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私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
第四章 姫武台祐希
43/47

4-5

 連れて行かれた先は、そこそこ大きくてきれいなマンションだった。

 てっきり、廃倉庫かどこかに連れて行かれると思ったが、そういうのはまんがの世界だけかもしれない。

 部屋の中は薄暗い明かりで包まれていて、甘ったるいお香の匂いが染み付いていた。危険ドラッグ……ではないよな?

 しかもおかしなことに、俺たちが放り込まれた床にはカーペットではなく、分厚いマットが敷き詰められていた。おかげで痛くはなかったけど……。

「ここ、なんだかわかるか?」

 男の一人が言った。すごく楽しそうな顔をしていて、怖い。

「ヤリ部屋♡」

 背筋がゾクッとする。

 なにをヤるお部屋ですか、とは聞けない。まさかここで百人一首するわけじゃないだろう。

「さて、どっちからいく?」

「三人ずつそれぞれ楽しもうぜ」

「げえっ、俺、男はパス! こいつヅラ取れちまったからほとんど男じゃねーか」

「そうか? それでも俺いけるぜ」

「オメーと一緒にすんなし。変態!」

「面白えなあ。片方は四本、片方は三本。男は三人ずつなのに」

 ゲラゲラと、何が面白いのかわからないが男たちが笑う。

 反面、俺はゾクゾクと恐怖を感じていた。

 隣にいるさんごもそうだろう。ふたりとも両手を手錠のようなもので拘束されているのだけど……普通、こんなものを持っているわけがない。

 普通じゃないのだ。日常的にひとを拘束している連中なのだ。

 この部屋で何人の女の子が涙を流したんだろう。

「うっ……」

 さんごが口元を引き締めた。同じことを想像して吐き気をもよおしたのかもしれない。

「考えるな、さんご」

「お、おう……でも……あたしもうダメかもしれねー……」

 そのさんごを見て、男たちはより楽しそうに騒ぎ立てた。

「ダメダメ、考えなくってもダメダメ」

「次は君たちの番だから」

 そう言って男が俺たちの足元に写真をばらまく。

「……っ! いやあっ!」

 何が写っているのか理解したさんごが叫んだ。目をそらそうとするが、男たちに捕まえられその写真を無理矢理見せられる。まぶたを閉じれば無理矢理開かれる。

 それは裸の女性の写真だった。

 未成年お断りの雑誌に掲載されるようなきれいなものじゃない。

 あざを作り、血を流し、無理矢理足を開かされ、泣き叫んでいる。そんな写真だった。

「両方一気にやるよりよ、片方にもう片方がヤられるところ見せるってどうだ?」

「うほっ、趣味悪いな」

「サイテー!」

「なんだよ、じゃあやめるか?」

「ぼくちんサイテー人類だから、やりまーす」

 男は楽しげに俺たちを見ている。その視線は、どっちかと言うと男である俺よりも、女であるさんごに集まっているような気がした。

 さんごはもう抵抗する気力を失ったようにぐったりしている。

「俺からやれ!」

 俺は叫んだ。

「やるなら俺からやれ!」

「へえ、いい覚悟じゃん」

「俺こういう子たまんねえ」

 やった、男たちの関心を誘うことができた。

 少し怖いが、我慢だ。助けが来るまでの。

 ……助け、来るんだろうか。

 そう考えるともっと怖くなった。けど、いざ助けが入った時に、さんごだけが犠牲になって俺だけ無事なんてのは耐えられない。

「ぼうや。俺は君みたいな、いさぎのいい男が大好きなんだ」

 ニット帽の男が絆創膏をぽりぽりかきながら言った。

「気に入ったぜ。だからおまえは助けてやる」

 あれ?

「こっちの女からやっちまいな」

「いやああああああっ!」

「やめろおおおおおっ!」

 俺はとっさに動いた。手を縛られてるだけでバランスが悪くて立ち上がれないが、自由になる足を使って手近な男を蹴り上げる。

「ぐえっ!」

 靴下ごしに、ぐんにゃりとした柔らかい感触がした。

 俺の足が吸い込まれていった先は、スキンヘッドの男の股の間。

 大切なモノがぶら下がっているところを強打した男は、股間をおさえて倒れこむ。

「ぎゃはははっ! やられてやんの!」

「うぐっ、せえ! 黙れ!」

 だがそれで警戒したのか、男が二人がかりで俺を押さえ込んだ。

 やがて、スキンヘッドの男が立ち直る。若干内股気味になりながら、部屋に立てかけてあったバットを手にとった。

「くそっ……てめえのキンタマもぶっ潰してやる!」

 スキンヘッドがいうと、俺を抑えこんでいた男たちが、俺の両足を掴んで、無理やりこじ開けていく。

「そんなに女になりたきゃ、女にしてやるよ!」

「やっ、やめろ!」

 俺は叫んだ。

 失ってしまえば、ゼロになる。

 俺の身体はホルモンバランスが極端に乱れてるせいで、子どもは望めないかもしれない。でもまだゼロじゃないんだ。

「お別れしな!」

 バットがゴルフのように高く振り上げられる。

「いやだーっ!」


 鈍い音が、響いた。

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