2-10
それからあっという間に二ヶ月が経った。
幸い俺は、演劇部にも女装部にもすっかり溶け込むことができた。
女装部として色々おしゃれを楽しんだり、演劇部の練習がある日もマメさんにそそのかされて女装して練習したりした。
海老さんはあんまり乗り気じゃないようだったが、それでも舞台に立つと意地悪な継母役として、何かが乗り移ったかのような演技を見せてくれた。
女装部の活動にも影響はあった。夏服に変わるとまたおしゃれも覚えなおしだ。
最近は自分でもメイクが出来るようになってきたので、俺もすっかり女装を楽しむようになっていた。
女装部ではおっぱいがあっても、なにもコンプレックスにならない。
女装している間だけは、俺は救われていたような気がした。
今日は期末テスト前最後の土曜日。
午前中の授業を終えると午後はみっちりと練習できる。
それが終わったらテスト前一週間とテスト期間は練習もできない。テスト返却期間の短い間だけが最後の練習だ。
練習に出る前、俺は生徒会と先生の許可を得て、演劇部夏公演のポスターを学内に何箇所かある掲示板に貼っていた。今頃、ユーキとマメさんも各クラスの掲示板に貼ってるはずだ。
「おーっす。やってるな?」
そこに現れたのはさんごだ。結局さんごは部活には入らず、毎日家に帰ってはゲームばかりしてるらしい。
「なにそれ? 演劇部のポスター?」
「ああ、期末テスト返却最終日に、〇〇一教室でやるんだ」
「性別入れ替えシンデレラ? え、オメー女装すんの?」
「するよ。俺だけじゃなくて、男子はみんな女装。女子はみんな男装」
「マジでか。よく許可降りたなー」
「顧問が社会科だからさ。社会学的性別論がどうのこうのとか言ったらなんとかね」
「へー。で、なに役やんの?」
「シンデレラ」
「マジでか! 主役じゃねーか。オメーが? ねーわ、マジねーわ!」
さんごはケラケラと笑って言った。
「観に行くわ、ぜってー観に行く。んで、王子様は誰やんの?」
「姫武台さん」
「おー。祐希ならピッタリじゃねーか」
いつの間にか、さんごはユーキのことを祐希と呼ぶようになっていた。姫武台さんがクラスで浮いた風もないし、よかったと思う。
……反面、俺はどこか他人に壁を作ってるのが現状だけど……。
「楽しみにしてるわ。そんじゃな」




