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episode01

 あたいはペルシャ猫であるにゃ。

 名前はもうあるにゃ。


 主人があたいにつけた名前は、ネコ2世。

 エジプト第26王朝、第2代ファラオの名にゃ。


 ペルシャ猫でありながらエジプトの王の名とはいかがなものかと思わなくもないが、あたいが変な猫であると同時に主人も変な人間なのであるにゃ。


 ここは猫の手も借りたい迷える者に、手を差し伸べる何でも屋。

 その名も『キャットハンドレンタリズム』にゃ。

 外界とは別の次元にあり、求める者にしか扉は開かれず、所在すらつかめない不思議な店。


 しかし、今日は誰か来そうな気がするにゃ。

 これは猫の勘、つまり猫勘ねこかん


 あたいの予想通り、店の扉が開く。

 カランという音と共に入ってきたのは一人の少年だった。

 あたいは定位置のバーカウンターでその様子をじっと見つめていた。


「こんにちは~。……誰もいない。ここは、カフェなのかな? すみません、どなたかいらっしゃいませんか~」


 少年が呼びかける。

 しかし答える者はいない。

 当然だ。


 この店の主人は出かけていて、いるのはあたいだけなのだから。

 仕方ない、接客するかにゃ。

 あたいは軽く助走をつけると、少年の近くにある木製のテーブルへジャンプした。

 そして気品高きペルシャらしく、優雅に着地した。


「にゃぁ~お」

「わぁ」


 突然の鳴き声に驚く少年。


「なんだ、猫さんか」


 平静を取り戻した少年は、あたいに近づくとまじまじと凝視する。


「綺麗な毛並み。ペルシャ猫……なのかな? 初めて見たけど、こんなにもふわふわで綺麗なんだな」


 そう、あたいの毛並みは美しい。

 その柔らかさ、広がり。

 白だ灰色だなどと単純には表せない色合いとそのグラデーション。

 あらゆる点において一級品のショーキャット。

 それがあたいにゃ。


 自分で言ってしまうのもなんだが、事実なのだから仕方ないのにゃ。

 初対面で凝視するなんて失礼だが、毛並みを褒める程度には見る目があるらしい。


 ホワイトモップなどと比喩しようものなら、徹底的に引っ掻いてやるつもりだったが、その必要はなさそうだ。

 今回の無礼は黙認するかにゃ。

 そう思った直後だった。


「猫さ~ん、飼い主さんは不在なのかな~? なんてね、聞いても答えるわけないか」


 あろうことか少年は急に馴れ馴れしく話しかけてきたかと思うと、さらには頭を撫でようと手を伸ばしてきた。


「にゃううぅぅ」


 あたいは飛び跳ねて距離をとった。


「あれ? 嫌われちゃったかな、あはは」


 何をのんきなことを言っているのにゃ。

 もう我慢できないにゃ。


「少年よ!」

「はい?」

「猫とはいえ初対面のレディを舐め回すように凝視した挙句、馴れ馴れしくスキンシップをはかろうとは、無礼ではないかにゃ?」

「えっと、すみません。おっしゃる通りかと……って。えっ?」


 頭を下げたかと思うとすぐに頭を上げてあたいを見つめる少年。


「しゃべった? 猫さんが……猫さんが? 僕、疲れてるのかなぁ?」

「現実を認識するにゃ、少年。しゃべっているではないか」

「ああ、そうですね。僕、猫としゃべってる!?」


 混乱している様子の少年。

 思い出した。

 久しく接客してなかったから忘れていたが、ここに始めてくる人間は大抵こういう反応をするのだったにゃ。


「あ~、驚かしてすまない少年。では簡単に説明するにゃ。あたいは気品高きペルシャ猫、ネコ2世にゃ。あたいは特別な猫で人間と同等以上の思考能力を持ち、人語も話せるにゃ。だから会話ができているのにゃ」

「はあ。特別な猫、ネコ2世さんですか……」


 少年の返答、顔色を見るに理解が追い付いていないようだ。


「よし、分かった少年。いいかい、世の中には想像も絶するような理解しがたい不思議なことがあふれているにゃ」

「そうなんですか」


「そうなのにゃ。とりわけここは特別なのにゃ。ゆえにこの先少年は多くの理解しがたいものに出会うと思うが、こう考えればいいのにゃ。すべては魔術的な何かによって引き起こされているのだとにゃ」

「魔術ですか?」


 あ~、だんだん少年の目が死んだ魚の目みたいになってきたにゃ。


「これは少年が納得するしないの問題じゃないにゃ。いちいち説明していたらきりがないし、さらに理解してもらうのは不可能に近いのにゃ。だから目の前で起こることは事実として受け止めるにゃ。でないと本題に入れないにゃ」


 あたいはできるだけ丁寧に説明した。


「分かりました……いや、分かったのかな? とにかくあなたは人語が話せる特別な猫さん。すべての理由は魔術的な何かってことですね」

「その通りにゃ」


「それでさっき言ってた本題って何なんですか? それとここは一体どこなのでしょうか?」


 少年に問われたあたい。

 この質問こそまさしく本題につながるもの。


 あたいは二足で立ち上がると、軽く一礼し、透き通るような声で優雅に答える。


「悩みを抱えし少年よ、なんじは猫の手も借りたい状況なのにゃ? ならば文字通りお貸ししましょう。求める者に猫の手を! にゃにゃっと問題解決するにゃ。来るもの拒まぬ何でも屋、キャットハンドレンタリズムへようこそ!」


 さあ、久しぶりの営業再開にゃ!

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