5 夢のなかで暴れる人
・これは夢だ。
僕がそう感じた時、気がついたら学校の教室の前にいる。2年前に卒業した中学の教室、ガラッと扉を開けるとそこにはたくさんの生徒がいて、僕がむかし好きだったMさんもそこにいて、僕はよそ見をせずにその席まで突っ走る、Mさんが驚きの表情でこっちを見ているけど、僕はなりふりかまわずセーラー服の上から彼女の胸を揉んで、スカートをめくる、まっしろな子どもみたいな下着、かたちはよくわかんないけどとにかく可愛いもので、僕はスカートの中に顔をつっこんで深呼吸する、はやくしないと夢が終わってしまう、でも興奮しちゃだめだ、興奮すれば体温や血圧が上がって、布団で寝ているいまの僕が起きてしまう、そうすればこの夢のような世界が終わる、興奮するためにやってるのに興奮しちゃいけない、なんてむずかしいことなんだ、なんのために夢の中で動いてるんだ。
Mさんにどうやって挿入しようかと色々あくせくしてるところで、僕は夢から覚める。股間に血液があつまっているのがわかる。さっきまでの映像はまぶたの裏にこびりついている。夢のつづきが見られるように、目を開けずに僕はまた眠りに落ちる。
・これは夢だ。
そう感じた時、わたしは家の玄関にいる。居間まで歩くと、そこには腹をだして寝ている男がいて、わたしはそいつを思い切りけっとばす。男は起きたけど恐怖で動けず、おろおろしながらわたしを見ている。わたしはブーツを履いたままそいつの背中を思い切り蹴る、でっぱった腹をふんでカエルのような声を出させる、頭をサッカーボールのように蹴っとばす、蹴る蹴る蹴る。痛みを思い知るがいい。
男がグロッキー状態になったところで、そいつはいつの間にか手足を縛られている。なにか声が聞こえるけどわたしは無視して、手に持っていた包丁を男の腕に突きつけ、さんざん脅したあとに二の腕をぶっすりと刺す。血が噴き出る。ぐりぐり。もう1回刺す。もう1回。殺しはしない。ただこいつに苦痛と恐怖を植えつけてやりたい。今までのわたしの、十数年分の憎しみと辛苦をこいつに味わわせてやりたい。本当は口の中に虫をつめて、体がくさるまで森の中に放置してやりたいけど、わたしが達成感を感じないのでやらない。
さんざん男の体を傷つけたあと、ペニスをジョキンと切ろうとしたところで、わたしは目が覚める。わたしがその痛みを想像したからだ。現実にもどる。地獄のような現実が戻ってくる。わたしが苦痛から逃れるためには、夢を見るしかない。
・これは夢だ。
ぼくはあこがれの国にいる。シャツ1枚の姿で大都会の真ん中にいる。
この国ではお金があればどんな物も買え、どんな欲求も満たされるらしい。何年か前に、ある国からやってきた、カメラマンと名乗った男から聞いた話ーーおいしいご飯を食べ、どこにでも旅をし、遊んで眠る。手をひと振りすれば食べ物を家まで届けてくれる、まいにち無料で映画やアニメを見たり、みんなで野球やサッカーができたりする。そして何より――1日じゅう爆弾や強盗におびえる心配がない。いくら散歩をしても自由みたいなのだ。そんな夢のような国があるなんて信じられない。けどたしかにある。なぜかぼくはそう思えた。
夢から覚めたときは、悲しいわけじゃない。この世界のどこかにその国がある。ぼくが住んでいる国と地続きでつながっている。つまりなにかの奇跡が起きて、いつかぼくがそこに行けるかもしれない。その想像だけで十分だった。
ぼくはいつの間にか、大都会で空を飛んでいる。うんと遠く離れた家族と会話をしている。これは夢だけど、ぼくが想像できるんだから、どこかにあるはずなんだ。世界のどこにもないことを想像できたりはしないんだ。
@KosugiRan http://twitter.com/KosugiRan
(みなさんはどんな夢を見ますか。マトリックス)