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「それじゃあ、女装部の活動を始めます。おはようございます」
日曜日。俺は休日練習と称して演劇部部室に呼び出された。
今日の活動は、演劇部ではなく女装部だ。
マメさんと俺が部室の鍵をあけたあと、しばらく待ってユーキが来る。三人揃ったところでマメさんが挨拶をした。
マメさんはすでに女装姿。ユーキも例のヤンキー姿だ。
演劇部にも休日練習はあるのだが、それは夏になってから、あるいは秋になってからなど、公演の直前になる。
「休日練習って、なにをやるんですか」
俺は恐る恐る聞いた。
『練習』というくらいだ。まず自分でメイクするとかそういうことはするだろう。でもそれは普段の活動でもやっている。
いきなり女装外出を強制してきたマメさんのことである。何をさせられるかわからない。
「そうだね。今日は都会へ出ようか」
「いっ……いきなりですね」
「女装部も服のストックがそう多いわけじゃないからね。特に、自前の改造学生服で男装してるユーキはともかく、君の服がない」
確かにそうだった。
俺が借りていつも着ている服は一着限り。しかもサイズが小さい。
マメさんは、筋肉質な俺に比べてやや細身だ。だから俺にはマメさんから借りた服は少しサイズが小さいんだ。
「でも、俺そんなにお小遣いないですよ。女物の服って高いんじゃないですか?」
俺は言った。
マメさんから借りたのは服だけではない。女性向けファッション雑誌なども借りて読んでいた。
そこに記載されている服の高いこと高いこと。
「女装初心者の『あるある』さ。ファッション雑誌のものは高いものしか掲載してないからね。僕が着ているもの、ウィッグやつけ胸を除いて、いくらくらいだと思う?」
マメさんがいま着ているのは、キャミソールにカーディガンまでは色違いだが、この間と同じ。下半身はパンツルックだ。尻周りに詰め物をしてるそうで、女性的なラインを作っている。
「三万円くらい……ですか?」
ファッション雑誌計算だとそんな感じ。
「二万円くらいっすかね」
ユーキの答えはだいぶ俺とは違う。
「パンツが七〇〇〇、キャミが五〇〇〇、カーデが六〇〇〇ってとこだと思うす」
「ふたりとも残念。実は全部で五〇〇〇円切ってる」
マメさんは言った。
ごせんえん? え、そんなに安いのか?
「ユーキが見抜けなかったのは意外だね」
「たはは。俺、女物の服は親に買ってもらってるんで」
ユーキは頭をかきながらいった。
「五〇〇〇円って、どこで売ってるんです? 男物でもそんなに安くは手に入らないんじゃないですか?」
俺もユーキと同じで、自分の服は親に買ってもらってる。かといって店で値札を見ていないわけじゃない。
だから男物ならこれくらい、女物はファッション雑誌基準でこれくらい……というのはなんとなく知ってるつもりだったのだが。
「安い店のセール品を買うのさ。知っての通り、異性の服は親に言って買ってもらえる服じゃないからね。少ないお小遣いでやりくりしないとならない」
「まあ、あれこれ言うより見てもらったほうがいいだろ? 君たちも着替えて、行くよ」
「俺は着替えなくていいっすよ」
そう言ったユーキの格好は、いかにもといったヤンキー風だ。改造学生服に、逆立てた金髪、薄い眉毛。もっとも眉毛は天然で薄いらしいから普段は書いてるらしいけど。
「悪いけど、君のその格好はちょっと時代錯誤気味なんだよね」
「え、そうなんすか?」
「今どきいないタイプの非行少年だよ。ちょっと一緒に歩きたくないなあ」
「それって性差別じゃないんっすか!」
「違うね。ファッション差別だよ」
「差別じゃないっすか、結局」
「うん、だから僕のセンスでどうにかしよう。遠出する日だけでかまわないからさ」
「かっこいいと思ってたんすけどね……。この学生服も高かったし」