10 こどものテロリスト
・どの時代にも、この世の悪と憎悪をあつめてグツグツ煮込んだようなサイテー野郎がいる。俺がいま追っているのもその1人だ。やつのコードネームはマッド・ジョン。おおざっぱに言えばテロリストだ。
やつの特徴はその年齢だ。あいつが殺した数はすでに3ケタを超えるっつうのに、ジョンの年齢はミドルティーンそこそこなんだ。つまり、まだ家でネットゲームでもやってそうなガキだ。でそろそろハッパに興味を持ち始めて、たまに女の子とつき合ってセックスする。それぐらいのガキが、無表情でバンバン人を撃ちまくるんだ。まったく世も末ってやつだよ。
事実、調べた限りじゃ、あいつには裏も表もない。まるで指の筋トレをするようにトリガーを引く。ごつい大人たちを仲間にひきつれたジョンはまさにサタンって感じだ。やつに関する資料はほかのテロリストたちに比べて圧倒的に少ない。そもそも生きている年月が短すぎるから、履歴がないんだ。証言と想像でやつの人物像をつくるしかない。それなのに、起きた事件の数だけがどんどん増えていく。
いままで数多くの任務をこなした俺も、やつのデコにヘッドショットを決められるかどうかわからねえ。逆にバーンとやられちまうかもしれねえ。そんときゃ歯くいしばってでも止めてやるさ。
・わたしの仕事は護衛、つまりSPだ。この世界じゃそれなりに信頼されていたし、自分でも鍛錬を怠ったことはなかった。だが、今回は完全に負けた。
昨夜は富豪たちのクリスマスパーティだった。小さな子どもたちがビルの一室に集まり、歌やダンスを楽しんでいた。私はその警護についていた。正直に言うと、いつジョンが来てもおかしくはなかったから、私たちは警戒態勢をとっていた。だがそれも、ほとんど意味がなかった。
ジョンたちは裏をかいた。金属探知機も爆発物検知器もすりぬけ、武装したやつらはパーティルームに現れた。スタッフと参加者の中にテロリストがいたのだ。ステージ上でニコリと笑ったあいつの顔を、わたしは一生忘れない。派手なBGMを流して、高々とパーティ宣言をしたときのジョンの表情。やつらはためらいもなく撃ちに撃ちまくった。まず子どもたちが狙われて、わたしの目の前で小さな子どもたちが次々に倒れていった。最終的に、私たちSPは数名生き延びたが、守るべきVIPは全員死んだ。やつらはわざと私たちを生き残らせた。
死体だらけの部屋で、私は思考を無理やりしめ出しながら、警察に連絡を取った。床では男の子があおむけに倒れて虚空を見つめている。無線機をもつ私の手が震えた。
あんな悪魔がなぜこの世にいる。なぜこんな非業が起こってしまう。私にはわからない。何が良いことで何が悪いことなのか、わからない。
・ハイ。
オレはジョンって呼ばれてる。まあ世間に言わせればオレはテロリストだ。仲間からもジョンって呼ばれてる。
オレがどうしてこうなかったかは、話すと長い。これはもう公式資料にも載ってるから言っちまうが、幼いころにオレの両親が殺された。いや、あれはほとんどオレが殺したようなもんだな。こんなありふれた話、どうでもいいだろ?
どうも、オレは昔から人を惹きつける力があったらしい。集団の中にいると、自分はなぜかいつもグループの中心にいた。自分で言うのもなんだか、オレはたぶんピュアなんだろうな。大の大人に「天使というのは君のことだ」なんて言われたこともある。かわいいって意味じゃなくて、神の使いって意味でな。
人を殺しまくって何がしたいだって? おっと、いきなりデリケートなことを訊くなあ。そりゃ「浄化」だよ。ヒトに天国に行ってもらうんだ。この世のつかの間の幸せは、偽の幸せ。死んで天国に行った方が幸せなんだよ。だからオレは子どもをよく狙う。子どもの方がまだ可愛くて汚れてないだろ? だからさっさと死なせてやるんだ。
オレのまわりにゃ、人生をあきらめた大人たちがたくさん集まってくる。罪のつぐないがしたい、社会に復讐したいってやつらがな。オレはそいつらに言ってやる。「たくさんの子どもたちを救ってやれ。やつらはお前たちを待ってる」ってな。あいつらは顔を輝かせてオレに従う。可愛いガキを撃ちまくる。
最終的には、オレも腐った大人になっちまうんだろうな。オレもいつか死ぬ。でもたぶん、オレの意志を継ぐやつがいるだろう。最近は俺たちの仲間にもティーンが増えてきたんだ。子どもの気持ちってのは移り変わりやすいけど、洗脳もしやすい。ほんと、ピュアなやつらだよ。
夢のはなし
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