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4.ゲームの知識で無双中

「撃て撃て!」

「魔王軍の部下が魔法を使ってきたぞ!」

「ふざけんな。もう防具がねえ」

 なんてやり取りを生で聞けるとは思っていなかった。

 まじで戦争してるぞ。


 ついさっきまで俺がいた小さな建物の周囲を、ガタイのいい数人のおっさんがおっかない武器を装備しながら囲っていた。


 彼らが所持している武器はとてもバラエティーに富んでいて、拳銃やナイフなどの基本的なのものからマシンガン、大砲、メイス、大刀などのファンタジーチックな武器まで持っていた。一つくれないかな……。


「ここから二十キロ先に、今回の敵である魔王の傘下の大将がいます。勝利条件は武力で彼らを制圧するか、ボスの首を打ち取ることです」


 頼んでいない情報をウンケルは俺に伝えてきた。彼女は戦う気満々らしいが、俺は全く乗り気ではない。さっさと家に帰って次のゲームがやりたいんだよ。

「何でリアルファイトを見ないといけないんだ!? 俺は安全な部屋の中で戦いたいんだよ。しかも相手は魔法を使ってんだろ? 俺達は見たところ原始的な武器しかないけど? 勝ち目はあるの?」


 原始的という意味は、あくまで魔法という常識を超越した力と比べてだ。日本の軍事力よりは、圧倒的にこちらの方が上だろう。それでも、魔王勢力の戦闘力とは雲泥の差があると思うが。


「大丈夫ですよ。そのためにあなたがいるんじゃありませんか」

 ニコリと笑う彼女に対し、俺は無数の疑問符を頭上に浮かべる。日本が戦争を放棄してからもう数十年が経過した。欲しがりません、勝つまでは! から、先っちょだけでいいから! 少しだけ脱いでくれればいいから! に変貌した国、日本で生まれ育った俺にいったいどうしろと?


「あなたがこれから相手を殲滅してくださるんですよね?」


 とんでもないことを言いやがった。

「はああああああ? 気は確かか? 俺はゲームだけはうまいが、殺しの極意はなんも心得てない。運動神経だって並以下だ。こんな俺にどうしろと?」


 自分で言っていて胸が痛くなる。しかし事実だからどうしようもない。俺は学校でも目立つ生徒ではないし、休日はいつもゲームばかりだ。身体能力なんてクソ喰らえだ。


「大丈夫です。そういった不具合を調整するために、この道具がありますから」 

 そういって、彼女は小袋に包まれた謎の物体を俺に渡してきた。断って逃げようかと思ったが、行動に移す暇なく強引に手に乗せられる。


「こ……これは」


 袋の中身は、慣れ親しんだものだった。

 長時間のプレイでも疲れを感じさせないよう、手になじむよう設計された形状は俺にいつだって情熱を与えてくれた。特にこの代物はアクションやシューティングにもピッタリな連射機能と振動機能が搭載され、俺に新たなゲームのジャンルを開拓させた罪深いものでもある。

 何回押したかわからない十時ボタンが左に配置されており、右には〇×△□の四つのボタンが当然のように置かれている。

 それだけじゃない、俺の脚でもあるアナログスティックも両側に配置されていた。こいつら等はどんな時も側にいてくれていた戦友だ。

 LRと後ろで援護してくれているボタンもあることを確認してから、俺は叫んだ。


「これゲームのコントローラーじゃねえか!」


 俺の最大の武器で愛する嫁としは申し分ない相手だが、リアルな武器となると話は別だ。どうやって戦闘すんだよ。アナログスティックで相手が動くの?

