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私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
第三章 島海老慎之介
36/47

3-7

「まず、携帯はオフ。開演中のおしゃべりもオフ。あと用事がある方は仕方がないんすけど、途中退場は原則禁止でお願いします。それじゃ、もうすぐ始まりますんで、よろしくお願いします!」

 言って、さんごは教室の階段を駆け登った。入り口ドアの外に出て、ドアを閉める。

 コンピューター部の先輩がBGMを少しずつ大きくし、文芸部の先輩が教室の電気を消す。

 この暗くなっている状態を暗転という。シーンの切り替わりなどに使われる。暗くなっているうちに、役者が出入りしたりするのだ。

 板付き、つまり暗転開けにステージに出ているのはユーキ演ずるアイドル、『王子(おうじ)ユーキ』だ。

 漫研の先輩がスポットライトを当てた。

「本日は、わたくし王子ユーキの主演映画『シンデレラ』の制作発表会にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」

 ユーキが一礼する。記者会見というていだ。

「皆様気になるのは、シンデレラ役を演じる女優はだれなのか……それは今まで発表しておりませんでしたが、今日ここで発表いたします。シンデレラは一般公募を行い、これからオーディションを行います。我こそはシンデレラにふさわしいと思う方、一般人芸能人を問わず、どうぞお越しください」

 ユーキはまた一礼する。そして最後にこう言った。

「くわしくは、Webで」

 スポットライトが消え、暗転する。

 ステージの証明がついた時、そこには海老さんとマメさんが座っていて、テレビを見ているていで話しはじめた。

「へえ、一般公募ねえ」

「エビさん、出てみたらどうです?」

「うちみたいな弱小劇団から、ビッグタイトル主演女優への道を駆け上がるなんて、まさにシンデレラだね。まめ子、あんたも出なさいよ」

「それじゃ、エビさんと競い合う事になっちゃうじゃないですかあ」

 そして次はついに俺の出番。俺は薄汚れたエプロンをつけてステージの上に転がり込む。

「あ、あの! 倉庫の掃除終わりました」

「ご苦労さん。じゃあ次は衣装の洗濯をして頂戴」

 海老さんが言う。マメさんと海老さん、交互に俺に雑用を押し付けてくる。

 そして悠々と二人は退場しようとし、それを俺が止める。

「あの! ……いつになったら、わたしにお芝居を教えてくれるんですか?」

「お芝居を? はん、あんたみたいな不細工、女優は無理!」

「生まれ変わって美人になったら、教えてあげてもいいけど?」

 言って、二人は退場した。

 意地悪な継母とお姉さまという設定は、現代劇には似合わない。なのでこの三人は、同じ劇団に所属する先輩と後輩の女優という設定だ。

 海老さんはあれから吹っ切れたように女装芝居を楽しんでいる。今までのイメージから脱却し、演劇人としても一皮向けたようだ。

 シンデレラと違うのはそこだけじゃない。

 この後、ラブミさんがアイドルとして俺をスカウトする。劇団のマネージャーを通さずに別名でオーディションを受けるが、ユーキが直接見る最終オーディションのさいに海老さんたちにバレて逃げ出してしまう、という展開だ。

 そして俺は一人になったところで、携帯電話の着信に気づくところだ。

「はい……。え、靴屋さんですか?」

 ここは俺の一人芝居。

「王子ユーキさんの電話番号を預かってるって、どういうことですか? かければわかる……って」

 俺はすぐ電話を切って、かけ直す。すると袖から携帯を持って、ユーキが現れた。

「アキです。シンデレラオーディションを受けた……」

「王子ユーキです。二度目まして」

「なんで、靴屋さんに電話番号をあずけたんですか?」

「オーディションの日、君は僕のマネージャーと、靴を間違えて帰っただろう? 残ってた靴のサイズが女性物にしては大きかったので、オーダーメイドじゃないかと思って調べたんだ」

「ごめんなさい、靴はお返しします。宅配便でいいですか?」

「いや、そうじゃない」

 ユーキはそこで間をとって、言った。

「オーディション合格、おめでとう」

「えっ」

「ひと目見た時、君に決めた。シンデレラ役は君のものだ」

「そ、そんな……わたしが……」

「今、六本木にいる。来られるかい?」

「はい、いま行きます!」

 そして俺は電話を切り、一度袖に引っ込んだ。

 海老さんとマメさんが、シンデレラ映画の試写会帰りに愚痴を言っているシーンをはさみ、その間に俺とユーキは着替えを済ませる。

 映画公開後の打ち上げという体だ。どちらもおしゃれをしている。

「靴が僕らを再会させてくれるなんて、まるでほんとうにシンデレラのようだったね」

「ええ、でも……シンデレラは十二時で魔法が解けてしまいます。わたしはこの映画が終わったら、またもとの劇団で下っ端に逆戻りです」

「そうはならないよ。今や芸能界は君に注目し始めている。この業界、一発屋になるだけでもすごいことなんだよ」

「それは、王子さんのお手柄ですから……」

「いいや、違う。僕が君を選んだのは、シンデレラとしてのオーディションだけではないんだ」

「え?」

 ユーキが俺の肩を抱いた。

「僕は、どうやら映画のパートナー候補と同時に、人生のパートナー候補を見つけてしまったのかもしれない。もし君さえ良ければ、真剣に交際させてもらえないだろうか」

「わたしと、ですか」

「シンデレラは王子と幸せに暮らしました……めでたしめでたしとなってくれ。頼む」

 そして俺は十分に間をとる。

「……はい」

「アキ!」

 ユーキが俺を抱きしめた。そしてくるくると周り、客席に背を向けて顔を近づける。

 キスしたふりをして、この舞台は終わりだ。

 だがここでトラブルが起きた。

 俺の唇に柔らかい感触が当たる。

 ユーキが勢い余って、ほんとうに俺とキスをしてしまったんだ。

 いや、勢い余ってなんてものじゃない。ユーキは舞台の雰囲気に飲まれて、ほんとうに興奮してしまったのかもしれない。

 ファーストキスだったのに! ファーストキスだったのに!

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