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12 生の終わりをむかえる人

・どうやら、80年続いた私の命はあと少しのようです。

 遺書のような、経歴書のようなものを書けと言われたので書きましたが、こう見ると、なんとも波乱万丈な人生でした。男の人に苦い思いもさせられましたし、我ながらよく頑張ったなと思いますね。今どきの人はこんなに困窮したりもしないでしょうが、つらいニュースもよく聞きますので、それぞれ大変なこともあるのだと思います。

 私の死について、孫や息子たちは泣いてくれましたが、私自身は、やっとかという感じです。歳をとると体も言うことを聞かなくなりますし、そろそろですよと神様が教えてくれるのでしょう。

 多くの近しい人も亡くなりました。どんなに逆らっても人の寿命はだいたい決まっています。数年前から、いかに長く生きるかでなく、いかに終わるかを考えるようになりました。死が悲しいだけのものではなくなりました。強いて言うと、その考え方の変化が悲しいことかもしれません。

 では、私のこの終わり方はどうでしょうか。悪くはないですね。葬儀は近しい人だけで、家族に負担がかかり過ぎないように。私の部屋は適当に片づけておいてください。


・わたしの人生はたかだか18年だった。だけど、それは生まれたころからわかっていたことだった。

 長くは生きられないことはもともと知っていた。物心がついたころから、親が妙に私を心配するのだ。外ではしゃぎすぎるなだの、疲れてはいないかだの。私は世界中の子供は全員、こんな感じで頻繁に病院に通うものだと思っていたが、当然そんなことはなかった。最初から成人できるかどうかわからないと言われていたので、今さら特別悲しくもない。いや、正確には悲しくならないように行動した。希望を持たないようにしたのだ。18歳までで出来ることなんてたかが知れている。夢を持ってもしょうがないのだ。

 まわりの友達には、病気のことは黙っていたけれど……他人の悲しい反応を見る方が、わたしには苦しかった。この病気のことをぐちったり、共有したりできなかったのが不満と言えば不満だった。恋愛もしなかったし、将来の夢も持たなかった。わたしの人生、これで良かったのかかなあ――そんな振り返りもできないほど、わたしの一生は短かった。

 願わくは、友人たちは、わたしのことで悲しまないでほしい。わたしはそれなりに幸せだったのだから。黙っていたのはずるいかもしれないけど、わたしを不幸の目で見てほしくなかったから。


・私の人生は唐突に終わりを告げました。30数年で終わるとは、子供のころの私も思っていなかったでしょう。

 神さまは残酷ですね。結婚して子どもができて、これからというときに……長くぼんやりとした20代が過ぎて、ようやく、人生を楽しむコツのようなものをつかんだ気がするのですが、それも終わりです。

 あったかもしれない未来のことを思うと、絶望がどんどん押し寄せてきます。子どもたちの成長した姿、一緒に老いていく旦那の姿、好きなことを仕事にした自分自身。希望が見えたときに死ぬというのは、なんともつらいものです。病気の痛みも激しくなってきて、家族にもつらく当たってしまいます。なんともつらい。見舞いに来る友人たちの明るい未来を思うと、かすかな恨みさえ抱きます。

 そうです、自分がこんなにも生を渇望したのは初めてです。10年前の私では考えられませんでした。若いころはむしろいつ死んでもいいと思っていたのに、皮肉なことです。欲しくもない時に得られて、欲しくてしょうがない時に得られない。それが命です。それなら十分に得られているときに、したいことをすべきなのでしょう。私はそれに気づくのが少し遅かったようです。

 いっそのこと、私の命をだれかに分け与えられたらいいのに。誰かのいらない生を私がもらえたらいいのに。そんなことだけをぐるぐると考えています。


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