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「なー、聞いた?」
もう一人の理解者は今日も教室で、大声で話しかけてきた。
こいつ、内部進学なのに俺とばかり話してるな。
「何をだよ」
「この学校、女装サークルあるらしいぜ」
「そ、そうなんだ」
ものすごくタイムリーな話だ。きっとそれは、俺が昨日出会った、遠藤先輩の女装部のことだろう。
「オメー、そこ入部しちまえよ」
「しないよ」
いや、するかもしれないけど。
「女装サークル? そんなものあるんだ」
そう言ったのは、いつの間にかさんごと仲良くなっていた姫武台さん。よかったね、友達が出来て。
「あたしも先輩から聞いた噂なんだけどよ。非公認サークルなんだって。女装してるやつを見たって噂があるんだよ」
「へえ、熊美くん入るの?」
姫武台さんが楽しそうに言った。
「入らないよ!」
入りそうだけど。
「姫武台さんはもう演劇部、行ってみたの?」
俺は話題を変えた。
「うん。入部届も出してきちゃった」
「もう? ずいぶん早いね」
「だって僕、すごく気に入っちゃったんだもん」
「あーあ。あたしも女装サークル入りてえなあー」
さんごが椅子に背中を投げ出して言った。
「は? おまえ女だろ?」
俺は投げつけるように言った。さんごは時々変なことを言う。
「だからよ、ほら。男に化粧とか服の着こなしとか教える役でよ」
「おまえ化粧なんかしてないだろ」
ふだん化粧しないひとが化粧することが女装なら、さんごには入部資格はばっちりある。
「いいんだよそれでも! あたしゃ男の娘を可愛がりたいんだよ!」
「男の子?」
「オトコノムスメって書いて、男の娘。知らねーの?」
「……知らない」
「ちぇっ、情弱」
「じょうじゃく?」
聞いたことがない言葉がポンポン飛び出してくる。
「僕は知ってるよ。『こんなにかわいい子が女の子のはずがない』ってやつでしょう?」
姫武台さんが言った。
「おう、やっぱインターネットやらねー奴は、情弱だよなー」
「そうだね。熊美くん、情弱」
仲良くなったのはいいとして、二人で声をそろえて俺の知らない言葉で俺を罵らないでほしい。
……でも、姫武台さんがこうして俺のことをからかえるくらいに壁が低くなってるのは、さんごのおかげとも言えるのか。
「でも、僕、熊美くんは女装させると似合うと思うな」
「だろ? あたしもそう思うんだよ」
「眉毛も細くていい形してるし」
「背もそんな高くないし」
「俺をおもちゃにしないでくれ!」
そうは言ったものの、俺の心は揺らいでいた。
……似合うのか。
一回くらいなら、女装、してみよう、かな。