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私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
第二章 茅大愛
16/47

2-3

 幕があがると、鏡とパイプ椅子がいくつも並んでいる。そこにスーツ姿の男女数名が『おはようございます』と言いながら一人ずつ入ってくるところだった。

 どうやら、劇場の楽屋という設定らしい。演歌歌手だったりコント俳優だったり漫才師だったり、そういうのがごちゃごちゃに詰め込まれた場末の劇場のようだ。

『おい!』

 そんな中に現れたのは、島海老先輩である。オールバックに固めて、カラースーツをだらしなく着ている。

『おおっ、びっくりした。おはようございます』

『なんですか? 悪役担当の方ですか。こりゃすごい強面ですねえ』

『藤木はどこや? 藤木吾呂(ふじきごろう)や』

 島海老先輩がドスをきかせた関西弁で凄む。だが、舞台上の人々はのんきな様子だ。

『さすがっすねー。もう役に入りきってる』

『一流の俳優は違うなあ』

『アホ抜かせ。藤木、おるんやろ?』

『藤木さんの相棒っすか。藤木さんならそこに……あれ?』

 島海老先輩が登場したと同時に、こそこそと隠れるように舞台の反対側にある窓枠から飛び出したのが、藤木という役名の遠藤先輩のようだった。

『あの野郎!』

 言って島海老先輩は元来た方に引き返す。

『追わないんですか?』

『高いところは苦手やねん! 先回りしたる』

 そしてしばらくして、窓から遠藤先輩が覗きこんできた。

『もう、行かはりました?』

 なぜか気弱そうなな関西弁を使うその雰囲気は、漫才師かなにかを演じているのだろうか。

『あれ、借金取りですねん。本物のヤの字ですわ』

 このストーリーの柱の一つが、この島海老先輩と遠藤先輩らしい。すれ違ったり逃げたり追ったり。ちょっとしたスラップスティックである。

 話は進む。ついに舞台上にほぼ全員がそろい、島海老先輩が遠藤先輩を捕まえた。

『なあ、俺はサラリーマンや。せやから、金さえ払えば許してやると言うてんや』

『せやけど……払えませんねん……』

『おじさん、この人……いくら借金してるんです?』

『五〇〇万や』

『五〇〇万!』

『あんた、一体なにに使ったんだ』

『言えませんのや。堪忍してつかあさい……』

『あの!』

 そう言って大声で登場してきたのは、茅大先輩だ。

 茅大先輩もこの舞台に、何度も登場してきていた。だがそのたびにステージから人が居なくなってしまい、なにもできずに退場するという『謎の女性』を演じていた。

『藤木さんというのは、あなたですか』

『そうだ、このクズが藤木だ』

 遠藤先輩に変わって、島海老先輩が答える。

『父が、ありがとうございました!』

 そう言って茅大先輩は深々と礼をする。

 視線が一度茅大先輩にあつまり、そして遠藤先輩に戻る。

『せやか……オッサン助かりよったか』

 遠藤先輩はすべて察したかのように、つぶやいた。

 茅大先輩が説明するところによれば、どうやら遠藤先輩演ずる藤木は、茅大先輩演ずる娘の父親と自動車事故を起こしてしまったらしい。藤木に過失はなかったが、父親は意識不明の重体。藤木はなにも言わずに治療費として五〇〇万円を置いて去ったという。

『そうか……人助けか。藤木はここにはおらんかった。また探しなおしやな』

 そう言って、島海老先輩は立ち上がる。

『と言うとでも思ったかアホンダラ!』

 島海老先輩の蹴りが藤木こと遠藤先輩を吹き飛ばす。

 島海老先輩は恐ろしい悪役だった。

 その後、茅大先輩が遅ればせながら『保険がおりたので』とお金の入った封筒をわたすと、島海老先輩は満足気に舞台から去っていった。

 そして最後に、ステージに居なかった演歌歌手役が『カーテンコールだよ、早くみんな出ておいで!』と言ったところで幕が降りる。

 幕の前に一人ずつ出てきて、本当のカーテンコールを行ったところで、ビデオは終わった。

藤木吾呂氏は友情出演です。

このシーンを借りるかわりにお名前を入れさせていただきました。

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