっとさせておこう。

 また、マトカリアのもとに戻って、村の様子を眺めることにした。







「クラヴィスさん……マトカリアさんがいなくなると」

「村、唯一のハンターですからね。村は特殊な結界で護られていても、草原の魔物が多くなってしまいますね」



 二人はあまり酒を飲んでいないようで、真剣な表情で話し合っていた。

 村の結界って言っていたが、そういうことか。

 なぜ、いくつものある村や街が襲われないのか。

 結界とやらで侵入させないようにしていたんだろう。



〈結界師と呼ばれる職業があって、村の結界が張られるわけですー。結界師は解決屋のハンターでもあることが多く、副業として結界を張っているようですー〉



 俺の目には見えないが、何かしらのスキルで護られているのだろうな。

 トラヒメナ草原の魔物が多くなれば、この村に向かう行商人などに被害が出る。

 ハンターは、どの村にもいてほしいだろうが。

 マトカリアは、エンタープライズに行くと言っている。

 そのことで、クラヴィスたちは頭を悩ませているのだ。

 いや、思ったほど悩んではいないようだ。

 クラヴィスは提案をする。



「僕のところから、ハンターを派遣しましょう。これで解決です」

「しかし、自分が言うのもなんですが……かなりの辺境ですよ」

「大丈夫です! やる気は、すごいですよ!」



 なんか不安になる、やる気だな。

 インドラも喜びたいけど、不安を隠しきれない表情でいたが素直に感謝して受け入れることにした。

 クラヴィスは誰かと『念話』しているのか、口が開いたり閉じたりしていた。

 これで、この村とはお別れだな。



「あのぉ、ミミゴンさん」

「ああ、マトカリアか。母親なら、家で寝ているはずだ」

「あ、ありがとうございます。それよりも……」



 マトカリアは何かを抱いていた。

 暗い影でよくわからない。

 両手で捕まえていた何かが持ち上げられ、松明の火によって露わになった。



「吾輩に用があるみたいだが、なんだ?」

「ゼゼヒヒちゃんを連れてきました」



 白い毛に覆われた猫。

 不機嫌のように見える顔で、俺に向けていた。

 この猫は、たぶん……頼まれていたやつだ。

 聞きたいのは、名前。



「お前の……名前を教えてくれ」

「ゼゼヒヒ……吾輩の名は、ゼゼヒヒ・オワリノハジマリだ」



 お前がそうか。



「マトカリア……ゼゼヒヒを離してやってくれ。こいつと話したいことがあるんだ」

「分かりました!」



 ゆっくりと抱えていたゼゼヒヒを下ろして、地面に足を着ける。



「話したいこととは?」

「とりあえず付いてこい。いちいち説明するより、面倒が省ける」



 ゼゼヒヒの頭に手を当てて、スキルを唱える。



「『テレポート』!」







「ここは……真っ暗でよく見えんな」



 赤い瞳孔を大きく開けて、辺りを見回す。

 それもそのはずだ。

 暗闇に放り出されたような環境だからな。

 あいつも、よくこんな中で活動できるものだ。

 数百年以上、閉じ込められているだけあって慣れているのだろうな。

 というわけで、あいつを呼ぶか。



「ゼゼヒヒ……お前の飼い主に会わせてやる」

「飼い主だと? ……まさか、この匂いは。いや、有り得ない」

「――エルドラ! エルダードラゴン! 起きろ! 連れてきたぞ!」



 直後、ゼゼヒヒの姿が消える。

 あまりの一瞬に、しばらくさっきまで居た場所を見つめていた。

 後ろから、苦しそうなゼゼヒヒの声が聞こえて、振り返ると。



(おおー! ゼゼヒヒがいるぞ! この毛、うーん! なでなで……)

「この声、やたらと腹を触る撫で方……本当に御主人様!?」

「……エルドラ、なのか? いや、俺自身も不安になってきた」



 目の前に……人間がいる。

 白髪、皮膚も老いていると一目で理解できる。

 しかし少年のような元気さを見せつけ、髪も豊富で後ろで結んでいるほど長い白髪。

 オルフォードは確かな老人だが、これは。



(ミミゴン、本当に嬉しいぞ。やっぱり、猫を撫でるときは人の姿が一番だ!)

