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絆創膏の男とキャップの男の他に、スキンヘッドにヒゲの男、フード付きパーカーの男、キャップにフードの男、ニット帽にフードの男。計六人の男がそこにいた。その後ろには、乗ってきたのだろう、趣味の悪い飾りのついた真っ黒なワゴン車がある。
「なんだ、女じゃねーか」
「おいおい、さっきハダカだって言ってたのは、お楽しみの最中でしたかー?」
男どもが下品そうに笑う。
「え?」
言われて気づく。そうだ、俺はまだ女装しているんだ。
「女はすっこんでろ。さっきの男出せ!」
「あ、あの……」
出鼻をくじかれた俺は、一瞬で意気消沈してしまう。
「何やってんだよ、明宏!」
さんごが言った。
「アキヒロ? なんだ、てめえカマか?」
それを受けてスキンヘッドの男が言った。
「ヤベーな、あいつそういう趣味の持ち主だったのか?」
「オカマもわりとヤバイぜ。男のイイところ全部知ってやがるからよ」
「ないわー。マジヤバイ」
「うるさい!」
囃し立てられてようやく、俺は居直った。
「男だとか女だとか真ん中だろうと、関係あるか! 俺は俺だ!」
反論されると思ってなかったのだろう。男たちの間に不穏な空気が走る。
「あのさー。坊や、俺たちはあの男に用があって来てるのよね?」
鼻に絆創膏をつけたニット帽が、前に歩いてくる。
「カッコつけるのもいいけど、怪我するよ? アキヒ子ちゃん?」
「アキヒコって、それじゃやっぱり男の名前じゃねーか」
さんごの隣に立つキャップの男が笑った。
「それより、そいつも人質にしちまえよ。一緒にオネンネしてたお友達なんだろ?」
「賛成。俺、オカマはじめてだけど楽しめるかな」
ゾクッとした。
こいつら、さんごと俺になにをさせるつもりなんだ?
どうやらユーキが出てきても、それで穏便に終わるわけじゃなさそうだ……。
どうする? どうすればいい?
「なあに、優しくしてやるからよ」
ニット帽が絆創膏のついた顔を近づけてきた。
どうしよう、怖い……怖い、怖い怖い怖い怖い。
「うわあああああっ!」
次の瞬間、頭の方から鈍い音がした。
気づけば、俺はその男の顔に頭突きを叩き込んでいた。
「ふがっ」
絆創膏のついた鼻に直撃し、ニット帽がつんのめる。だが大して効いていない。
「てめえ!」
「明宏!」
さんごの声が聞こえると同時に衝撃が走る。
かぶっていたおさげのウィッグが飛んでいったのが見える。
ガクガクしていた足は、衝撃を支えきれず、俺は塀に倒れ込んでしまった。
外見が女だから手加減されたのだろう、拳ではなく、ビンタだった。
「連れてくぞ! ケータイ取り上げろ!」
「あの古臭いヤンキーはどうすんだ?」
「うるせえ! どうせ家は割れてんだ!」
俺はそのまま、さんごといっしょにワゴンの後ろに放り込まれた。
車が走りだすと、さっき『オカマもいいぞ』とか言った男に体中をいじられる。まさか、男の俺がこんな対象に見られる日がくるとは思ってなかった。
「こいつ、ケータイ持ってねーよ」
「マジでか? 今どきのJKがケータイ持ってねーわけねーだろ」
「家ん中じゃね? 鞄とか持ってねーしよ」
正解。
女の服はどうしてか男のとくらべてポケットが少ない。
だから俺は最近、女装するときは財布や携帯は鞄に入れることにしていた。
貴重品を持ったままこんな連中と喧嘩できるかよ。
結果的に、それは幸いしたわけだが……同時にそれはユーキと連絡する手段がなくなったっていうことでもある。