「私が読んだ本では、普段魔法が使えない平民でも、たった一度限り使用できる魔法があったんです。それが、強い人間を外部からここに呼び寄せる召喚魔法です」 

 一拍の間をおいてウンケルは話を続ける。


「この世界は魔王と勇者様に滅ぼされてしまうことが決められています。それを阻止するために、私達はその一生で一度きりの魔法を使い、各星の中で最もその両者を討ち、再びこの世界を平和にしてくれる人間を見つけました。それがあなたです」


「話が見えてこない。まず第一に、どうして魔王と勇者は共闘なんてしてんだよ。しかも、敵がお前ら平民なんだって? おかしいぞ。本来なら勇者に守られる立場なんじゃないのか? あと、何度も言うけど俺は普通の少年だ。特異な力なんてないから、もう一度その魔法を使って屈強な野郎を呼べよ!」


 もっともな提案だったが、ウンケルは首を横に振ってから答えた。

「魔法は裏切りません。何故なら意思を持たず、ただ術者の言う通りにしているからです。日頃から魔法の痛みを味わっている私達だからこそ、それがわかります。魔法に企みや、同情の類いの感情はありません。私達の魔法は、世界を救ってくださるあなたを呼び寄せたのと同時に、この武器も授けてくださいました。お願いします。どうか、私達を、この世界を救ってください!!」


 ウンケルは深々と頭を下げた。彼女の全身全霊の懇願に答えてやりたい気持ちもなくはないが、現状を受け入れれば受け入れるほどその気も失っていく。コントローラーはゲームの武器でしかない。テレビの前から離れてくださいと注意書きがゲームにもあるように、俺は戦場でも離れてプレイする必要がある。あわよくばログアウトしたい。


「うわあああ!? 大きな波がやってきたぞ!」

 森林を蹴散らして急接近してくるのは、大きな水の塊だ。ここら辺に湖や、海などは見当たらない。恐らく敵軍の誰かが放った魔法だろう。


「このままじゃ俺も、こいつらもマズいぞ!」

 急激に実感する死への恐怖のせいか、俺はがむしゃらにコントローラーをいじっていた。すると次の瞬間、ある映像が脳内に浮かんできた。


【選んでください。①装備した魔法を使って戦う。②装備した武器をメイン武器に設定する。③味方を操作。】


「これは……まるでゲームのコマンドじゃないか」


 つまり、今俺はこのコントローラーを使って脳内で選択肢を選んでいる最中というわけか? 念願のリアルゲームということなのか?

 自分の体でプレイしたいですか? というウンケルの問いを思い出す。あの質問は、俺をここに連れてくためのものだったのか。


「くっそ。約束していたのなら仕方ない。この戦いに参加してやるよ」

 もっと事細かく説明してからあの質問をしろよと、内心で毒を吐くが、今は駄々をこねている場合ではない。このまま棒立ちしていたら、俺はマジで人生ゲームオーバーだ。やるしかない。

 俺のゲーム歴十年越えの力を信じるしかない。

「まずは①の魔法の装備だ」


 選んだ番号をポチリと押す。ギシャン! という音が鳴ったあと、【魔法を選んでください】という選択画面が出現した。

 どうやら、ここは会得した魔法を装備する欄らしい。枠は全部で三つあり、その中にセットしたい魔法を選択するのだ。


 会得しているものは……氷系統の魔法が三つだけしかなかった。いや、もう一個の魔法が乗っているには載っているが、なぜか選択できなかった。恐らく、まだ俺には使用できないものなのだろう。


「取りあえず三つ全て入れよう」


 もう少し時間があれば特性や能力などの細かい詳細を把握してからじっくり吟味するのだが、そんな時間的余裕はない。取りあえず質より量作戦で全て枠に収めた。氷に水っていうのもちょうどいい相性だったしな。


「オラアアア」

 最初に選んだ氷連丸アイスガトリングを発動させる。瞬間、地面から大きな氷柱が生えてきた。


 氷柱が俺達の盾となって向かってくる波を迎え撃つ。波の音と凍てつく氷の音が合わさり、大きな衝撃音が周囲に轟いた。

「なんですかこれ!!」


 耳をふさいでウンケルは俺に問う。そんなこと俺にもわかんねえよ!

