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私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
第二章 茅大愛
18/47

2-5

 例の階段教室、ステージになっている教壇の上に乗り、発声練習や基礎トレーニングを終えた後、茅大先輩が言った。

「さて、今日は部会があったからここで終わりです。クマちゃん、どうだった?」

 クマちゃん、と呼ばれたのは俺のこと。ここの演劇部では、芸名ってわけじゃないけど積極的にあだ名で呼び合うのがルールらしい。

 茅大先輩はラブミさん、島海老先輩は海老さん、遠藤先輩はマメさん、そして姫武台さんはユーキというわけだ。

 先輩をあだ名で呼ぶのには少し抵抗があるが、ルールには従おう。

「悪くは、なかったです」

「基礎トレーニングはそんなに面白いことやるわけじゃないからね。次からはお芝居の練習もしましょう」

「はい」

「しかし……やるのが性別入れ替え劇とはな……」

 島海老先輩、もとい海老さんがぼやいた。遠藤先輩、もといマメさんはそれを見逃さない。

「そのことだけど、夏公演の脚本は、今年も既成品でいいんですよね?」

「うん。秋公演と春公演は新規に台本を作るけど、夏公演はすでにあるものを使うことにします。これは去年とおなじ」

「人数が五人だと、やっぱり今年もシンデレラでしょうか?」

 マメさんが言った。

「そうね。シンデレラと王子様、魔法使いにいじわるな継母といじわるなお姉さん。この五人でなんとかなるでしょう」

「女子二人、男子三人だから、ひっくり返して男役二人、女役三人ですね?」

 ユーキがラブミさんのあとを続けた。

「でも、キャラクターは女性四人に男性一人ですよ」

 俺も言った。ひとりだけ男装しない女子がいることになる。

「魔法使いを男にすればいいんじゃないか?」

「じゃあ、それはわたしがやる」

 海老さんが言うと、すぐに茅大先輩ことラブミさんが乗った。

「俺は王子様がやりたいところだが、仕方がないな。恐ろしい継母をやるしかないか」

「ちょっと、三年生がふたりとも脇役でどうするんですか」

 マメさんが言った。

「そこで、考えたんだけど。どうせやるなら、夏公演の主役は一年生にやってもらおうと思うの。わたしたちは脇役に専念して、サポートしようかなって」

「俺たちが主役ですか!?」

「せっかくならお芝居の楽しさを体験してもらわなきゃね」

「でも……セリフとか、覚えられませんよ」

 俺は言った。

 もうすでに不安しかない。

「それをサポートするのが、わたしたちの役目。セリフなんて一字一句同じじゃなくていいんだしね。大丈夫、できるできる!」

「はあ……」

 この先輩の自信はどこから来るんだろうか。

 マメさんにせよ、ラブミさんにせよ、押しが強すぎて困ってしまう。

 嫌と言えない自分も自分だが、そんなに嫌な気分じゃないのが困りどころだ。

「というわけでシンデレラはクマちゃん、王子様はユーキくん」

「僕が王子様ですか? やりがいがあるなあ」

「残ったお姉さんがマメちゃん。あとで代えるかもしれないけど、とりあえずこの演目と配役でいきましょう」

 言ってラブミさんは二回手を打った。

「それじゃあ今日の演劇部活動はここまで。お疲れ様でした!」

「「「「お疲れ様でした!」」」」

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