3.死亡フラグが助走つけてこちらへ向かって走ってきた
「は?」
目を開けると、そこに映っていたのは中世的の時代によくみられたおしゃれな家をそのまま模写したような、小さな家だった。七色の色彩で彩られた天井、木で造られたリビングと椅子。クーラーの効いた部屋にいた俺の体を温めている暖炉。全てが現代の暮らしとはかけ離れていて、視界に映った情報を理解するのに脳の整理が追い付かなかった。
「ん?」
人の気配を感じ、周囲を見渡すがそれらしい気配はまるでない。豪勢な部屋に俺一人だけがポツリと佇んでいる。
「まあいいか。てか、ここどこだよ」
取りあえず情報収集のために外へ出ようとドアノブを握る。このまま右に回そうとした途端、野太い声が扉の向こうから聞こえてきた。
「また怪我人が出た! 魔王軍の奴らがここを襲ってきたんだな!!」
怪我人? 魔王? この二単語が俺の脳内をぐるぐると回る。何? まさか魔王と喧嘩して怪我人がでたとでもいうのか?
「ありえない、ありえない。でも物騒な感じだな。騒ぎが収まるまでここで待機をしていよう」
椅子に腰を掛け、机上に置いてあったパンらしき食べ物を手にする。
あれ? そう言えば、ここの家主って誰なんだろうか。もしこんな所を見られたら、泥棒と間違われて警察のお世話になるんじゃ……
「どうする。外は争い、中は警察って冗談じゃない!」
頭を抱えて必死に打開策を練っている最中に、再び外から野太い声が聞こえてきた。
「お前が呼んできた戦闘のスペシャリストはどうしたよ!」
そんな奴がいるんなら早く呼んで来いよ。
「すみません。多分もうお家にいるはずなので今すぐ呼んできます」
女らしき人が返事をした。お家にいるスペシャリストってなんか変な感じだな……そんなことよりもあの声、どっかで聞いたことがあるな。
女の子の可愛らしい声なんてフルボイスのゲーム以外で聞いたことなんてあっただろうか?
いや、でもこうして聞き覚えがあるんだから、聞いたことがあるんだろう。
そう思った俺は、脳内にある粗末な記憶の引き出しを片っ端から開けてみた。最初に出てきたのが母親。しかも父親とのSM映像付き。
俺は無言でその引き出しをぶち壊した。母さんがSM嬢ってなんだよ、勝手に思い出をねつ造すんじゃねええ!
「SM?」
それで思い出してしまった。あの声はそう、俺のTV画面に唐突にやってきて、意味不明な質問を一方的に投げかけてきた……
「すみません俺井崎様。私はウンケルという、か弱い農家の娘です。どうかあなたの御力を私達に貸してください」
銀髪のポニーテールを煌びやかに揺らしながら、拳銃を持っている少女は言った。
あくまでも無垢な笑顔で。
「うん。俺の力? まずはロードだな。地球にいた時に今すぐロードしろ! もう一度やり直す。何で俺が戦わないといけないんだ!」