3-3
「だって、俺……わかんなくなっちゃったんだもん……」
さめざめとした鳴き声が聞こえてきたので、俺は驚いた。あの大柄で恐ろしかった海老さんが、両手で顔を覆って、まるで女の子のように泣いている。
「情けねえな、男のくせ……に……くそっ!」
ユーキは自分が吐いた言葉の矛盾に気づいて、毒づく。
男のくせに、ということは、男なら男らしくあれという性的役割を押し付けているということにほかならない。
「なんで世の中には男と女がいるんだよ! くだらねえ!」
言って、ユーキは床に座り込んだ。
「明宏、ハンカチかティッシュ持ってねーか? 海老さんの鼻血止めてやれ」
「え?」
俺があまりのことに呆けていると、先に立ち直ったマメさんが化粧落としのあとにつかう清潔なタオルを、海老さんに渡した。
「もう暴れねえよな?」
ユーキが海老さんの顔を覗き込みながら言った。海老さんは顔をタオルで覆いながら、何回もうなずく。
しばらくの間、海老さんの泣き声だけが部室に響いていた。
「海老さんも辛かったんですね」
マメさんが言った。
「……俺、ひっく……。ラブミが、うらやましかったのかも、しれない……」
「うらやましかっただと?」
ユーキがいらだった様子で言った。
「うまく、言えないけど……俺、どうすりゃいいんだ……」
再び、部室が静まりかえる。
海老さんは、なんでこんなに怒っているんだろう。
ラブミさんに嘘をつかれたから? それだけじゃない。それだけで怒ってるわけじゃなさそうだ。
……だとしたら。
「マメさん。わかりました」
俺は思いついて、言った。
「たぶん、僕も同じこと考えたと思う」
「じゃあ、それやりましょう」
俺とマメさんは顔を見合わせて笑った。




