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その後、ファミレスで行われた打ち上げは、セクシャリティ暴露の場所になっていた。
裏方はさんごしか出席しなかったので、秘密を隠す相手はもう居ない。
俺、ユーキ、マメさんの女装部トリオは、せっかくメイクしたんだしってことで、衣装ではないが異性装で集まっていた。ユーキは久しぶりにヤンキー姿だ。結局この格好が楽らしい。
「初恋の相手は幼稚園の時の男の子なんだ」
「ああ、ありがちですよね」
ラブミさんはマメさんと話しながらイキイキと盛り上がっていたし、もう何も怖くないようだった。
「そういえばクマちゃんは、普段どうやって胸隠してるの?」
「ナベシャツってのがあるんです。胸を潰すためにつくられたもので……」
「いいなあ。わたし胸がまだ膨らんでなくて、お薬変えたら生えるかな」
「揉んだら大きくなるかもしれませんよ」
マメさんがセクハラまがいの発言をすると、海老さんが小さくマメさんを小突いた。
「ユーキもナベシャツ使ってるの?」
「俺は、サラシで潰してます。そんなに大きくもないし」
「そっか。はあー、ままならないね。わたしとユーキの身体が逆だったら、なんにも悩まなくてよかったのに」
「ほんと、そうですね」
「ああ、でもなんだか、さんごちゃんにああしてもらえて、結果よかったかもしれないな。わたし、演劇部のみんなに本当の事言えて、楽になったかもしれない」
「そっすか? そう言ってもらえると、あたしも楽になるんすけど」
さんごは胸をなでおろして言った。
「女性に溶けこまなきゃならないって思ってたからなんだけど、元男子っていうセクシャリティがあってもいいんだねって思ったもの。マメちゃんにも感謝しなきゃ」
「女装部がお役にたてたなら何よりです」
マメさんは、とりたて大したことでもないように答える。
「もちろん海老ちゃんにも感謝してるよ。こんな身体でも好きだって言ってくれたんだもの」
「……よせ、人前で……」
「あれ、海老ちゃん照れてる?」
「……う、うるさい!」
海老さんはそう言ってそっぽを向いてしまった。海老さんがラブミさんのことを好きだってことは、もうみんなが知ってるんだし、隠すことないのになあ。
「そうそう、ユーキはどっちが好きなの?」
「……え?」
テンションの高いラブミさんが、急に話題を変えたので、ユーキは戸惑ったようだった。
「だから、ユーキは男と女と、どっちが好きなの?」
「……」
「たしか、前に男には興味がないって言ってたよな」
ユーキが黙ってしまったので、かわって俺が答える。
「そうなの?」
ラブミさんは食いついてきた。
「そうそう。あれ、なんで俺そのこと知ってるんだっけ? なんのとき聞いたんだっけか」
俺は言った。だが、その瞬間ユーキが俺を睨みつける。
「忘れたのかよ」
「えっ、いや。うん……ごめん。まずかった?」
「……本気じゃなかったのかよ……」
「あ、ああ……。うん。覚えてないから……」
俺は言った。ええと、なんでそうなったんだっけ。
やばい、ほんとうに思い出せない。
「……すんません、俺、今日……帰ります」
言ってユーキは机に千円札を二枚置いて、立ち上がった。
「多いよ?」
さんごがそれを見て言う。
「お釣りはいいです。それじゃ、お疲れ様でした」
「ユーキ! 俺、まずいこと言った?」
「……自分の胸に手を当てて、聞いてみろ」
と、ユーキは昔のまんがみたいなことを言って先に帰ってしまった。
「今のは君が悪いね」
マメさんがニヤニヤしながら言った。
「覚えてるんですか?」
「君が姫武台さんっていう女の子に好きですと言って、それを断るために彼女はユーキになって、『男には興味がない』って言ったんじゃなかったっけ?」
「あ……」
ようやく俺は思い出した。
俺はマメさんの前で、女装部を抜けるため、自分の男らしさを証明しようとした。そのために俺はユーキ……姫武台さんに告白したんだ。一目惚れだとかなんとか言って。
「あれ忘れたって言ったら、言われた方は傷つくんじゃないかなあ」
マメさんが言う。
そうだ、俺は確かに入学当初、ユーキに一目惚れしたと言った。
でもそれはもう何ヶ月も前。今はもう夏休みだ。すっかり忘れていたし、忘れられたと思ってたけど。
「でも、ユーキは男に興味がないんですよ。それでなんで気を悪くするんです?」
「さあね。それはユーキにしか、いやユーキ自身にもわからないんじゃないかな」
マメさんは面白そうに言って、メロンソーダにぶくぶくと息を吹き入れた。
「あいつは俺と同じなのかも知れんな」
ぼそりと海老さんがつぶやく。
海老さんと同じ?
……あ、そういうことか!
俺はようやく気づいた。そうか……もしかすると、ユーキは俺のその想いに……
「……追いかけてきます! ええと、お金……お金」
俺は着替えの入った鞄から財布を取り出したが、中身には一万円札しか入っていない。
「お釣りいらないです!」
「無理すんな。あとで返すよ」
さんごは生暖かい目をして言った。