「よし、防いでくれている間に」

 俺は③の【味方を操作する】を選択し、氷柱の端にいた男を操作した。目的はもちろん、氷柱の向こうの様子を確認するためだ。


 男の視線を共有し、俺は氷柱の向こう側を覗いた。

 相手の攻撃よりも俺の魔法の方が強かったのか、放たれた波はパキパキとその姿を液体から個体へと変貌させていた。地球の常識ではそんなことは不可能だろうが、どうやらこの世界ではあってもおかしくない状況らしい。

「待てよ。その凍った波に乗っていけば、相手のアジトに辿り着けるんじゃないか?」

 思い付くや否や、俺は操っている男の装備を確認した。


 今、俺が持っているものはコントローラーだけだ。こんな低スペックな装備では、とてもあの大きな波の奥側まで辿り着けそうにない。波を駆けている最中に敵に狙い撃ちされるのが目に見えている。

 安全に、確実に目的地に到達するには、それ相応の準備が必要なのだ。


「でも、こいつ既に穴があいている鎧と、拳銃二丁、小刀一つしか持ってないぞ……」


 期待外れなアイテム達にげんなりとする。拳銃と小刀では魔法に太刀打ちできないし、鎧なんて重くてまず動けない。これはもしかしたら早々に詰んだか?

「ん? これは使えそうだ」


 男のシューズにカーソルを向けると、説明が脳内に浮かんできた。

【アクセラッテッドシューズ。値段二十五万円。職人が心を込めて作った自信作。これを吐けば、君も今日からかけっこで一等賞だ!】

「足速い武器って。こいつ逃げる気満々じゃん」


 彼が密かにしていた陰謀を知ってしまった。逃がす気はないが、このシューズは使えそうだ。このまま一気に氷柱製の波を渡って大将を討てばいいんだ。

「問題は俺が保持してる武器だ。ちんけな氷魔法だけじゃあいつらに勝てないだろう」


 二番目の選択肢を押す。開かれた欄には沢山の武器があったが、その中でも唯一光り輝いている武器のコマンドがあった。


完全武装オールウェポン値段七億。 あなたが今一番理想としている武器が瞬時に一つだけ現れます。ただし魔法はでてきません。君もこれ一つで武器屋を開こう!】


「どんでもないサービスだな。使わせてもらおう」

 迷わず決定ボタンを押して、装備を展開させる。その瞬間、右手から黒色の手袋が出てきた。

「え」


 どんな武器でも瞬時に出すというから、どれだけ大層なものかと期待していたらまさかの手袋? おいおい、手を温めてどうすんだよ。温めるんじゃなくて冷やせ。製作者の頭を冷やせ。

「まあ、いきなり強い武器が出てくるのもおかしいか。わかった。これだけで戦ってやるよ!」


 久しぶりに武者震いで体が震えていた。

 こんなことは、自分以外の味方が全員死んで、回復薬無しでフロアのボスと戦い抜いたあの蒸し暑い夏の日以来だ。

 ちなみに、あの戦いはあらかじめ用意していた麻痺弾を駆使して勝った。あの弾丸は、確か直接標的に命中させなくても、相手の武器か何かに当てさえすれれば麻痺機能が働くという恵まれたシステムだったことを覚えている。

 麻痺や毒は、喰らうと絶望的だが味方になるとかなり頼りになる。

「ようし、いくぞ!」

 しかし、今回は麻痺も毒も持ち合わせていない。あるのはコントローラーとおっさんから奪ったシューズに手袋だけだ。

 圧倒的に不利な状況でも、俺は途中でリセットボタンなど押さない。これがゲーマーだ!


