2-14
月曜日。教室に行くと、さんごが今にも死にそうな顔で机に頭を投げ出していた。
「茅大先輩、夏風邪で休みだって……」
俺を見つけたさんごは、力なくそう言った。
「担任にも聞いたんだけどよ。……あーあたしってばなんてことしちまったんだろ!」
「おちつけよ……」
「おはよう、さんご」
そのさんごに、別の女子が話しかけてくる。
「ねえ、ツイッターに書いてたのってほんと? あの写真、演劇部の三年生だよね。女装して通学してるけど実は男だって話」
「勘違いだったってあとで書いたじゃねーか!」
「なーんだ。そうなの? わたしリツイートしか見なかったから」
「わかってくれりゃいいんだけどよ……」
そうするとその女子は、さんごに興味をなくしたかのように立ち去る。
「今みたいに聴いてきてくれりゃいいんだけどさ。そうじゃねーと訂正すら出来ねーんだよな……」
「千住、いる?」
「またかよ! あれは勘違いだっつってんだろ!」
そう言って教室に入ってきた人影に向かって、さんごは反射的に怒鳴り返す。
「先生に向かってそういう口のきき方はよくないなあ」
入ってきたのは担任だった。まだホームルームまでにはかなり時間がある。
「げっ……センセ……」
「ホームルーム前にちょっと話が聞きたいんで、職員室に来てくれる?」
「はい……」
さんごは立ち上がって、そして俺の方を見て、つぶやいた。
「あー……。たはは、もう、あたし……ダメだな……」
「おまえは悪くないよ。勘違いなんだから」
俺は励ましの言葉をかけてやったが、さんごは肩を落とし、とぼとぼと担任についていった。
さんごはそのまま教室に戻ってこなかった。
体調不良による早退だと担任は言った。
だが……。
「明宏、見てよこれ」
休み時間になって、祐希が携帯を見せてくれた。
689 :名無しさん@お腹いっぱい。ID:hawSI2M3er
男の娘欠席、さんごちゃん早退したもよう。
そこにはそんなことが書いてあった。
「これって?」
「匿名でだれでも書き込めるインターネット掲示板。どうも、さんごとラブミさんが監視対象になってるみたい」
「なんでそんなことになってるんだ?」
「元男性の女子生徒ってだけでスキャンダル対象だし、さんごはその秘密をばらした悪い奴、って扱いみたい」
「うちの学校に芸能リポーター気取りがいるのかよ……悪趣味な連中がいるもんだな」
「さんごはしかたがないよ。本名でツイッターやってればこういうこともあるし。問題は、ラブミさんだね……」
「だな……」
ラブミさんの秘密は明らかになってしまった。
しかもそれがインターネットで公になってしまうなんて、とんでもないことだ。
「まいったなあ……」
俺がつぶやいた時、教室のドアが乱暴に開いた。
「千住さんごはどこだ!」
「海老さん!?」
飛び込んできたのは、三年生の島海老先輩。つまり、演劇部の海老さんだ。
「クマ! おまえの友達はとんでもないデマを流してくれたな!」
「待ってください、とりあえずここでは……」
「ココもナッツもあるか!」
「海老さん、落ち着いてください。さんごは今日は早退しました」
「だったら家を教えろ! 俺が話をつけてやる!」
その海老さんの迫力たるや、以前にみた借金取り役も超える本気の怒りだった。
「海老さん、ラブミさんのお家は知ってますか?」
それをなだめるようにユーキが聞いた。
「知ってるがどうした」
「だったら、ラブミさんのケアが先です。そうは思いませんか?」
「……………………」
海老さんは、顔色を真っ赤にしながら、考えこむように黙り込んだ。
「そうだな。放課後に行く、お前らも来い」




