5.魔王が本気を出してきた
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――魔王軍サイド――
「大変です大将。何やらおかしな男が急速にこちらへ近づいてきます」
「何? 二千の軍はどうした?」
「一瞬でやられました!」
「ええ? めちゃくちゃ強いじゃんそいつ」
大将と呼ばれたヌレクは絶句した。信じられない。まるで悪い夢でも見ているかのようだった。
まさか二千人もの兵隊がこんなにも容易く踏破されるだなんて、いったい誰が予想しただろうか。
きっとその事実を他の軍に言っても信じてはもらえないだろう。笑って流されるか、最悪嫌味を言っていると誤解され、いらぬ怒りを買ってしまうかもしれない。
ヌレクが誇る二千の軍は、あの魔王様が直接選んでくださった、魔王城のトップが束ねられた集団だ。
単純な戦闘力だけなら、魔王サイド随一だとヌレクは信じている。そう称しても誰も異議を唱えたりはないだろう。
その軍が殲滅された? あんな魔法も使えないたかが凡庸の平民に?
「仕方ない。私自ら始末しよう」
動揺を部下に見せるわけにはいかない。あくまでも表面上では余裕そうに告げる。軍のトップが参戦するとなれば、落ちていた兵隊の士気も再び上がるだろう。 トップとは、常に安定剤でなければならないのだ。
「まさかこの武器がまた暴れる日が来るとは……」
鈍色に光る剣先を眺めながら呟く。この二つの剣のお蔭で、自分は魔王様に認められ、小隊の頭に任命されたのだ。それは自分にとっての栄光であり、貫かねばならないものである。
「そいつがここにきたら伝えろ。息の根を止めてやる」
この剣を血で染めるときは相手を叩きのめしたときだけだ。決して返り血なんかではない。
我が人生の誇りをかけて、これを手にするときは不敗でなくてはいけないのだ。
ヌレクは部下が出ていったのを確認すると、剣先を自身の爪で研いだ。
負けるわけにはいかない。こちらには、沢山背負っているものがあるのだ。