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私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
第一章 遠藤玉三郎
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1-4

 入学式の次の日は学内オリエンテーリングだった。

 と言っても、一学年全員が入れる階段教室での部活動紹介イベントが時間のほとんどを占めていた。二年生以上が客席に入らなくていいので、昨日の講堂は使わないらしい。

 各サークル、十分のアピール時間を与えられているのだが、部活内容によってはその時間で余る部もあるし、足りない部もあるようだ。例えば文芸部などは『部誌がありますので興味があるひとは配布します』と言うだけで終わりだったが、吹奏楽部なんかは楽器搬入と撤収の時間も込みなので、入学式で校歌を演奏したフルメンバーではなく、なんとかカルテットとかいうスタイルの四人構成だった。同じ音楽演奏でもクラシックギター部はアコースティックギターのソロ演奏だったので、準備撤収とも早かった。

 印象に残ったのは演劇部だ。

「次は、演劇部の紹介です」

 そう進行係の先輩が言った直後、教室が真っ暗になった。

「ふぬはははははは! この会場は俺が占拠した!」

 階段教室の後ろから、スポットライトを浴びて一人の大柄な男が姿を表した。

 逆立った髪に、ぼさぼさのひげ。ローマ人が着るような布を身にまとって、右手は剣……ではなく、黒板用の大きなコンパスを高く掲げている。

 男はコンパスを掲げたまま階段を降り、教壇にあがった。なるほど、武器を誰かにぶつけないようにするために掲げていたのか。

 教室の電気がつく。

「いいか新入生ども! お前らは勉強だけすればいい! 部活などにかまけている暇などない!」

 男が声をはりあげた。

 しかし言ってることはめちゃくちゃだ。

 それでも、その男の迫力は相当なものだった。とてもじゃないが高校生には見えない。

「そんなことはない!」

 そこに甲高い、幼児のような女の声が割り込んだ。

「誰だ!」

「どこを見ている、ここだ!」

 隅に寄せられていた教卓の後ろから、やはりローマ風の布を着た、髪の長い女の子が現れた。教室が暗くなったときに隠れたのだろうか。

「拍手がないな、もう一度だ」

 どっと笑い声があがり、まばらな拍手が重なる。女の子は一度引っ込むと、もう一度出てきた。

「どこを見ている、ここだ! そして拍手をありがとう!」

 その言葉にさらに拍手が盛り上がる。

 女の子、と言ってもこの人も先輩なのだろう。でも、顔立ちは幼く声も甲高く。背も低い彼女は、女の子と表現するのが適切だろう。

「なぜ止める? 学生の本分は勉強だ! 俺は何か間違えたことを言ったか?」

「この学校は個性尊重教育をよしとしている。勉強は出来て当たり前、その先ができる人間を育てるのがわたしたち、先輩のすることじゃないのか?」

「だが、部活を優先して成績を落とされては、本末転倒だ!」

「そんなことはない。後輩に勉強を教えるのも先輩の役割だ。先輩とともに学び、部活で個性を伸ばす。いい事ずくめじゃないか」

「ええい、だったら……実力でわからせてやる!」

 戦闘のテーマだろう音楽が流れる。

 男がコンパスの剣を振りかぶり、斬りかかった。だが女の子はそれを難なくかわす。二人は距離を保ちながら、教卓の上を駆けまわり、ときに斬りかかり、それを女の子はかわしたり受け止めたりする。

「ええい!」

 男が一声叫んでから、コンパスをつきだした。今のが合図だったのだろう。女の子は姿勢を低く潜り込むと、男の手首を両手で掴み、そのまま肘鉄をきめた。

「ぐ、ぐうう……。べ、勉強を……」

 男は言って、教卓の陰に倒れこんだ。

「勉強はする、部活もやる。それが君たちの使命だ。先輩たちは君たちの味方だ!」

 音楽がファンファーレに変わる。

「改めまして、演劇部です。今日はちょっとした寸劇を披露させてもらいました」

 女の子が口上を述べる。男も立ち上がって、その後を続ける。

「僕たちからのメッセージは今のとおりです。部活をやらないひとも多いと思いますが、せっかくこの学校にいるんだから、部活はぜひやってもらいたい。変な話だけど、それは演劇部じゃなくてもいいと思ってます」

「わたしたちは、君たちの中で演劇に興味があるひとと、一緒に演劇がしたい。裏方でも脚本だけでも、興味があればじゃんじゃん見学に来てください」

「もちろん、先輩面するわけじゃありませんが、先輩としてできることはいくらでも協力します」

「興味があれば、この〇〇一教室に来てください。活動日は不定期ですが、職員室前の部活動伝言板でお知らせします」

 そして最後に、男が言った。

「こんな怖そうな先輩もいるけど、本当に怖いからよろしくな!」

 うん、本当に怖そうだ。演劇部じゃなくて運動部の方が似合うんじゃないかな。

 ……運動部か……。


 中学生の頃、俺は短距離の選手だった。

 だが、ある時を境に、走るときに体操着に乳首がすれて痛むようになってきた。

 その時すでにおっぱいは大きくなっていたが、運動をすれば痩せると思っていた。

 だが、その結果が、医者に見せた時には手遅れになっていた女性化乳房症だ。

 乳首が気になって短距離の記録はどんどん落ちていった。

 着替えの時にも、おっぱいでからかわれるようになった。文字通りいじられるように鳴っていた。

 そんな俺が陸上をやめるまでは、そう長い時間はかからなかった。

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