表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
エピローグ 熊美明宏
47/47

エピローグ

 かくして、無事に終業式を迎えた。

 通知表に一喜一憂して、宿題にうんざりし、夏休みの注意などを受けて、正午で放課後になる。

 よその学校では全校生徒を集めての式を行うこともあるらしいが、妹久間では各クラス個別で行うようだった。

「他に、何か質問とかあるか?」

 担任がまとめに入った。

「はい」

 俺はそこで手をあげた。

「熊美か、昨日は大変だったそうだな」

「ありがとうございます」

「それで、何だ?」

「質問じゃないんですが、ちょっとみんなに言っておきたいことがあって」

「おお、そうか。じゃあ前に出るか?」

「はい」

 俺は教壇に立って、クラスを眺めた。

 みんなの視線がこっちに集まる。

 ここは舞台だ。そう思えばいい。

 俺は夏服のワイシャツを素早く脱いだ。

 教室がざわつく。

「みんなに隠してきたことがひとつ、あります」

 俺は窮屈なナベシャツを脱いだ。

 ぷりんっ、という音が聞こえるような気がして、俺のおっぱいが開放される。

 歓声、悲鳴、嬌声。

 ざわめきが大きくなった。

「おまえ女だったのか!?」

 誰かが言った。

「僕は男です。でも、ホルモンの異常で、胸が腫れ上がっています。男なのに胸が大きくなる病気みたいなものです」

「オメー、それ隠してなくていいのかよ! 大っぴらにして、あたしらにどうしろって言うんだ?」

 さんごが言った。やれやれ、あの場にいたのに、まだわかってないのか。

「隠し事をするのに疲れたんだ。胸があるからって、俺が俺じゃないわけじゃない」

 そして俺はみんなの方をみる。

「だからみんな、こんな変な身体の俺だけど、これまでどおり接してください!」

「いいよ」

 誰かが言った。

 祐希だった。

 別に相談したわけじゃあなかったが、祐希が言ったあと、誰かが拍手を始めた。

 さんごも、祐希も拍手を俺に送ってくれた。

「ああ、わかった。わかったから……熊美。とりあえず胸をしまえ」

 担任が苦虫を噛み潰したような顔で、言った。


「おまたせ!」

 改札口を抜けて、俺は遊園地の最寄り駅前にいるユーキに声をかけた。

 もちろんユーキはヤンキーの格好じゃない。爽やかな好青年を演じてる。

 俺は俺で、かわいい女の子の格好だと自負している。性別入れ替えカップルだ。

「遅かったな」

「そこは『いま来たところ』じゃないの?」

「それは男のおまえが先に来てたら言えよ」

「こんな時ばっかり、身体の性別を悪用するんだから!」

 俺は言った。俺たちは、こんなふうに自分の性別を、それこそずるく使っていくことにしたんだ。

 俺は窮屈なナベシャツを脱ぎたかったし、ユーキは窮屈な女の生活を脱ぎ捨てたかった。でももとの性別を脱ぎ捨てたいわけじゃない。

 もっと自由にしていいんだ。

「そういや俺……わたし、電車の中で海老さんとラブミさんに会ったよ」

「マジで?」

「しかも二人とも女のカッコでさ。仲の良い姉妹とかみたいだった」

「へえ。海老さんも海老さんで、楽しんでるんだな」

 俺はそんな二人の邪魔をしちゃ悪いとおもって、声はかけなかった。

 けど……ラブミさん、海老さんが女の子でもいいのかな。

「俺ももう一組、びっくりするやつらを見たぜ」

「誰?」

「マメさんとさんご」

「うそ!?」

「こっちも女装でさ。別にデートって風でもなかったんだけど。ほら、マメさん恋愛しないって言ってたけど、さんごのほうが気になっちゃってるみたいでさ。あいつ、男の娘好きだって言ってたしな」

「へえ。なんか、みんなうまくやってるんだなあ……」

 そういえばこの中で、男要素がひとつもない純粋な女の子って、さんごだけなんだよなあ……。

 ユーキ以外は全員女の格好なのに、純女は一人だけ。

 性別迷子部は、この通り夏休みを満喫しているのだ。

「いつか、性別が自由に選べる時代が来るかもしれないな」

 歩き出しながら、俺は言った。

「今だって、やってるひとはやってるだろ」

「でも、今はまだ隠して変身する時代だろ? そうじゃなくて、もっとそういうことをオープンにして、それでも普通にしていられる時代だよ。今はまだまだ、後ろ指さされるような時代だよ。わたしが求めてるのは、性別が二つじゃない時代」

「それは、まだまだだよなあ……」

「男同士で子どもを作ったり、そういう技術も必要だと思う。わたしの胸ももっと簡単に治せるようにして欲しいし」

「まあ、な」

「わたしが大人になるころには、もう手遅れかもしれないけど、ユーキやラブミさんや……そういうひとたちが、もっと悩まずにいられる時代が来るかもしれない。いや、来てほしい。そう思わない?」

「もちろん、思うよ」

 ユーキは答えた。

「いつか来るかもしれない、性別自由化(ジェンダーフリー)の時代に向けて、私たちもなにかできることがあればいいね」

「そうだな。手始めに……」

 俺の手に、ユーキの手が重ねられる。

「とりあえずは性別入れ替えデートを楽しもうぜ!」

「うん!」

                                  〈完〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ←参加しています。面白いと思ったらクリックしていただけると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