4-5
連れて行かれた先は、そこそこ大きくてきれいなマンションだった。
てっきり、廃倉庫かどこかに連れて行かれると思ったが、そういうのはまんがの世界だけかもしれない。
部屋の中は薄暗い明かりで包まれていて、甘ったるいお香の匂いが染み付いていた。危険ドラッグ……ではないよな?
しかもおかしなことに、俺たちが放り込まれた床にはカーペットではなく、分厚いマットが敷き詰められていた。おかげで痛くはなかったけど……。
「ここ、なんだかわかるか?」
男の一人が言った。すごく楽しそうな顔をしていて、怖い。
「ヤリ部屋♡」
背筋がゾクッとする。
なにをヤるお部屋ですか、とは聞けない。まさかここで百人一首するわけじゃないだろう。
「さて、どっちからいく?」
「三人ずつそれぞれ楽しもうぜ」
「げえっ、俺、男はパス! こいつヅラ取れちまったからほとんど男じゃねーか」
「そうか? それでも俺いけるぜ」
「オメーと一緒にすんなし。変態!」
「面白えなあ。片方は四本、片方は三本。男は三人ずつなのに」
ゲラゲラと、何が面白いのかわからないが男たちが笑う。
反面、俺はゾクゾクと恐怖を感じていた。
隣にいるさんごもそうだろう。ふたりとも両手を手錠のようなもので拘束されているのだけど……普通、こんなものを持っているわけがない。
普通じゃないのだ。日常的にひとを拘束している連中なのだ。
この部屋で何人の女の子が涙を流したんだろう。
「うっ……」
さんごが口元を引き締めた。同じことを想像して吐き気をもよおしたのかもしれない。
「考えるな、さんご」
「お、おう……でも……あたしもうダメかもしれねー……」
そのさんごを見て、男たちはより楽しそうに騒ぎ立てた。
「ダメダメ、考えなくってもダメダメ」
「次は君たちの番だから」
そう言って男が俺たちの足元に写真をばらまく。
「……っ! いやあっ!」
何が写っているのか理解したさんごが叫んだ。目をそらそうとするが、男たちに捕まえられその写真を無理矢理見せられる。まぶたを閉じれば無理矢理開かれる。
それは裸の女性の写真だった。
未成年お断りの雑誌に掲載されるようなきれいなものじゃない。
あざを作り、血を流し、無理矢理足を開かされ、泣き叫んでいる。そんな写真だった。
「両方一気にやるよりよ、片方にもう片方がヤられるところ見せるってどうだ?」
「うほっ、趣味悪いな」
「サイテー!」
「なんだよ、じゃあやめるか?」
「ぼくちんサイテー人類だから、やりまーす」
男は楽しげに俺たちを見ている。その視線は、どっちかと言うと男である俺よりも、女であるさんごに集まっているような気がした。
さんごはもう抵抗する気力を失ったようにぐったりしている。
「俺からやれ!」
俺は叫んだ。
「やるなら俺からやれ!」
「へえ、いい覚悟じゃん」
「俺こういう子たまんねえ」
やった、男たちの関心を誘うことができた。
少し怖いが、我慢だ。助けが来るまでの。
……助け、来るんだろうか。
そう考えるともっと怖くなった。けど、いざ助けが入った時に、さんごだけが犠牲になって俺だけ無事なんてのは耐えられない。
「ぼうや。俺は君みたいな、いさぎのいい男が大好きなんだ」
ニット帽の男が絆創膏をぽりぽりかきながら言った。
「気に入ったぜ。だからおまえは助けてやる」
あれ?
「こっちの女からやっちまいな」
「いやああああああっ!」
「やめろおおおおおっ!」
俺はとっさに動いた。手を縛られてるだけでバランスが悪くて立ち上がれないが、自由になる足を使って手近な男を蹴り上げる。
「ぐえっ!」
靴下ごしに、ぐんにゃりとした柔らかい感触がした。
俺の足が吸い込まれていった先は、スキンヘッドの男の股の間。
大切なモノがぶら下がっているところを強打した男は、股間をおさえて倒れこむ。
「ぎゃはははっ! やられてやんの!」
「うぐっ、せえ! 黙れ!」
だがそれで警戒したのか、男が二人がかりで俺を押さえ込んだ。
やがて、スキンヘッドの男が立ち直る。若干内股気味になりながら、部屋に立てかけてあったバットを手にとった。
「くそっ……てめえのキンタマもぶっ潰してやる!」
スキンヘッドがいうと、俺を抑えこんでいた男たちが、俺の両足を掴んで、無理やりこじ開けていく。
「そんなに女になりたきゃ、女にしてやるよ!」
「やっ、やめろ!」
俺は叫んだ。
失ってしまえば、ゼロになる。
俺の身体はホルモンバランスが極端に乱れてるせいで、子どもは望めないかもしれない。でもまだゼロじゃないんだ。
「お別れしな!」
バットがゴルフのように高く振り上げられる。
「いやだーっ!」
鈍い音が、響いた。




