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私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
第二章 茅大愛
25/47

2-12

 遠くで電話が鳴っていた。

 そうではない。俺が寝ていただけだ。

 昨日、夜中遅い時間までいやいや勉強をしていて、寝たのは何時だか覚えていない。

 鳴っている携帯の時計は一時。その下にはユーキの名前が表示されていた。

「もしもしい……」

「俺だ」

 姫武台さんではなく、ユーキ。どうやら今は男モードらしい。

「明宏、ツイッターは見られるか?」

「見られるけど……」

 ツイッターとは、一行くらいの文章を投稿できるインターネットサービスだ。ひとりごとを延々つぶやいてても誰にも怒られないので、俺みたいな孤独気質には使いやすい。

「さんごとラブミさんはフォローしてるか?」

 フォローとは、そのツイッターの投稿者を、自分のホーム画面で常に表示する機能のことだ。

「してないよ。リアルで面識あるひとはあんまりフォローしてないし」

 俺にツイッターを教えてくれたのはさんごだったけど、別にさんごをフォローする必要もなかったのでフォローはしていない。

「そうか。じゃあ、まずさんごのアカウントを送るから、ちょっと見てくれ」

 言われてパソコンの前に座る。携帯電話が切れて、ボイスチャットソフトからユーキが接触してきた。

 貼り付けられたアカウントをツイッターで表示する。1010_3_5……なるほど、せん、じゅう、さん、ご、ってわけか。

「まずは昨日の九時半ごろから見てくれ」


さんごちゃん@1010_3_5

 うちの学校の演劇部。男子が女装して女子が男装するシンデレラやるんだって! 学校の連中は見に行ってやれよ。――31人がリツイート。


 というさんごのコメントに、写真が添えられている。昨日撮った、演劇部で衣装合わせして撮った集合写真だ。

 ちなみに最後についているリツイートというのは、ツイッターに投稿した内容を、他の人が他の人に見やすいように再投稿する機能。

「ツイッターに載せちゃったのかあ……言ってくれよって思うけど」

「その次だ」

 ユーキに促されて次の投稿を見る。


さんごちゃん@1010_3_5

 とくにこの魔女役の先輩なんか、どっからどう見ても女の子にしか見えない。これでも男なんだからびっくり! ――118人がリツイート。


 そこに貼られていたのは、ラブミさんの写真。

 ああ、そうか。魔女を男の魔法使いにしたから、ラブミさんが男装した女性じゃなくて、女装した男性だと勘違いしたのか。

 その後さんごがリツイートした内容は、それに対するもろもろの反応だった。『うほっ、演劇やらないか』だの『男の娘ktkr』だの、意味はわからないが、誤解が広まっているらしいことはわかる。

「困るなあ、こういうの」

 だが、頭がよく回らない。寝起きだからというのもあるけど。

「よく考えてみろよ。さんごはなんでラブミさんのことを男だと勘違いしてるんだ?」

「え?」

「さんごはラブミさんと小学校のころの知り合いじゃなかったのか?」

「あ!」

 言われて理解する。確かに、さんごはラブミさんと面識があるようなことを言っていた。だから、さんごはラブミさんが女だってことは知ってるはずだ。

 その後、ついさっき頃、さんごが誰かに返事を送っている投稿があった。

 さんごの方だけじゃわからないので、俺は会話をたどるモードで表示する。


ラブミ@love_me_engeki

 @1010_3_5 秘密にしてって言ったのに!

さんごちゃん@1010_3_5

 @love_me_engeki はあ? いきなり誰っすか、あんた。

ラブミ@love_me_engeki

 @1010_3_5 写真に写っている者です。あなたに秘密をばらされた被害者です。


 ということは、このlove_me_engekiというアカウントが、ラブミさんなのだろうか。たしかに昨日、秘密がどうのって言ってたけど……。


さんごちゃん@1010_3_5

 @love_me_engeki 秘密は守ってるはずです。個人が特定されるようなことは書いてません。

ラブミ@love_me_engeki

 @1010_3_5 同じ学校の人が写真をみたらわかっちゃうでしょう。なんでバラすの? 誰にも知られてなかったのに。

さんごちゃん@1010_3_5

 @love_me_engeki ちょっとよくわからねーっす。悪いんすけど、電話いまかけてるんで出てもらっていいっすか?


 それが最後の投稿だ。時間はたった今。ユーキが電話をかけてきたより遅い。


さんごちゃん@1010_3_5

 @love_me_engeki 電話出てください。いまそっちにオニ着信してる番号があたしっすから。


 そう言ってる間に、新しい投稿があった。

 急いだほうが良さそうだ。ボイスチャットのウィンドウをみると、さんごはパソコンの前にいるようだ。俺はユーキとの通話に、さんごを呼び出した。

「さんごか? 俺だ、何があった?」

「あたしが聞きてーよ! あたしなんかしたのか?」

「先輩の秘密ってなんなんだ?」

「だからあたしが聞きてーっつの!」

「ふたりとも、落ち着いて!」

 女モードに切り替えた祐希が言った。

「なんだよ、祐希と二人してあたしのツイッター監視してたってわけ?」

「そういうわけじゃないけど……」

 俺は言葉に詰まる。

「見てたのは僕だけだよ。そしたら今回、茅大先輩となにかあったのを見て、明宏に相談したの」

「まあ、ツイッターだから、誰に見られててもいいけどさあ……」

 さんごは憮然として言った。

「さんごに僕から聞きたいのは一つ。さんごは、どうして茅大先輩のことを女装した男性だと思ったの?」

「え? だって茅大先輩は男だろ? 魔女ってことは、女装するんだし、女装するのは男じゃねえの?」

「いや、茅大先輩は女だよ。今回は魔女じゃなくて魔法使いの男をやるんだ」

 ユーキは言った。

「携帯でアドレス交換した時に『茅大愛』って書いてあっただろ? 愛って名前の男性はそんなにいないと思うけど」

「だって、遠藤先輩ってのも遠藤まめ子って、本名じゃなかったし、茅大先輩もあれ、女装するときの名前なのかなって思ったんだけど……違うの?」

「茅大愛は本名だ」

「あたしが知ってる茅大先輩は、茅大賢示(ちだいけんじ)っていう男だぜ?」

「それじゃあ、さんごの知ってる茅大先輩と、俺らの知ってる茅大先輩は別人ってことか?」

 俺は言った。いや、だがそれじゃあつじつまが合わない。

「違うだろうな。茅大先輩はさんごのことを知っていたからね」

「おいおい、どういうことなんだよ。お前らが知ってる茅大先輩は女で、あたしが知ってる茅大先輩は男で、そしてそのどっちも同じ茅大先輩だってのか? そんなこと、あるのか?」

「一つだけある。可能性は……」

 祐希は言いよどんだ。

「いや、だけど。ほんとにそうなのかな。自信はないんだけど」

「勿体つけずに言えよ」


「茅大先輩は、もしかすると女性になった男性なのかもしれない」

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