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私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
第一章 遠藤玉三郎
6/47

1-5

 中学生の頃、俺は短距離の選手だった。

 だが、ある時を境に、走るときに体操着に乳首がすれて痛むようになってきた。

 その時すでにおっぱいは大きくなっていたが、運動をすれば痩せると思っていた。

 だが、その結果が、医者に見せた時には手遅れになっていた女性化乳房症だ。

 乳首が気になって短距離の記録はどんどん落ちていった。

 着替えの時にも、おっぱいでからかわれるようになった。文字通りいじられるように鳴っていた。

 そんな俺が陸上をやめるまでは、そう長い時間はかからなかった。


「オメー、部活決めた?」

 教室に戻り、午後一のホームルームが終わった後、さんごが話しかけてきた。

「俺はどこにも入らないよ」

「え? なんだよ、陸上部入るんじゃねーの?」

「……陸上は、もうやめたんだ」

「やめた? おい、それマジで? なんでだよ」

「……知ってるくせに」

 俺は、学生服のブレザーの上から、きつく締め付けられている胸を叩いた。

「あ」

 さんごのテンションが急に下がる。

「そうだよ。俺はおっぱいが生えてきてから、おっぱいが痛くてろくに運動が出来ないんだよ。そもそも男子かどうかわかりもしないのに、男子陸上部に入れるわけがない」

 中学の苦い思い出が蘇る。

「……わ、悪い。その、そんなつもりじゃなかったんだ」

「いいよ。さんごのことだから、ほんとに気づかなかったんだろ。どうせ」

「……まあ、確かにそうなんだけどよ……なんかひっかかるな」

「明宏くん、部活入らないの?」

 するとそこに、内部進学組の輪からあぶれたのか、姫武台さんがやって来て言った。

「あ……うん。姫武台さんは?」

「僕、演劇部に入ろうかなって思ってるの」

「演劇部?」

「うん。なんか、自分と違うひとを演じるって、楽しそうじゃない?」

「へえ、俺にはわかんないな」

「それにあの先輩もかっこ良かったし」

「えっ」

 俺はさっきの、怖い顔の先輩を思い出した。

「なんだよ、オメーああいう男が好みなのか?」

「ううん、女の子の方。女の子の男役ってかっこ良いと思うの」

「男役……かあ」

 男役といえば男役なのかもしれない。俺にはあの先輩は男役に見えなかったけど。

「あ、もうこんな時間。僕、放課後用事あるんだった」

 姫武台さんは時計を見ると、そう言った。

「それじゃあ、またね」

「ああ、また明日」

 俺たちはそうして姫武台さんを見送る。

「ふーん。姫武台さん、男装とか好きなんだなー」

「そうだな」

「オメー、いっそ男装の麗人だってことにしたらどう?」

「……茶化すなよ。そして揉むなよ」

 俺はさんごに胸を揉まれながら、姫武台さんに胸を揉まれることを想像したのは否定できなかった。

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