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それから一週間半。テストは終わり、俺たちは悲喜こもごもの顔で、〇〇一教室に集まっていた。
今日は部活再開日である。
「というわけで、新しい台本です」
ラブミさんはコピー用紙の束をみんなに配った。
シンデレラの衣装はもう直せなかった。だから俺たちはシンデレラ風現代劇をやることにした。
衣装は女装部がいろいろ集めたものを使い、早着替えは演出を変える。
シナリオも王子様を男性俳優にして、ダンスパーティではなく映画のオーディションにするということにした。当然、魔法使いではなく、ビューティーアドバイザーという謎の職業を用意する。
ちょっとだけマイ・フェア・レディの要素も入れ、魔法使いがシンデレラをどうして変身させたかというストーリーも描く。男らしくしても女性に見えるラブミさんを見せて、『本当は男だ』という疑惑を払拭するつもりだ。
「テスト期間中に台本間に合ってよかったよ」
ラブミさんが言う。
「良かったんですか? テスト勉強しなくて」
「テスト直前は、わたしは勉強しないの。ふだん勉強してれば必要ないから」
「……それ、出来る人のコメントですよ」
俺は一連の騒ぎもあって、まったく勉強が手につかなかったってのに。
「それから、今日はあとで裏方の皆さんともミーティングをします。今日中に台本持ちながらでいいから、通しで一本やるよ!」
裏方は照明係が二人、音響が一人。よその部から協力してくれるひとを呼んである。もちろん演劇部が協力できるときはお返しをする予定だ。
「ごめんください」
と、蚊の鳴くような声とともにドアが開いた。
「あの……」
「おまえ!」
海老さんが声をあげる。
入ってきたのは、裏方ではなく、なんとあのさんごだった。
「いらっしゃい。待ってたよ」
そのさんごを笑顔で迎えたのは、ラブミさんだ。
「今回、ドア開閉係をやってくれる、帰宅部の千住さんごさん。みんなよろしくね」
「よっ、よろしくお願いします!」
どうも、さんごはすでにラブミさんとは連絡をとり合ってたらしい。
そういえば家族同士の面談がどうのって言ってたけど、あれってもう済ませたんだっけ?
「ラブミ? いいのか、こいつは……」
「わたしを男だと勘違いした子、でしょ? 勘違いなんかだれでもあるじゃない」
「あの、その節はご迷惑をおかけしま、いたしましま、いたしました!」
さんごが深々と頭を下げる。
「ということなので、この件は終わりました。以降、話題にしたひとは厳罰です」
「厳罰?」
「海老ちゃんとチュー」
「うげえ」
ユーキが声悲鳴をあげた。
俺も声こそ出さなかったが、絶対に話題にするもんかと思った。
「それ、俺が常に厳罰じゃねえのか。……まあ、こいつに関しては、ラブミがいいんならいいんだけどよ……」
「ラブミさんはいいんですか?」
一人冷静なのはマメさんだ。
「何が?」
「自分の彼氏が他の人とキスしても、ですよ」
「うん。だからこれはわたしの罰でもあるのです」
ラブミさんはしれっとそう言った。
「ふふ……そういうことなら、積極的にこの話題もちだそうかな」
マメさんは海老さんに視線を送って、したなめずりをする。
「俺への罰じゃねえか! とばっちりだ!」
「つーわけで、よろしくな」
頭を上げて俺を見たさんごは、いつものさんごに戻っていた。