「そいやあああ!」

 大きく舞い、氷と化した大きな波に着地する。目の前には白く輝いた一本道以外なにも存在していなかった。先刻まで周囲にいた敵達は、味方の攻撃に巻き込まれないようにどこかへ避難したようだ。これなら敵陣に接近しない限り襲われる心配はない。


「お前らは逃げとけ。あとは俺がやってくるから」

 一度行ってみたかった主人公みたいな台詞。まあ、死亡フラグだろうな。


「え? でも敵は沢山いるんだぞ?」

 心配するおっさんを右手で制し、俺は告げた。

「俺の最高ヒットポイントは二十万七千。最速ボス戦クリアタイムは五分弱。メイン武器は勿論剣。たまに二丁拳銃。座右の銘はカップラーメンより早くボス勝利。こなしてきたゲームは五千を超える。俺に倒せないボスはいない!」


「え? でもこれゲームじゃなくて現実のたたか……」

「アクセラテッドシューズ、起動!」


 相手の質問を完全無視し、俺はシューズの起動スイッチを押す。

 シューズ全体からボオオオオオと勢いよく炎が噴射し、目にも止まらぬ速さで前進した。 

「うああああああ!」


 景色がコマ送りのような映像で視界に移っては、他の景色に変わっていく。前を向けば重たい風が顔面を直撃し、まともに目も開けられない。

「なんだあいつ? 凄い速さで向かってくんぞ」


 視界の片隅に、人物らしき形をした複数の物体が見えた。体全体が二メートルほどあり、皮膚はローブで隠れていてあまり見えないが赤っぽい。見た目はウンケル達とさして差はないが、大きな角を頭部に生やしているのを見るに、こいつらは敵なのだろう。

 彼らの表情を細部まで確認することはできなかったが、驚いていることだけはわかった。スペルを詠唱される前に、あいつらを速さという最大の武器で気絶させてしまおうか。


「そらよ」


 速度を味方にした凄まじい蹴りで五人ほどの敵を吹き飛ばす。その余波でさらに十人くらいの魔王軍の人間がぶらりと宙を舞った。

「よし、ここからが本番だ」


 はやくも十五人の敵を倒したが、油断は禁物だ。こいつらはクエストでいう序盤に出てくる経験値稼ぎの雑魚にすぎない。中層にでてくる強キャラが出てくるまではできれば攻撃を喰らいたくないものだ。


「ん? 万一に攻撃を喰らったらどうなるんだろ。治癒魔法がないから治すことできないうえに、回復薬もないぞ」


 まさかノーダメージで戦い抜けというのか? そんなの無茶だ。そもそも、俺の肉体は地球の時と同じ強度なのだろうか。だとしたら魔法は勿論、普通のパンチでも失神するぞ。


「ぶりゃああ!!」

 敵の一人がナイフを向けてきた。鋭い切っ先に、体が震えてしまう。

「くそ! グローブ。剣を出せ」


 ダメ元で叫んだものだったが、叫んでみるものだ。次の瞬間、グローブがその在り様を変えて紫色の大きな剣に変化したではないか。


 この剣は俺が最後にプレイしたゲームで使っていたものだ。この愛剣は超レアな代物で、初期のスペックですら攻撃力A、耐久度Aという、ずば抜けた数値だったが、俺が汗と涙と愛情を費やした結果、攻撃力SSS、耐久力SSSにまで化けたぶっとんだ代物である。


「ひょっとして、ゲームでプレイしていた時と同じスペックなのか?」

 ふと疑問が脳裏をよぎる。俺はこれまで五千ものゲームをプレイしてきた。全てとは言わないが、気に入った武器は最低でも七千くらいは覚えている。


 もし必要とするという説明の中に、脳裏に浮かんでいる武器でも可能という補足があるとすれば、俺の保持している武器の数は七千にも及ぶということだ。


「あっはははははっはは」

 こらえきれずに高笑いをしてしまった。俺の奇行に驚いた敵の奴らが戸惑うように互いの顔を合わせる。

「俺の勝ちじゃあああい」


 油断大敵! といった風に俺は二人の敵を切り裂いた。その切れ味は、ラスボスにとどめを刺したあの剣そのものだった。


勇者がなぜ魔王と結託したのかは、あとで明かして行く予定ですね。取りあえず今は話を進めたいと思います。

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[気になる点] これを吐けば は これを履けば ですね。
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