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妹久間学園は私立なので、電車通学とバス通学が多い。中には一時間くらいかけて通学してる強者もいるらしいから驚きだ。
必死だったとはいえ、よくそんな学校に入れたな、俺。
「明宏ーっ!」
その日の帰り道。またも後ろから元気のいい声が聞こえてきた。
振り向くまもなく、隣で自転車が急ブレーキをかける。乗っていたのは、さんごだ。
「よ。乗ってかない?」
「おまえ、自転車なんてどこにあったんだ? 登校のときは歩いてたと思ったんだけど」
「中学のほう。卒業式の時寄り道したからずっと置きっぱでさ」
「俺らまだ、自転車通学許可もらってないんだぜ」
「堅いこと言うなよ。これは中学の下校だからセーフ。それより、乗ってかねえ?」
さんごは自転車の後ろをさした。
「二人乗りは違法だぞ」
「だから堅いこと言うなっての」
そう言って、さんごは自転車を降りる。するとそのまま、後ろにまたがった。
「なんだよ、しかも俺がこぐのかよ」
「オメーだって、女の後ろに男が乗るなんてみっともねーだろ」
「……ただこぐのが面倒になっただけじゃないだろうな」
「バレたか」
「おい」
「ま、オメーだってアレ、電車賃一回浮くし、ここまでの道覚えとけばオメーだって自転車通学できるぜ」
「道は調べたから、いいよ。っと」
そうは言うが、俺は後ろにさんごを乗せた自転車にまたがった。
電車賃一回分は悪くなかったし。もともと自転車通学を考えてたので、定期券も買ってない。道だって地図で調べるのと実際に通るんじゃわけが違う。
「で、明宏は姫武台さんのことが気になるワケ?」
自転車を走らせてしばらくして、制服姿が見えなくなったところで、さんごは言った。
「……気になるっつーか、まあ、気になるは気になるけどさ」
「え、マジ? それって恋愛の意味で?」
「だとしたらおまえになんか迷惑がかかるのか?」
「……いや、こういう時ウソでも否定すると思ってたから、あたしがリアクションに困っちゃってよ。へー……そうなんだ」
そう言うさんごは、確かににちょっと困ってるようだった。
「なんだよ」
「だってよ、オメー……。この胸で女の子好きとか言っちゃうワケ?」
「ひいあっ! 危なっ!」
さんごは後ろからいきなり俺の胸を鷲掴みにしてきた。思わず俺はブレーキをかける。
「触んな!」
「さっきも思ったけど、意外に硬いのな。ブラしてんの?」
「ナベシャツってんだよ。胸潰してごまかすやつ」
「へー。文明の利器ってやつはすげーな」
さんごが手を離したので、俺は自転車を再び走らせる。
「でさ、そんな立派なおっぱい持って、姫武台さんに告白しようっての?」
「……」
俺は何も言えなかった。
「姫武台さん、あたしが言うのもなんだけど、おっぱいでっかい方じゃねえしさ。オメーの方がでっかくねえ?」
「言うんじゃねえよ。わかってるんだから」
「ああ。うん、わりい」
さんごは素直に謝ってきた。だから俺もしつこくは言わない。
「けどさ。自然にしぼむんだろ? そのおっぱい」
「……最初はそう聞いてたんだけど、もう無理なんだってさ」
「そう……なのか?」
「医者の見立てが甘かったらしくてさ。ここまで立派に成長しちゃうと、思春期のなんやかんやが原因ってわけじゃないみたい」
「手術とかはしねーの?」
「それも考えた。けど、まだ成長期だから、成長しきってから切ることにしたんだ」
「うげっ、まだでかくなるのかよ、そのおっぱい」
「言うなよ……」
俺はさんごを軽く小突きながら、情けないような気持ちで言った。