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「茅大先輩は、もしかすると女性になった男性なのかもしれない」
祐希が言って、一瞬俺は息を飲んだ。
「はあ? 女装ってこと?」
さんごはイライラしてるふうに言う。
「……なんというか、言葉を選ばなきゃならないんだけど……」
「いいから、バカなあたしにもわかるように言え」
「GIDって知ってる? 性同一性障害なんて言われてるけど、僕はこの日本語はあんまり好きじゃない」
「オメーが好きかどうかなんてどうでもいいんだよ」
「こちらこそ、知ってるかどうか聞いてるの」
「……知らない……けどよ」
「簡単に言うと、肉体の性別と心の性別が一致してない状態のことをいうの」
「簡単じゃねえよ。もっとわかりやすく」
「デリケートな問題だから難しいの」
祐希は一呼吸おいて、言った。
「……乱暴にいうと、茅大先輩は男性の身体だけど、自分のことを女性だと思ってる……いや、女性なのに間違えて男性の身体で生まれてしまったと認識してる……と言うべきなのかな……わかる?」
「それってつまり……茅大先輩はマジモンのオカマってこと?」
「僕、その言葉も嫌いなんだ。オカマってのも差別用語だからね」
「わりい。けどあたしバカだから言葉知らなくてよ」
「つまり、茅大先輩は男として産まれたけど、それが嫌で今は女として生活してるってこと?」
俺は言った。
「まえに知り合いから聞いたことがあるんだけど、GIDの男の子が、親や医者と話した上で、女の子として生活するようになったって話があるんだ。バレないように男時代の学校から女として別の学校に転校してね」
「それが茅大先輩?」
「名前は知らない。けど、可能性はある」
「うそだろ……」
しかし、確かにそう考えると納得できる。
「じゃあ、茅大先輩の秘密ってのはなんなんだ? あたしてっきり、小学生の頃の友達には、いま戻ってきてること内緒だってことだと思ったんだけど」
「茅大先輩は、さんごから女装したノーマルの男性だと思われてることに気づかなかったんだと思う。本当に隠したかったのはそれ、女の子として生活してること」
「なるほどな……」
「うわあ。じゃああたしとんでもねえ事しちゃったわけ?」
「消したほうがいいんじゃないか?」
俺は言った。
「残念だけど、もう遅い。僕が見た時には、リツイートが一〇〇件こえてたし、書き込みと写真をまるまる転載してるひともいた」
リツイートと違って、まるまる転載されると元の書き込み主が削除しても、永遠にネット上に残り続ける。
「まじかよ……」
「あたしの周り、あたしと同じで男の娘が好きなやつ多いからな。その繋がりで……か」
さんごは言った。
「とりあえず、『勘違いでした』って書き込んどく。それで少しはマシだろ」
「……だといいんだけど、茅大先輩との会話みたら、ばれちゃうだろうなあ……」
俺は言った。茅大先輩が『秘密をばらしたなんてひどい』といったような返事をしたから、もうそれは本人が『それはわたしの秘密だったことです』と認めたようなものだ。
「……明日、茅大先輩に直接謝る。電話は出てくれないし……。メールも見てくれてるかどうかわかんないし」
「……それしかないだろうね」
テスト前最後の日曜日は、勉強が手につかなかった。




