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29.兵器に対抗するゲーマー

「ハア……ハア」

 相手の鋭い剣先をかろうじで躱し、私は相手の胸部に強烈な突きをお見舞いした。


「これで、やっと敵の数は五十人てとこか? 全く、竜二郎がくれた麻痺弾がなければ今頃死んでいたぜ」

 傍らで、フォウズがそんなことを言っていた。余裕そうな発言だが、彼の体は敵の攻撃でボロボロだ。


「それにしても、あんなゲームを今までやってたからって理由だけで俺達が活躍するなんてな。気付くのに遅れちまったが」

「遅くなってもありがたいです。感謝しています」


 頬に滴る鮮血を拭いながら、フォウンヌはその日のことを思い浮かべながら呟いた。ウンケルも、決して軽くはない傷を負ってはいるがまだ笑顔を作れるくらいの余裕はあるそうだ。


 フォウンヌが言った『あのゲーム』とは、俺井崎が 魔王サイドの魔力を塞ぐために与えた『酔拳少女 萌え萌えちゅん』のことである。


 俺井崎の教えを必死に覚えようとしていた女子人とは違い、フォウズとフォウンヌの男子人は修業よりもそのゲーム――というか、ゲームのキャラ――に夢中になり、修業そっちのけでゲームをプレイしていた。


 ゲームに搭載されている曲は全部で三十あったらしく、たまたまその内の一つの曲のリズムが魔魔王軍の武器である魔力と、その魔力が五つのタンクに移動するときのリズムにそっくりだったらしい。


「曲名は『二日酔いパーリナイツ』だ。良い曲だった……」

 感傷に浸るフォウンヌを無視し、アイルンは迫ってくる敵の魔力を封じ、再度キツイ一撃を与える。


「くっそ! 人間風情がああああ!!」

 予期しない展開に気が触れた敵の一人が自滅覚悟の大きな魔方陣を開く。

 それはマズい。アイルンは瞬時に察知した。


「周りの武器があの魔方陣に吸い込まれていきます……」

 まるで磁石のように、次々と周囲の物体は魔方陣に吸い込まれていく。壁も、床もベキベキと砕けていき、その欠片が魔方陣吸い寄せられていく。


「おい、俺達の武器もあいつに取られてくぞ!」

 銃、太刀、マシンガン、盾、細剣が順番に吸い込まれていく。四人は一気に丸腰になってしまった。


「アッハハハハハ! 終わりだ!」

 狂ったように叫ぶ敵が貯蓄した魔方陣の中にある光を一気に開放する。あれを喰らったらこの部屋だけじゃなく城ごと崩壊してしまうだろう。敵側にとっては国もろとも死ぬ予定だから問題ないかもしれないが、四人にとっては大損害だ。


「喰らえ!」

 突如、背後から一陣の風が吹いた。

 大きな風は巨大な魔方陣を一瞬で掻き消し、五十人の敵もろとも城の外から吹き飛ばす。



「……無事か? 取りあえず治癒だ」

 そういうと俺は治癒魔法を唱える。四白い光が四人の傷を癒やしていく。

「おりがとうございます……って俺さん!」


 今になって気付いたのかよ。

「いきなりワープしたから心配したわ。大丈夫だったの?」

「ああ。丁度ボスを倒したところだ」

「ええ!」


 四人が一斉に目をギョッとさせる。まあ、普通は驚くだろうな。俺もさっきまでは興奮のせいで勝手にテンション上がってたけど今になると良く勝てたなと大変驚いてる。


 でも、驚いたり、喜んだり泣き合うのはその後だ。

 今は、一刻も早くこいつらをここから逃がすことだ。

「いいか? もう少しでこの国を滅ぼす兵器が発射され――」


 【兵器オブリビオン発射まで、三十秒前。魔王軍の人間は速やかに死ぬ準備を行ってください】


 言いかけたところで、タイミングよく発令が城に流れてきた。アナウンスの対象が俺等じゃなくて魔王軍なのは、きっと俺達がその頃にはすでに死んでいると予想していてのことだろう。


