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俺たちは一度教室に集められたあと、学園共通の大講堂に集められ、入学式が行われた。余談だがさんごは中学からなので、中学の卒業式もこの大講堂だったらしい。
それが終わると、今度は教室で自己紹介だ。
「熊美明宏です。外部の中学出身ですが仲良くしてください」
お決まりの自己紹介を短めに済ませ、俺は一息つく。さっきさんごに会ったことでちょっと不安だったけど、大丈夫。他に知り合いはいない。
早くみんなの顔と名前を一致させなきゃな。知り合い同士が多いエスカレーター学園なんだから、少数派の外部生は肩身が狭くなっちゃう。
「姫武台祐希です。僕も外部の中学出身ですけど、よろしくお願いします」
おっと、俺の他にも外部中学出身者がいたか。
そう思って俺はそいつを見る。そして驚いた。
女の子だった。
いま、そいつは確かに、自分のことを『僕』と呼んでいた。声も若干低めの、小学生男子みたいな声だったのでびっくりしたが、間違いなく女の子だった。
黒いショートヘアをなびかせ、大きな瞳で周りを見回しながら、そいつは一礼した。
それが、彼女。姫武台祐希だった。
次の休み時間、俺はさんごを捕まえた。
「さんご、ちょっといいか?」
「ん? なにさ」
「姫武台さんに、聞いてほしいことがあるんだけど……」
「ええ? なんだよ、自分で言えばいいじゃんか」
「初対面の女子と平気で話せるもんかよ」
「できるできないじゃねえよ、やるんだよ。おーい、姫武台さーん」
さんごは言うと、姫武台さんに向けて手をふった。
「おっ、おい……」
姫武台さんは、まだ誰とも話してない。外部生はお互い辛いもんだ。
「ん、何?」
「こいつが、あんたに聞きたいことがあるんだってさ」
「ええと……君はたしか、熊美くんだっけ? 僕に聞きたいことって何?」
「そう、それだよ」
俺は思い切って言った。
「自分のこと、『僕』って言う女の子、珍しいなって思ったんだ」
「ええ、そうかな? まんがやアニメじゃ珍しくないじゃない?」
「現実だと珍しいよ。初めて見た」
「おかしいかな。僕って言うの」
「おかしくはないけど……なんで?」
「うーん……理由はないんだけど、癖かな。いつの間にか僕は『僕』って言ってて、いまさら変えられないやって感じ」
姫武台さんは、照れるように言った。
「ああ、でも、堅い席とかでは『わたし』も使うんだよ。さっきは……そうだね。初めてのひとたちの前では『わたし』って言ったほうがよかったかな」
「いいんじゃねえ? こいつがナンパするきっかけになったんだし」
横からさんごが茶化してきた。
「あ、熊美くん。これナンパなんだ」
「そんなんじゃないって!」
「冗談だよ。外部生同士だし、すでにできてる輪に入れない少数派同士、仲良くしよう。よろしくお願いします」
「あ、あ。うん。よろしく」
「ああ、なんだか妬けますねえ。ちょっと、一枚いい?」
そう言ったさんごは、すでに携帯を手にしてカメラを向けてきていた。
さんごはスターシステムです。「なろう」掲載作品に同じ役者が演じるキャラが出ています。