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6.戦ってきた時間(プレイ時間)が違う

「うおおお!」

 大剣、双剣、ナイフ、メイス、太刀、ボウガン、マシンガン、斧などの凶器を駆使してどんどん敵を屠っていく内に、いつの間にか敵のアジトらしき建物に辿り着いた。

 どうやら、このグローブはイメージ可能なものなら何でも復元してくれるらしい。


「ここがあいつらのアジト? でっかいな」 

 ウンケル等のアジトとは違って立派な城が聳えていた。細長く、無駄に装飾された城が空をも貫いている。いったい何階まであるんだよ。


「登るのか。めんどくさいぞ……あ!」

 快活な笑顔を浮かべる。とんでもない名案を思い付いた。実際に可能かどうかはわからないが、やるだけの価値はあるだろう。

「塔を切り裂け、飛行斬撃フライビーム!」

 刃から斬撃が飛び出し、塔を抉る。周囲全体が震えたと錯覚するほどの轟音が、俺の聴覚を刺激した。


 果物のように裂かれた塔は、派手な音を出しながら地面に墜落していく。破砕していった無数の瓦礫が俺に殺到してきたが、そこは盾を復元させてバリアすれば問題ない。

 ゲームではシステム上、こういったことはできなかったがここは現実だ。システムに捕らわれずに自由に動ける。


「っと、いけねえ。俺はオフライン至上主義だった」

 VRMMOを超えた自由度に、すっかりこの世界の虜になってしまっていた。なんだかんだいって、俺は自分の体で思う存分ゲームを堪能したかったのかもしれない。

 半壊した塔は見るも無残な形となっていた。この様子じゃ中で待機していた奴らもみんなただではすんでいないだろう。これで勝ったか? 


「ふう、良くもまあやってくれたな」

 落下していく瓦礫に乗っかっている人間がただ一人いた。その男はさっきまで対峙していた敵と同じく巨体で、赤い皮膚で、頭上に角を生やしていたが、腰に二つの剣を背負っていた。


 そして、目にも止まらぬ速さで抜刀し、瓦礫を切り裂いてその大きな破片を――

「消えろ」

 俺に投げつけてきた。

「うおおお」

 慌てて盾で身を守るが、前方の状況が完全に封じられている状況になってしまった。ゲームだったら画面では盾の向こうは丸見えだったため、相手がどのような攻撃に出るのかは容易に把握できたのだが、実際プレイやー目線だとこんなにも見えにくいものなのか。


「よそみするな!」

 上を仰ぐと、そこには二つの剣を自由に操っている男が真上にいた。鋭い二つの剣先を俺に向けている。

 このままだと、脳を貫通されてお陀仏だ。


 盾を真上に向けて、間一髪で皮膚への衝突を阻止する。ほっと胸を撫で下ろすが、ここからが本番だと直ぐに気を引き締めた。

 互いの交錯が終わると急いで奴から離れ、間合いを広げる。双剣とかいう超接近戦のプレイヤーにわざわざ近づいてやる必要はない。こっちは遠距離用の武器で相手してやる。


「二丁拳銃を使うか」

 拳銃二つをグローブから放ち、両手で掴む。これでも射撃は得意な方だ。FPSの類はやったことないが、よくダンジョンで拳銃を使う……まあ、下級モンスターに舐めプレイしていただけだけど。


「でも、こいつはあの雑魚モンスターとは違って舐めちゃいけない奴だ。思い出せ。俺が一番銃撃戦で輝いていた時のことを」

 必死に記憶を漁り、あの時のイメージを体に焼き付ける。俺が銃撃戦で輝いていた時は……祭りの屋台で射撃無双してた時だった。本当に使えない記憶だ。


「はっ。何を出すかと思えば笑わせる。こんな魔法もない原始的な武器を奥の手として使うとは……。中から出てくる弾丸は何度か切り裂いたことがある。お前に勝ち目はない大人しく葬られろ」

