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私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
第三章 島海老慎之介
31/47

3-2

 最初に目に入ったのは、シンデレラの衣装を海老さんが力づくで引き裂いた瞬間だった。

「海老さん! なにを!」

「演劇部は終わりだ! もうこんなものは必要ない!」

 そう言って海老さんはボロキレになった衣装を投げ捨てた。その先には折れた眼鏡を持って呆然としているマメさんがいる。

「女装の変態に、暴力事件。二つもスキャンダルが重なれば、廃部は決まりだ」

「なんでそんなことを……」

「あいつが俺たちを裏切ったからだ」

 そう言う俺に海老さんは即座に答えた。

「あの野郎は女装の変態だったんだ! 俺たちを騙していたんだ!」

「だからって、こんなことしなくたっていいじゃないですか!」

「終わりには終わりにふさわしい終わり方があるだろう!」

「どういうことです?」

「こういうことだ!」

 海老さんは衣装かけを蹴り倒した。なんの芝居でつかったかわからないような、再利用できるかわからないような小道具が壊れて散らばる。

「やめてください!」

 俺はもう一つの衣装かけに手をかけた海老さんの、その手を掴んだ。

「止めるな!」

 海老さんが腕を振る。その一振りで俺は吹き飛ばされる。

「おっと」

 そんな俺を受け止めたのは、ちょうどやってきたらしいユーキだった。

「……なにやってんすか、海老さん」

 女子制服姿のままのユーキの口調が、ヤンキーのユーキのそれにかわる。不思議と、女の祐希の姿なのに、俺にはユーキの姿に見えた。

「見てのとおりだ」

「見てわかんないから聞いてんすよ。海老さん、バカっすか?」

 ユーキは俺を押しのけて、部室の中まで上がり込んだ。

「バカとはなんだ!」

「バカだからバカって言ってるんですよバカ!」

「先輩に向かって!」

「バカを先輩に持った覚えはねえっす!」

「ユーキ、落ち着け……」

「ぐうっ!?」

 俺がユーキを止めようとした瞬間、長身の海老さんがうずくまった。

 その腹には下からユーキの拳がめり込んでいる。

「昨日も思ったけど、あんた救いようのねーバカっすね」

「なんだとぐえっ!?」

 起き上がろうとしたその海老さんの顔に、ユーキはスカートがめくれるのもかまわず、容赦なく膝を叩き込んだ。

「誰が変態だ、誰が。二度も言いやがって。もう一度言ってみろコラ!」

 海老さんは床に膝をついたままユーキを睨みつける。

「ああ、何度だって言ってやる。あの野郎は……」

「言わせるか!」

 ユーキが両手の拳をあわせてハンマーのように叩き込んだ。ものも言わず海老さんは床に這いつくばった。

 その海老さんの頭をユーキが鷲掴みにして引き起こす。海老さんの鼻と口は血まみれになっていた。

「殴られて痛えだろ? けどよ、ラブミさんの心はもっと痛かったんだよ!」

「……」

「何とか言えよ!」

「ら、ラブミは……」

「言わせねえよ!」

 その顔面をユーキは床に叩きつけた。一回、二回、三回……。

 くり返すがユーキは女子制服のままだし、大柄な海老さんとは頭ひとつ分身長差がある。にもかかわらず一方的だった。

 海老さんは相手が女子なので手が出せないのかもしれないが、ヤンキーのユーキにはそんなことは関係ない。

 俺はと言えば、部室の入り口で腰を抜かして震えていることしかできなかった。気づけばマメさんが隣に来ていて、不安そうに俺の手を握っている。

「海老さんよ。まあ、座れや」

 やがて、ユーキが言った。海老さんは言われるままにその場に座る。

「いま一番辛いのは誰かわかるか?」

「……」

「誰だか聞いてんだ!」

「……ラブミ……」

「そうだ、よくわかってるじゃねえか。じゃあ、そんな時、海老さんはどうするべきだった?」

「……だって……」

 海老さんがかすれたような声を漏らす。

「だって、俺……わかんなくなっちゃったんだもん……」

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