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私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
第三章 島海老慎之介
34/47

3-5

 それから一週間半。テストは終わり、俺たちは悲喜こもごもの顔で、〇〇一教室に集まっていた。

 今日は部活再開日である。

「というわけで、新しい台本です」

 ラブミさんはコピー用紙の束をみんなに配った。

 シンデレラの衣装はもう直せなかった。だから俺たちはシンデレラ風現代劇をやることにした。

 衣装は女装部がいろいろ集めたものを使い、早着替えは演出を変える。

 シナリオも王子様を男性俳優にして、ダンスパーティではなく映画のオーディションにするということにした。当然、魔法使いではなく、ビューティーアドバイザーという謎の職業を用意する。

 ちょっとだけマイ・フェア・レディの要素も入れ、魔法使いがシンデレラをどうして変身させたかというストーリーも描く。男らしくしても女性に見えるラブミさんを見せて、『本当は男だ』という疑惑を払拭するつもりだ。

「テスト期間中に台本間に合ってよかったよ」

 ラブミさんが言う。

「良かったんですか? テスト勉強しなくて」

「テスト直前は、わたしは勉強しないの。ふだん勉強してれば必要ないから」

「……それ、出来る人のコメントですよ」

 俺は一連の騒ぎもあって、まったく勉強が手につかなかったってのに。

「それから、今日はあとで裏方の皆さんともミーティングをします。今日中に台本持ちながらでいいから、通しで一本やるよ!」

 裏方は照明係が二人、音響が一人。よその部から協力してくれるひとを呼んである。もちろん演劇部が協力できるときはお返しをする予定だ。

「ごめんください」

 と、蚊の鳴くような声とともにドアが開いた。

「あの……」

「おまえ!」

 海老さんが声をあげる。

 入ってきたのは、裏方ではなく、なんとあのさんごだった。

「いらっしゃい。待ってたよ」

 そのさんごを笑顔で迎えたのは、ラブミさんだ。

「今回、ドア開閉係をやってくれる、帰宅部の千住さんごさん。みんなよろしくね」

「よっ、よろしくお願いします!」

 どうも、さんごはすでにラブミさんとは連絡をとり合ってたらしい。

 そういえば家族同士の面談がどうのって言ってたけど、あれってもう済ませたんだっけ?

「ラブミ? いいのか、こいつは……」

「わたしを男だと勘違いした子、でしょ? 勘違いなんかだれでもあるじゃない」

「あの、その節はご迷惑をおかけしま、いたしましま、いたしました!」

 さんごが深々と頭を下げる。

「ということなので、この件は終わりました。以降、話題にしたひとは厳罰です」

「厳罰?」

「海老ちゃんとチュー」

「うげえ」

 ユーキが声悲鳴をあげた。

 俺も声こそ出さなかったが、絶対に話題にするもんかと思った。

「それ、俺が常に厳罰じゃねえのか。……まあ、こいつに関しては、ラブミがいいんならいいんだけどよ……」

「ラブミさんはいいんですか?」

 一人冷静なのはマメさんだ。

「何が?」

「自分の彼氏が他の人とキスしても、ですよ」

「うん。だからこれはわたしの罰でもあるのです」

 ラブミさんはしれっとそう言った。

「ふふ……そういうことなら、積極的にこの話題もちだそうかな」

 マメさんは海老さんに視線を送って、したなめずりをする。

「俺への罰じゃねえか! とばっちりだ!」

「つーわけで、よろしくな」

 頭を上げて俺を見たさんごは、いつものさんごに戻っていた。

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