「わかんないだろ、そんなこと。お前こそ魔法なんて使って――」


 じっと目を凝らしてみると、奴の双剣の切っ先が地味な光を纏っていた。恐らく、魔法かなんかだろう。切れ味を何倍にも上げているのかもしれない。よく考えれば、俺が出したあの盾は本来ならミサイルも跳ね返す最強の武器だ。それと拮抗したあの二つの剣は、それと同格の攻撃力を兼ね備えているということになる


「この城を壊したことは誉めてやろう、しかしこれ以上のことを望むのは欲張りというやつだ。勇者勢力は俺達魔王サイドよりも野蛮だ。どのみちお前はここで死んだ方が幸せだ」

 チャキンと二つの剣先を交差させ、俺の心臓あたりの位置に高さを調整してきた。その洗礼された一連の動きには人の命を奪うという迷いは微塵も感じられない。


「……当たったらやばいな」

 心臓の鼓動が体全身に伝わっているような気がする。かなり緊張しているということが自分でもわかった。きっとHPが付きかけていたプレイヤーも同じ心境だったに違いない。


 天井知らずに上がっていく鼓動を落ち着けるために深呼吸をする。己の鼓動のせいで狙撃へ回す集中が切れ、それが原因で一太刀浴びてしまったら洒落にならない。

「終わりだ! 平民よ」


 弾丸のごとき速度で魔王軍の大将が間合いを縮めていく。俺は躊躇せず、トリガーを引いた。

 二つの弾丸は熱を帯びたまま一直線に相手の眉間へと接近していく。このまま奴が何のアクションも起こさなかったら俺の勝ちだ。


「甘い!」

 男は不的に笑うと、二重の剣で二つの弾丸を切り裂いた。その驚異的な動体視力と反射神経は敵ながら天晴だ。


……しかし、それと勝負の行く末は別だ。

「いや、甘いのはお前だよ」

 二つの弾丸を切り裂いた男はそのまま俺を襲ってくることもなく、その場で倒れ伏せた。気を失っているわけではない。ううっという呻き声は俺の耳に十分すぎるほど伝わってきている。


「動けないか? これは、麻痺弾なんだよ」

 両手に持った拳銃を相手に見せてから、俺は得意気にいってみせた。通常の弾丸だったら間違いなく俺はあのまま切り裂かれてゲームオーバーだっただろう。実際、これは一種の賭けだった。


 俺があの蒸し暑い夏の日にプレイした、麻痺弾を駆使してラスボスを攻略した際に使っていた武器が、この二丁拳銃なのだ。

「覚えてるもんだ。勘が当たってなければ俺の負けだったよ。他にも四千個近くの武器はあったけど、どれもお前とサシで切り合わなければならない武器がほとんどだからな。システムではなくマジな魔法という、イレギュラーな物を使用するお前と殺し合えば、必ず負けると思った」


 悔しさで声も出ないのか、それとも麻痺のせいで出せないのかは知らないが、男は歯を思い切りきしませながら鋭利な眼で俺を睨む。

「飛び道具は他に沢山あったけど、全部お前に切られそうな物ばっかりだった。普通の弾丸じゃないのが搭載されている武器は、これだけだったってわけさ」


 このグローブは必要としているものを出すと書いているが複数個は出せないし、イメージ出来るものでないと復元すらできない。特殊な弾丸付きで、尚且つ自分が見たことのある武器はこれ以外なかったのだ。

 最も、オンゲをもっとしていたら仲間のプレイヤーの武器をイメージできて、もっと戦闘のパターンを広げられたかもしれないが。


「まあ、今回は俺の勝ちだ。これからもっとお前らのことを理解して、五千の武器を効率よく扱えるようにするよ」

 今度は通常の弾丸を搭載した拳銃を復元し、相手の眉間に焦点を定める。

 俺とこいつとじゃ、戦ってきた時間が違う。

 今度はこっちが不敵な笑みを浮かべてから、俺はトリガーを引いた。

 ……まあ、俺の時間って全部ゲームなんだけどな。



とうとう物語が動きます

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