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例の階段教室、ステージになっている教壇の上に乗り、発声練習や基礎トレーニングを終えた後、茅大先輩が言った。
「さて、今日は部会があったからここで終わりです。クマちゃん、どうだった?」
クマちゃん、と呼ばれたのは俺のこと。ここの演劇部では、芸名ってわけじゃないけど積極的にあだ名で呼び合うのがルールらしい。
茅大先輩はラブミさん、島海老先輩は海老さん、遠藤先輩はマメさん、そして姫武台さんはユーキというわけだ。
先輩をあだ名で呼ぶのには少し抵抗があるが、ルールには従おう。
「悪くは、なかったです」
「基礎トレーニングはそんなに面白いことやるわけじゃないからね。次からはお芝居の練習もしましょう」
「はい」
「しかし……やるのが性別入れ替え劇とはな……」
島海老先輩、もとい海老さんがぼやいた。遠藤先輩、もといマメさんはそれを見逃さない。
「そのことだけど、夏公演の脚本は、今年も既成品でいいんですよね?」
「うん。秋公演と春公演は新規に台本を作るけど、夏公演はすでにあるものを使うことにします。これは去年とおなじ」
「人数が五人だと、やっぱり今年もシンデレラでしょうか?」
マメさんが言った。
「そうね。シンデレラと王子様、魔法使いにいじわるな継母といじわるなお姉さん。この五人でなんとかなるでしょう」
「女子二人、男子三人だから、ひっくり返して男役二人、女役三人ですね?」
ユーキがラブミさんのあとを続けた。
「でも、キャラクターは女性四人に男性一人ですよ」
俺も言った。ひとりだけ男装しない女子がいることになる。
「魔法使いを男にすればいいんじゃないか?」
「じゃあ、それはわたしがやる」
海老さんが言うと、すぐに茅大先輩ことラブミさんが乗った。
「俺は王子様がやりたいところだが、仕方がないな。恐ろしい継母をやるしかないか」
「ちょっと、三年生がふたりとも脇役でどうするんですか」
マメさんが言った。
「そこで、考えたんだけど。どうせやるなら、夏公演の主役は一年生にやってもらおうと思うの。わたしたちは脇役に専念して、サポートしようかなって」
「俺たちが主役ですか!?」
「せっかくならお芝居の楽しさを体験してもらわなきゃね」
「でも……セリフとか、覚えられませんよ」
俺は言った。
もうすでに不安しかない。
「それをサポートするのが、わたしたちの役目。セリフなんて一字一句同じじゃなくていいんだしね。大丈夫、できるできる!」
「はあ……」
この先輩の自信はどこから来るんだろうか。
マメさんにせよ、ラブミさんにせよ、押しが強すぎて困ってしまう。
嫌と言えない自分も自分だが、そんなに嫌な気分じゃないのが困りどころだ。
「というわけでシンデレラはクマちゃん、王子様はユーキくん」
「僕が王子様ですか? やりがいがあるなあ」
「残ったお姉さんがマメちゃん。あとで代えるかもしれないけど、とりあえずこの演目と配役でいきましょう」
言ってラブミさんは二回手を打った。
「それじゃあ今日の演劇部活動はここまで。お疲れ様でした!」
「「「「お疲れ様でした!」」」」




