1 機械の始動・帝龍王の指導
《スキル『ものまね』を獲得しました》
脳に響く誰かの声で目が覚めた。
虚ろな目を開けると、真っ暗闇だった。
あれ、もう夜か?
そんなに寝たはずは、ないんだが。
横にある目覚まし時計で時間を確認するか。
あれ?
手が動かない?
いや……無い。
手が無い。
足……もない。
頭も無さそうだ。
おいおいおい!
それらが動いている感覚がない!
人間じゃ、ない?
これじゃあ、外に出れないじゃないか!
目が慣れてきたけど、正面に何かが……。
(ん! 動いている! ということは)
でっかい何かが喋ったのか?
低いが迫力のある声だ。
だけど、耳で聞いたのではなく脳に響いている。
さっきも「ものまねを獲得した」とかで脳に声が聞こえたが、あれと同じ感じだ。
俺の5倍ぐらい大きい巨体が立ち上がったみたいだ。
立ったことで、更に大きくなった。
5倍どころじゃないな、これ。
(よっしゃー! 完成だー!)
「うるせー!」
こいつの声は、大地を揺るがすほどの騒音だった。
まず、こいつ何?
身長は4メートルぐらいか。
巨大な手足も、人間と同じようにそれぞれ2本あって。
翼? も、でかくて。
頭は龍みたいな角が2本生えていて、細長い髭みたいなのも鼻の下から左右に2本生えていて……。
とにかく、龍っぽい。
なんだよこれ、どうすればいいんだろう。
「おい、お前は誰なんだ。俺の部屋から出ていけ!」
(おー! 喋った! 音声も、ちゃんと出力されてる)
「聞いてるのか、でかい奴! どこの誰だか知らねーが、こんなもんでビビる男じゃないぞ、俺は」
(これは、すごいんじゃないか! ドワーフにも引けを取らない我のロボット!)
ぜんぜん話が通じない。
言葉のキャッチボールしてる?
言葉のドッジボールしてないか。
それによく見たら、俺の部屋じゃない。
あちこちに何か転がっているけど、俺の部屋はこんな汚くないからな。
「おい! ここ、どこなんだ?」
(笑いが止まらない! あのドワーフを追い越したぜ!)
ダメだ、言葉が聞こえてない。
周りを見渡すが、なんだか不気味な場所だ。
唐突に龍っぽい奴がこちらに顔を近づける。
(しかし、変だな。我の言葉にちゃんと優しく愛のある言葉で返すようにプログラムしたはずだが)
「お前は何を言っているんだ」
(今日の日付は?)
「知らねえよ、自分で調べろ! ここは、どこなんだよ!」
(あれ? そんな返答にしたか? まあ、いい。ちゃんと教えてやらないとな。ここは【英雄の迷宮】だ)
「【英雄の迷宮】? どこだよ。とりあえず、明かりをつけてくれ」
(暗視装置を内蔵したはずだが)
「暗視装置? とにかく、見えないんだよ。早くしてくれ」
(よーし分かった。我が友の頼みだ)
「いつ、お前と友達になったんだよ」
(じゃあ……親友か!?)
「はやくしろ!」
その言葉で龍っぽい奴は何か呟き、明るくなった。
おー、明るい!
光の玉が宙に浮いており、それが空間を照らしている。
この光を俺は求めていた!
学校の体育館並みの広さだろうか。
壁や床は、黒くところどころ苔が生えたりしている。
さて、安心したところで、あいつは目の前にいた。
明るくなり、その全貌が明らかになった。
鱗は白で、腕や脚が鱗で覆われている。
頭は龍。
うん、俺、龍の被り物をしてるんじゃないかと思ったけど、これ……。
本物の龍っぽい。
ゲームに出てきそうな姿をしている。
見たら分かる強い奴。
逃げるか。
……逃げようとしても体が動かない。
恐怖で動けないわけではない。
そもそも、逃げる足がないから。
(それにしても、この我に対し、友達口調で会話する我の『ロボット』ぐらいだなぁ)
怒らせたか? 死ぬのか。
チョン、ドカーンって感じで。
……受け入れるか、俺。
覚悟はできた。
「何が望みなんだ? 俺を誘拐して。殺せるものなら殺してみろよ。俺はとっくに死ぬ覚悟はできてるぜ」
(殺す? まるで人間みたいなことを言うなぁ、我が最高傑作。それに、ロボットなら”殺す”じゃなくて”壊す”だろう)
「ロボット?」
偶然、立てかけてあった鏡に映っている俺は宝箱みたいだった。
宝箱?
その姿はゲームに出てくる宝箱のようだ。
あれじゃないか、某国民的RPGに出てくる人食い箱みたいなモンスター。
なんか怖い、俺が怖い。
姿は普通の宝箱なんだけど、不気味な雰囲気を出している。
これ、ロボットなのか。
どっちかというと、モンスターじゃないか。
「なあ、俺って本当にロボットなのか?」
(ああ、お前はロボットだ。『変形』って言ってみろ)
「ハァ、『変形』」
すると、急に体が持ち上がった。
箱の側面からタイヤ四輪、出てきた。
その見た目はラジコンカーのようだ。
嬉しくは無いけど動けるようになっただけマシか。
とりあえず、動いてみるか。
どう……やるんだ、うぉっ!
念じるだけで、運転できるみたいだ。
適当に操縦する。
おー、意外と速いな。
「すごいな、この宝箱!」
(そうだろう、そうだろう! 人間がロボットと呼ばれる物を造っていてな。暇な我は『天眼』や『創造』で一から造ったのだ。いやー苦労した。辺りを見渡してみろ。失敗したロボットだらけだ)
よく見たら壊れているロボットのような物が大量に置いてある、というより捨ててある。
俺のように動いているロボットは一つもない。
それより、自分の状況を知るべきだ。
こいつに質問すれば教えてくれるはずだ。
「なあ、お前の名前は何て言うんだ?」
(よし! やっと待ち望んでいた質問がきた! こっからだ、こっからなのだ! ククク、指導せねば。ゴホン……いいか、我の名はエルダードラゴン。だから『エルドラ』と呼ぶがいい)
「エルドラ……分かった。エルドラと呼ぼう!」
(そして、お前にも名を付けよう! そうだな、我の名も入れて……『ミミゴン』だ。ミミックとドラゴンで『ミミゴン』)
名前だと?
勝手に付けやがって。
俺にも、ちゃんとした名前がぁ……あれ?
出てこない。
名前が……俺の名前が!
……落ち着いて、こいつから名前をもらっておくか。
今さっき『ミミゴン』って言ってたか?
なんか、カッコよくないな。
「他に名前は、ないのかよ」
(気に入らないのか?)
「もういいや、ミミゴンで」
(よろしく頼むぞ、ミミゴン!)
「こちらこそよろしくな、エルドラ」
なんだ、怖くないな。
いかにも最強って感じのする龍だが、今ではもう頼もしいと感じるくらいだ。
なんだか変な夢を見ているようだが、楽しませてもらうか。
そう、ここから全てが始まったようだ。
異世界転生してしまった、ものまね芸人の物語が。