 結果は、真逆になったが。

「え? 三十秒前だと!? 竜二郎。策はあるのか?」

「未然に防げるんだろ?」


 フォウズとフォウンヌに、俺は静かに首を横に振った。


「【未然】にはない。でも、一つだけ方法がある」


 この方法は、二つの偶然で思い付いた奇跡だ。

 まず一つは、ボスを倒した直後に発見したことだ。

 コントローラーの【①装備した魔法で戦う】という欄に、新たな魔法が追加されていたことだ。

 その魔法の名は、【吸収魔法】。周囲の人間が保有している魔力を自分のものにする魔法だ。


 その魔法を使えば、ここにいる数千人の魔力を支配することができる。

 そしてもう一つは、これはボスと戦っている最中に思い付いた作戦だ。

 ボスが装備していた武器。己の魔力によって防御力を際限なく高めることができる盾だ。


 もう、わかる人もいるかもしれない。俺が思いついた策は、そうだ。


【ここにいる人間全ての魔力を俺のものにして、ボスの盾を復元する。そして、俺自身でオブリビオンを物理的に破壊する】


 余りにも危険な作戦だった。無茶なのは重々理解しているが、それしか思い浮かばなかったのだ。


 四人には、何も言わないつもりだ。 


 その全容を四人に言ったところで、はいそうですか、頑張ってくれと納得してもらえるわけがないからだ。

 いや、納得してくれたらくれたで凄い複雑な気持ちになるけれど。


「え? どんな作戦なのよ」

 勘付いたのか、先程まで安堵していたアイルンの表情が一気に曇った。


「アイルン。いつぞや話した隠してた戦艦、まだ使えるのか?」

「え? 自力じゃ無理だけど、地下にあるからその兵器が直撃しない限り身の安全くらいは保てるかも。余波で戦艦が動いて海に流れていくかもしれないし――」


「ああ、そうか。じゃあ、今から倒壊した家に転移させるから、ついたら適当に戦艦に乗っていてくれ」


「え? いや、あなたはどうする――」

 最後まで言わせまいと、俺は強引に転移魔法を四人に発動させた。

消えよく彼女達の表情を、静かに眺める。これで最後だとは思いたくないが、その可能性も否定できない。


「さて……俺も城の外へ出るか」

 一階にまで転移し、俺は外へ出た。


【発射まで、十秒前】

 城のてっぺんは、雲をも貫く鋭い塔だった。

 そこから穴が開き、ピストルの弾丸をミサイルサイズにしたような黒色の兵器が出現した。


 あれが、オブリビオンだろう。冷徹な印象を与える黒色の兵器は、きっと俺も、この国もいともたやすく貫き、粉々にするのだろう。


 そのために作られた兵器。それが唯一の生存理由だ。

 物を壊すことしかできない機械に、同情もするし、怒りも湧いてくる。

 「行くぞ……」


  緊迫とした沈黙が俺に訪れる。聴覚に届く音は自分の鼓動しか存在しない。

  そして、その音もいつしか聞こえなくなるくらい俺は目の前の敵に集中した。

 静かに吸収魔法を発動する。幾千もの青色の淡い光が一斉に俺の体内に入り込む。


「グ……アア!」

 慣れない激痛が体内で爆発的に広がり、失神しそうになるが、歯を軋ませて懸命に気をとどめる。


「復元」

 ボスが見せた全身を囲う盾を復元させる。先刻見た時よりも格段に屈強そうな盾を見つめると、俺は最後にアクセラテッドシューズを起動した。


 ブーストの力で、空へと飛ぶためだ。

 あのおぞましい兵器は、なんとしても着陸する前に壊さないといけない。

 【発射まで、三秒前です】


 風が頬に伝わる。速度に視界が追い付かなくなり、まともに目を開けていられない。それ以上に、今更だが死への恐怖で体が震える。」

【二秒前】


 この世界で、何度も死の瞬間を味わった。辛いこともあった。母親とも当分会えないだろう。プレイしそこねたゲームももしかしたら一生できないかもしれない。


【一秒前】

 けれども、それでいい。この世界に来て、俺はそれ以上のことを学んだ。沢山のことを経験した。そんな素晴らしい人がいる国を守れるのなら、俺は全力で死守する。


 【発射】


 凄まじい速度でオブリビオンが発射される。俺はその先端に、固さを武器にした拳を全力で放った。数千人分の魔力を味方にした攻撃を喰らえ!


 轟音が聴覚に響く。衝撃が全身に殺到する。視界が赤黒に染まる。足元がとても熱い。意識が一気に失っていく感覚が脳にまで伝わる。


 体中の力が抜け、重力に逆らう気力もなく体が急降下する。あれほどの防御力を誇っていた盾もほとんど破砕していた。

 最後に赤一色で染まる空を見て、俺は意識を失った。

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