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私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
第四章 姫武台祐希
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4-8

「祐希ー! ごめん!」

 さんごは事情聴取から解放されてすぐ、警察署の前で祐希に抱きついた。

 足がもう言うことを聞かないようで、祐希もささえるようにさんごを抱きしめた。

「僕が悪いんだよ、こっちこそごめん」

「あたし今度こそツイッターやめる! ほんとごめん!」

 それからさんごは俺を見て言った。

「オメー……タマ残ってる?」

「残ってるよ!」

「よかったあ……」

「ふたりとも、大丈夫だった?」

 ラブミさんと海老さんも、待ってくれていた。

「大丈夫っす! 心配させてごめんなさい」

 さんごは言う。

「くそう、俺がついてりゃあんな連中、木っ端微塵にしてやったってのに」

「ユーキにはコテンパンにされちゃったのに?」

「そ、それは言うな。相手が女だから手が出せなかっただけだ」

 海老さんとラブミさんも胸をなでおろしたようで、俺も安心する。そのまま俺は、ユーキに話しかけた。

「でも、よかったのか?」

「何が?」

「女だってばらしちゃって、よかったのか?」

「ああ、そのことか」

 ユーキは笑って言った。

「男らしさって何かって、さっき言っただろう?」

「ああ」

「女の子を守ることだって気づいたんだ。それは、ただ喧嘩するんじゃなくて、守るために逃げることも必要だって。そのために僕は女の武器を使ったってわけ」

「……それって、ずるっこ」

 ラブミさんが言った。

「たしかにね。男らしくするために女らしくする……矛盾してるよな」

 ユーキは、再びウィッグをかぶる。

「なあ、明宏。男らしさとか女らしさとかって、わかったか?」

「……いいや、まだわからない」

「性別ってよ、男か女かだけじゃないんだよ。途中から入れ替わることはできないし、といっても完全にもとの性別から抜けられないわけじゃない」

「祐希や、ラブミさんのように?」

 俺は聞き返した。

「そう。生まれ持った身体の性別、自分が認識する心の性別、それに、他人にどう思われてるかっていう社会的な性別。それぞれに男と女があるんだと思う」

「それじゃ、性別はその組み合わせで……二×二×二の……八種類あるってこと?」

 さんごが言った。こいつ意外と計算早いな。

「いいや、違うよ。もうひとつ組み合わせて、一六種類。恋愛対象だ」

 ユーキはそう言って、俺を抱きしめてきた。

「なっ、なにを……」

「明宏。俺はおまえのことが好きだ」

「ええっ!?」

 声をあげたのは俺ではなくさんごだ。

「で、でも祐希。男に興味ないって言ってたじゃん!」

「ああ、だから俺は女装した明宏が好きだ。でも、違うんだよ、俺は明宏が好きなんだ。男とか、女とかどうでも良くて、明宏と一緒にいたいんだ」

 ユーキは一気に言った。

「シンデレラをやった時のおまえは綺麗だった。見た目だけじゃなくて、中身も。だから俺、おまえが女かもしれないって思った時、気持ちをどこにぶつけていいのかわからなくなったんだ」

「海老さんのようにか?」

「……そうだ。だから、俺も海老さんと同じでいい。おまえが男だとか女だとか関係なくおまえを好きだってはっきり言いたいんだ」

「そうか……そういうことか」

 俺は言った。

「わかったよ。俺は男だけど、おっぱいがある。女なのかもしれないって思ったけど……そうか。俺は俺なんだ。性別は俺なんだ」

「ふたりとも、よくそこに気づいたね」

 拍手とともに、マメさんが言った。

「性別なんて、曖昧なものなのさ。僕だってほら、自分の性別すらわかってないんだよ。僕は恋愛対象だってわからない。そんな、中性・無性がいたっていい。同じように、君たちみたいな性別があったっていい」

「マメさん……ありがとうございます」

「そうだね。わたしみたいなおもいっきり純粋な(Male)(to)(Female)もいるし」

「俺みたいな、バイセクシャルだっている」

「あたしみたいな純女だっているぜ!」

 みんなが自分のセクシャリティを口にしていた。

「それじゃあ、そこに気づいたからには、女装部も名前を変えないとならないね」

「なんて名前になるんですか?」

 俺はマメさんに聞いた。


「性別迷子部だ」


 俺という性別迷子は、かくして居場所をみつけられたのかもしれない。

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