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2.理不尽な召喚

「おっしゃー! ステージクリアした。やっとラスボスを倒したぞ。長かった。長かった!」

 派手な効果音がテレビ画面に流れるのを確認してから、俺は盛大に叫んだ。そのあと扉越しに母親からうるさい! と言われたが、そんなのはどうでもいい。やっとゲームをクリア出来たという達成感が俺のテンションを最大限まで上昇させている。


 ソフトの名前はまあ、どこにでもある有り触れたファンタジーゲームぽい名前だ。特段珍しいゲームでもない。VRMMOでなければMMOですらない。完全なる一人用のオフラインゲームだ。

「それにしても嬉しいな。オフラインにはオフラインの良さがあるんだ。オンゲとは違って展開とキャラが既に決まっているから余計なことをしなくてもいいし、俺だけが動いているみたいな優越感にも浸れる。協調性なんて必要ない。自分だけの世界があるんだ」


 大規模なCGで展開され、リアルな人間では出せないだろう魅力に溢れているキャラクター達、そしてなんといっても自分のペースで進められるオフラインゲームを、俺は大変重宝している。

 いや、オンゲが悪いとは言っていない。仲間と協力してクエストをするのは非常に胸が躍ることだが、オンゲとはあくまでも協調性を重視したものだ。


 ダンジョン探索中に試したいことがあっても多数を納得させないといけないし、何よりリアルが関わっているからギルドの関係も複雑だ。気に入らない人間がいれば平気で省くし、ギルドの人間達のリアルが多忙になれば自然的に解散をする。

 現実から隔離されているものがゲームなのに、リアルが関わっているせいでその魅力が全て台無しになるなんておかしいとは思わないだろうか。


 それだったら、俺は裏切らない仲間達と一緒に、最初から終わりに向かって進行していくストーリーを楽しんだ方がいいと結論付けたのだ。

 人間はいつだって不安定な生き物だ。だからこそ、俺は決められたことしかできないNPCと、不安要素のない安定な暮らしをしたほうが充実感を味わえる。


「っと、次のゲームをするかな……。五千作目のゲームクリアだから嬉しいって気持ちもあるけど次いかないと」


 オフラインに日頃から没頭しているため、その腕前はかなりのものだと自負している。卓越したコントローラ操作で瞬時にモンスターの急所に攻撃を炸裂させる速度だけは誰にも負けない自信があるね。一時、自作したコントローラーを使って町の住民に向かって動かしてリアルゲームごっこをしていた時のことを不意に思い出した。ああ……人生にセーブデータがあったら間違いなくその瞬間にセーブデータを消去してニューゲームしていただろう。


 嫌な思い出を忘れるために首をブンブンと回し、机の引き出しを開けて次にプレイするゲームを取り出す。

 その瞬間、いきなりテレビ画面から文字が浮かんできた。

【こんにちは。俺井崎竜二郎様】

「は?」


 手に持っていたゲームを落とし、俺は唖然としながら画面を見つめる。俺井崎竜二郎とは、俺のことだ。しかしどうしていきなりこんな文字が浮かんできたんだ? リモコンには触れていない。いいや、例え触れていたとしても、こんな画面は映らないだろう。いったい誰がこんな悪戯を。


【これは悪戯ではありませんよ】

 俺の心中をトレースしたような返答が画面から返ってきた。こいつ、人の心が読めるのか?

「何者だよ……あんた」

 その問いには答えず、こんな文字が浮かんできた。


【ゲームクリアおめでとうございます。あなたの素晴らしいプレイを拝見させていただいてました】

「あ、ありがとうって……全て!!」

【そうです。プレイ中にお尻を掻いていたことも、お母様に勉強しろと怒られていたとこも、あなたがプレイ中寝ている最中にお父様があなたの部屋からいかがわしい本をこっそりと拝借していたことも見ていました。最低ですねあなたって、見損ないました】

「なんでそんなとこまでじっくり!? というか、最後俺別に悪くねえだろ。しかも俺は二次のSM関係のエロ本しかもってねえぞ? 親父どんな性癖だよ」


 俺を作っている最中も、親父は蝋燭と鞭を駆使していたんだろうか。親父はMなのだろうか? 母親が俺を生んでいる最中、逆に父親の尻のアナの方が広がっていてどっちが生んだかわからないよみたいな猥談を夫婦でしていたのだろうか。

【あなたの父親様はMです。あなたがモンスターに与えていたヒットポイントよりも攻撃を喰らっていましたよ】

「どこまで拝見してんだコラアア!」


 まさか赤の他人――というか、こいつ人間なのか――に家族の裏側を教えてもらうとは思っていなかったため、少し動揺してしまった。

 画面の奴はまあまあと俺を宥めて話を進めていった。主導権握ってんじゃねーぞ。


【ところで、あなたはゲームの腕には自信がありますか?】

 愚問だった。俺はすぐさま回答する。

「あたりまえだろ。ゲームで俺が負けるはずがねえ。決められたエンディングがあるのならなおさらだ」

 その答えに満足したのか、ふんふんという文字がテレビから浮かんできた。いや、なに満足してんだよこいつ。


【わかりました、では次にこう質問します】

 今までとは違う、大きく太い文字が浮かんできた。

【自分の体で、プレイしてみたいですか?】

 それも愚問だったため、すぐ答えた。

「周囲が全て俺の言うとおりにしてくれるなら」


 十秒ほどの間をあけて、新しい文字が浮かび上がる。しかも今度は、可愛らしい音声付だった。

【ありがとうございます! あなたを頼りにしていますのでよろしくです!】

 瞬間、俺の体は謎の光に包まれた。反射的に体が拒絶し、抵抗するが規模をどんどん拡大していく光になすすべなく飲み込まれ、俺はこの部屋とは違う別の世界に転移した。

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