変わり始めた日常
〜福島 兜〜
通りなれた河川敷を進んでいく。見慣れた風景、嗅ぎ慣れた匂い、両脇にそびえ立っている松やヒバの木々、その奥にある少し大きめの川も、道のど真ん中に倒れている人も何も変わって…え?倒れてる人?って
「人倒れてんじゃねえかぁぁぁ!」
俺は声を上げる。
「え?マジで?マジだぁぁ!」
ジンは違う方を向いてたのか俺の言葉で気がついたようだ。二人で急いで駆けつけた。
「大丈夫ですか!?」
倒れている人に声をかける。修道服のような格好をした金髪の美少女だ。しかし、返ってきたのは口からではなくお腹からだった。
ぐぅぅぅぅとお腹が鳴る。
「やばいぞカブト、美少女イベントだ…何か食い物持ってねえか?」
ジンが神妙な表情で訪ねてくる。てか大丈夫そうだと分かったとたんにこのセリフとか、非日常的なことが起きてテンション上がるのはわかるが…。
「おにぎりなら1つあるぞ?」
まぁ俺もテンション上がってるしジンのことをとやかく言えないけどな…。
カバンの中からおにぎりを取り出しジンに渡す。
ジンは受け取ると自分のカバンからお茶を取り出し美少女に声をかける。
「ほら、おにぎりとお茶だ。」
すると、美少女は閉じていた目をカッと開き
「ありがとうございます!」
そう言いながらおにぎりを受け取るとかぶりついた。
うん、やっぱりどこか王道的展開というかテンプレ感がするな。お腹空いてそうだけど、そんなに時間も経ってないはずなんだけどなぁ…。
おにぎりを食べ終わった後にお茶を一気飲みして美少女は礼を言ってくる。
「ふぅ、助かりました…改めてありがとうございます。」
深々と頭を下げてくる。さらに美少女は口を開き
「あなたはとても幸運です。ですから違う世界で異世界ライフを楽しんじゃったりしませんか?」
そんなことを言い出した…。
〜海原 仁〜
河川敷に入ってから、ふと違和感に気づく。
なぜかアスファルトが濡れていない…。雨が止んでから1時間半ほどだろう、いくらなんでも乾くのが早すぎる。
そんなことを考えながら草花などを観察していると
「人倒れてんじゃねえかぁぁぁ!」
カブトが急に叫び出し、
「え?マジで?マジだぁぁ!」
俺もカブトに疑問を投げつつ前方を確認したら本当に倒れてたので叫んでしまった。
いや、だって普通倒れてる人なんて遭遇しないでしょ…。
近づいてカブトが声をかけるが、返ってきたのはお腹の鳴る音だった。
まさか、ただの空腹さんだったとは…ちょっと待て
この空腹さん、よく見なくても美少女じゃねぇか!!
これはもうあれですか?美少女を助けて人生が180度変わっちゃうような王道的なイベントなんですか??
だってこの空腹美少女さん金髪だよ!?こんなとこ絶対倒れてないって!もうイベント確定だって!
おれの脳内は興奮しまくり、逆にこのイベントをどーやってこなすかを考えてしまい、カブトに尋ねた。
カブトがおにぎりを1つ渡してくる。
さすがカブトだ、まさか持っていると思ってなかったよ…。
あとは、俺の持ってるお茶でも上げれば大丈夫かな?
それとも、まだ足りないと言われてファミレスかどっかに連れて行くパターンか?たしかサイフの中には
2000円はあったはずだ…だからなんとかなるだろう。
俺はカバンからお茶を取り出し、金髪空腹美少女に
声をかけるとともにおにぎりとお茶を渡した。
「ありがとうございます!」
礼を言い金髪空腹美少女か食事をしだす。
瞳の色が赤とオレンジの間くらいの色で、肩胸の高さくらいまで髪が伸びている。
んーやっぱり服が濡れてないし、この瞳の色はもう
非日常イベント確定と言っていいだろう。
金髪空腹美少女がおにぎりを食べ終えお茶を一気飲みする。
「ふぅ、助かりました…改めてありがとうございます。」
頭を下げて礼を言ってくる。
どうやらファミレス連行イベントにはならなそうだ…
金髪美少女が口を開き
「あなたはとても幸運です。ですから違う世界で異世界ライフを楽しんじゃったりしませんか?」
そんなことを言い出したので、俺は内心ニッと笑い
今後起こる展開を想像する。
その日俺の、いや俺達の日常は日常でなくなった。