「エルドラ……人の姿を見れるとは思ってなかった。カッコいい初老だな」

(かなり努力したぞ! これ以上、若くは厳しいがスキルを活用してヨボヨボの爺さんになるのは避けた)

「御主人! 離せ! 息苦しいぞ!」

(すまんすまん、ほい)



 拘束が緩くなった途端、体をねじって冷たい地に四足で着地した。

 その後、見上げながらエルドラを確認する。



「御主人、老けたな!」

(あれから、1000年以上だ! 老けるに決まっておろう! ゼゼヒヒは……何も変わっておらんで安心したぞ!)

「変わっていないか。御主人、気づいていないだろうが吾輩……幽霊になった」

(うーん? おお、本当だ! 我は幽霊を掴んでいる! ミミゴン、写真を撮れ! Witterでバズる写真だ!)



 Witter? バズる?

 写真を撮れと言われても、カメラがない。

 まあ、撮っても撮らなくてもいいだろ。

 幽霊といったって透けるわけではない。

 それに、ゼゼヒヒに夢中のようだ。



「……毎晩、悪夢が襲ってくる。まるで、現実かのように……眠っていても。目が覚めて、本当の現実に帰っても次は幻覚が襲ってくる。吾輩は生きているのか、死んでいるのか。吾輩は思い出を……御主人との……”最期”の思い出を、殺した。もう、あの頃の事は……頭にないんだ」

(……仕方のない事だ。あの青年は、最強と呼ばれた我を封印したのだ。ラヴファーストも、アイソトープも、オルフォードも……マルスルリール・バンバンバーン、ミリミリ・メートル、イーデン・ラストフォールも。部下もみんな、やられたのだ。生き残りがいるのか、我は知らない。だが、イーデンは……)

「御主人……イーデンのやつは」



 イーデン……何か、あるのか。

 俺は見ていないが、その戦いには多くの犠牲があったのだ。

 思い出話が尽きないだろうな。



(ゼゼヒヒも……まさか生きているとは思ってなかったのだ。ちょっと来てほしい)



 エルドラは、この暗闇の中を歩いていく。

 少しでも距離があれば、闇に飲まれ見失いそうだ。

 俺は『暗視』の効果が発動してきたのか、徐々に明るくなっていくがゼゼヒヒはどうだろうか。

 ゼゼヒヒは、エルドラの後をピッタリと付いていく。

 やがて、辿り着いた場所には。



「墓石……が二つ」

(ゼゼヒヒ……すまない! お前は死んだものだと思って供養してしまったのだ)



 墓石と思われる白い石碑が二つ並んでいる。

 おそらくエルドラが、スキルでつくったのだろう。

 墓石には名前が彫られていた。

 ゼゼヒヒ・オワリノハジマリと……イーデン・ラストフォール。

 さっきの会話に出てきた名前が、そこには刻まれていた。



「イーデン・ラストフォールって何者だ?」

(我が認めた最高の医者で薬師だ。世界中から、治療してもらうために病人が殺到したこともあったなぁ)

「イーデンだけが持つ……イーデンという人柄を表す究極スキル……それが死んだ吾輩を、瀕死の皆を救った」



 イーデンの究極スキル、俺の推測では……自己を犠牲にして味方を回復、または蘇生するスキルではないだろうか。

 ゼゼヒヒは幽霊となって生き返り、ラヴファーストたちは回復。

 なるほど、だから墓が建っているわけだ。



(ゼゼヒヒよ。我を……許してくれ! 今はもう……力を失ったが、それでもまだやり残したことがある!)

「御主人……吾輩は許す。いや、吾輩は変わる。今から!」



 そう言うと、ゼゼヒヒの首輪を手で器用に……そして引きちぎった。

 水晶の付いた首輪は、遠くへと飛んでいき闇に飲まれてしまう。



「もう、麻薬は不要だ! あんな薬……二度と頼ってたまるか! 吾輩は幽霊でもない! 未練なんてない! これから夢をつくる、そして実現する! 失ったものを拾わない、新たに手に入れてみせるぞ! 吾輩が動くこと……光栄に思うがいい!」

(ゼゼヒヒ! 我も協力しよう! 共に夢を実現するぞ!)



 お前ら……一気にテンションが高くなったな。

 【英雄の迷宮】で、はしゃぐ猫と龍人がそこにはあった。

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