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私立セクマイ高校女装部  作者: 小野寺広目天
第二章 茅大愛
15/47

2-2

「失礼します」

「おはようございます」

 俺が姫武台さんといっしょに視聴覚室に入ると、すでに三人の人物がそこにいた。

 一人は男モードの遠藤先輩。あとの二人は部活動紹介にいた先輩だ。

「「「おはようございます」」」

 先にいた三人が、一度に挨拶する。え? 姫武台さんも言ってたけど、『おはようございます』って? 今もう三時半だけど。

「ああ、ええと。君ははじめましてだね。演劇部では挨拶は朝でも夜でも『おはようございます』なんだ」

 女の先輩が可愛らしい声で教えてくれた。

「だから、おはようございます」

「……あ、はい。おはようございます……」

「声が小さい!」

 男の先輩が、低いがよく通る声で言った。俺は反射的に大声で応えた。

「はい! おはようございます!」

「よし。俺は副部長の島海老慎之介(しまえびしんのすけ)だ。あだ名は海老。よろしく頼む」

「は、はい。俺はC組の熊美明宏です」

「それからこっちにいるのが、部長の……」

「部長の茅大愛(ちだいあい)です。あだ名はラブミ。よろしくお願いします」

「遠藤と姫武台はもう会ってるな?」

「あ、僕のあだ名はマメでいいよ。君たちのあだ名はあとで決めようか」

「まあ座れ」

 島海老先輩に促されて、俺は向かい合わせに並べてあった席についた。

「さて、マメ。言い訳を聞かせてもらおうか」

 島海老先輩がドスを聞かせた声で遠藤先輩に言った。え、なに。いきなり。怖いんだけど……。

「言い訳なんてありませんよ。なにか悪いことをしましたか?」

「女装部と偽って、部員を二人も引き入れたこと以外になにかあれば早めに白状しろ」

 うへっ。女装部については部室も借りてることだし、演劇部内では黙認されてる状態だと思ってたけど、どうやら島海老先輩はいい顔をしていないようだ。

「新入部員が入らなければ同好会格下げになるところを、二人勧誘した手柄以外になにかあれば、お教え願えますか?」

 遠藤先輩も引かない。

「吹奏楽部内にカルテットチームがあるし、軽音楽部もバンド単位でチームを分けてます。演劇部が演劇チームと女装チームでわかれていて、なにか不具合でも?」

「それは……」

 遠藤先輩の屁理屈に、島海老先輩がたじろぐ。

「いや、だが! 女装趣味などという軟弱なものと演劇部を一緒にしてほしくない!」

「それは島海老先輩の個人的要求ですよ」

「俺だけではない。ラブミも同じ考えだ」

「いや、そんなことはないけど……」

「む……」

 茅大先輩が控えめに反論したので、島海老先輩はとりあえず矛を収めた。

「海老ちゃんもマメちゃんもよく聞いて欲しいんだけど、部活動において、個人の趣味に口を出すのはよくないと思うのね。だから、マメちゃんたちの異性装についてわたしは止める権利を持ちません。もちろん海老ちゃんが軟弱だって思うのも自由」

「イセイソウ?」

「女装と男装をひっくるめた言葉だよ」

 俺が小さく漏らした言葉に、これまた小声で姫武台さんが答えてくれる。

「でもね、せっかく演劇部っていうかたまりなんだから、せっかくだからわたしはみんなと演劇がしたいと思うの。マメちゃんも去年はお芝居、出てくれたでしょう?」

「僕としては、それはやぶさかではありませんが」

「演劇部は演劇をするのが本分です。その中で衣装をつかって仮装を楽しむのも演劇部の一部でいいと思う。だからね、お芝居、みんなでしよう?」

「しかし、僕が勧誘した二人は、演劇部の中の女装部と言って勧誘しちゃったもので……本人の意志を尊重しないと」

 言って、遠藤先輩たちがこちらを向いた。

 あ、騙された。

 遠藤先輩は最初から、こうやって俺らを演劇部に勧誘することも考えての行動だったんだ。

 島海老先輩はどうか知らないけど、茅大先輩とは相談してたのかも知れない。

「俺、お芝居とかやったことないんですけど……」

「はじめはだれでもそうだ」

 島海老先輩がぶっきらぼうに言った。

「俺がやさしく教えてやる」

 やさしいとは思えないんだけど……。

「僕は、舞台に出たいと思ってます」

 姫武台さんが言った。

「ただ、せっかくなので男役がやりたいんですが。ダメでしょうか?」

「うん。それはいい考え方だと思うよ。前向きで、わたしは好き」

「まだ次のステージでなにをやるかも決めてないからな。なるべく全員の希望は取り入れていく。ええと、熊本だったか?」

「熊美です」

「すまん。おまえ演劇を見たことは?」

「……小学校の学芸会くらいなら」

「そうか。俺は常々思うんだが、演劇というものをみんな観るべきだと思うんだ。そして面白いと思ったら()る。もっと演劇に触れて欲しい」

「はあ」

 島海老先輩が熱弁を振るい始めたが、俺はうなずくことしかできない。

「海老さん。それを伝えるには言葉を重ねるより、実際に観てもらうほうがいいんじゃないですか?」

「うむ、そうだな」

 遠藤先輩は鞄から一枚のディスクをとりだし、教卓に向かった。スクリーンを降ろして電気を消すと、画面には入学式の時に使った講堂が映っていた。

「三月の、中高合同公演だ。タイトルは『舞台裏でおもてなし』」

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