1-6
その日、俺は帰り道にコンビニで雑誌の立ち読みをして、せっかくなので家まで山駅ほど歩いてみようかと思っていたところだ。
そんなところに、ひとが派手に転ぶような音がした。
場所は駅から少し離れた裏道。
音がした方に目をやれば、金髪をライオンのたてがみのように逆立て、改造学生服を着た、いかにもヤンキーといったふうの男が見えた。
さっきの音は、そいつがニット帽をかぶった男を殴って、持っている鞄を奪ったときのものだろう。
正直、関わりたくないと思った。だが周囲にひとは居ない。
自分がやらなきゃどうするんだ。俺は二人に向かって駆け出した。
「待てえ!」
声が裏返ったのが自分でもわかる。怖かったが助けなきゃならない。
ヤンキーがこちらを睨む。
怖かったが、近づいてみれば、ヤンキーの身長は、決して高くない俺とあまり変わらなかった。
俺は拳を握りしめてヤンキーの顔を狙う。
――気づくと、俺は腕をひねられて地面に引きずり倒されていた。
「……」
決して痛くはない。だがヤンキーは何も言わなくて、すごく怖かった。
「あたしの鞄!」
そこに女の子が叫んだ。あれ、この声は……。
「……ほら」
ヤンキーが低く声を漏らして、さっき男から奪った鞄を、女の子に渡す。
「ありがとうございます! 助かったっす!」
組み敷かれたまま目をやれば、それはよく知った顔。さっき学校で別れた千住さんごだった。そういえば、その鞄にも見覚えがある。
あれ? ってことは……。
殴られていたニット帽の男が起き上がり、一目散に逃げ出してく。
「何やってんだ、オメー?」
「何って……その、俺が聞きたいんだけど」
「じゃあ、答えてやるよ。あたしがひったくりにあって、それを取り返してくれたのがその兄ちゃんだよ」
「……」
さんごがそう言うと、ヤンキーは俺を開放してくれた。そしてその……ひったくりの男が走っていった方に駆け出していった。
「あっ、あの! ありがとうございましたっす!」
その背中に向けてさんごが大声で礼を言った。
「……じゃあ、俺……勘違い?」
「オメーがあの兄ちゃんに殴りかかったあたりから見てたけどさ……。外見でひとを判断するもんじゃねーよ? ほら、立てるか?」
そう言って、さんごは俺に手を差し伸べる。
俺はなんだか恥ずかしかったので、その手はとらない。自分で起き上がって、服の埃を払った。
「あー……俺、カッコ悪い……」
「そうだな。けど、あんな怖そうな兄ちゃんに向かっていったのは、勇気じゃね?」
さんごのフォローは、俺にとって慰めにもならなかった。