18.五千人の勢力VS五人
「まず最初に聞きたいんだけど、今回の戦争で魔王軍はどのくらいの人数を用意するとおもう?」
部屋に入るなり、俺はそんな質問をする。
現在、俺等の戦力はたったの五人だ。
この国に慣れ親しんでいる四人の人間は、地の利を活かすなりすれば勝ち目はあるかもしれないが、俺にはそれがないし、まず五人で何千人と来るだろう魔王軍と正面でやり合うのは無理だ。
「そうねー。昨日竜ちゃんが倒した魔王軍の傘下の人数はざっと五百人くらいよ。その内、外で私達と戦っていたのは百人くらい。あとはアジトで待機していたらしいわね。まあ、あなたが全員倒しちゃったんだけど」
「俺がアジトで戦った数は二百人くらいだった。ってことは、残りの二百人は城の中にいたのかな。その城ごとぶった切っちゃったからわからないや」
さらりと言ったが、よく考えるととんでもないことしていたな、俺。
「そうですね……前回、魔王軍が戦った国は九番目に滅ぼされたルドアン帝国でしたが、確か二千人くらいの魔物がやってきたそうです。魔王は不在でしたが、その圧倒的な戦力の前に平民さんたちはなす術が無かったらしいです」
ウンケルが割って入ってそんなことを言った。二千人! 四倍じゃねーか。
「五人しかいない私等の国とは違って、その国はまだ一千人くらい人がいたからね。多分私達と戦うときはもっと少ないわよ。五、六百人くらいかしら?」
「やっぱな……それくらいの数か」
げんなりとしながら、俺はアイテムの欄を覗いてついさっき手に入れたアイテムをのぞき込む。
先程まではゲームの中では勝負の決め手となるアイテムを手に入れた喜びに浮かれていたが、よく考えてみればその数は二百しかない。
奇跡の重なりでその二百のアイテムが全て敵に命中したとしても、残り四百人近くの敵がいる。
魔力を封じる術を会得したとはいえ、これはかなり厳しいぞ
「厳しい以前に、五人で百人単位の敵と戦うこと自体間違ってんだ。竜二郎が全員倒してくれるってんなら話は別だけどな」
フォウンヌが肩を竦めて無茶ぶりをしてきた。
昨日の無双は俺がノーマークだったからこそできたわけで、流石に今回は無理だろう。向こうも対策をしているはずだ。
「でも、まあ俺が三百人くらい倒せばいいだけだし、うん。問題ないよ。みんな順調にレベルを上げてきてるし、防具とか、武器がもっと強ければいうことなしだったけど、それは難しいんだろ?」
「無理ね。この国は元々平和なとこで、武器に関心がなかったの。今私達が持っているものが一番の武器よ。それに、どんなに屈強な武器でも魔法の前では無力に近いわ。どれも同じよ。即死か、苦しんで死ぬかの違いだけ。まともに当たれば終わり」
「いざとなったら完全武装で治癒魔法を使えばいい。そこら辺は任せてくれ。でも、そうするには固まって戦うか、それぞれの状況を確認する通信機とかが必要だ」
俺が負傷者を回復させるには、俺がそこにいなくてはいけない。そのためには五人がくっついて戦わないといけなくなる。
「まず、戦法はどうする? 集団戦で行くか、個々で散らばって戦うか?」
数で圧倒的に不利な俺等は地の利を活かして敵を翻弄するしかない。そのためには集団で敵を錯乱させて一気に仕掛けるか、バラバラに散って効率よく一掃させるかのどちらかだ。
「俺は集団戦の方がいいとおもう。さっきも言ったとおり,怪我した味方を治癒するには俺が近くにいた方がいいし、そもそも俺等は五人しかいない。バラバラに散ってもまともな策を練れないだろう。小さい力を一つにして、連携したほうがよっぽどいい」
俺が提示した意見に賛成したのか、四人はうんうんと首を縦に動かす。
「そうだな……バラバラだと少しでも計画にズレがでたら終わりだ。数がいればそのズレを戻せる余裕もあるだろうが、少数の俺達には無理だろう。考えている間にやられちまう、挟み撃ちなんてされたら終わりだ。一人じゃなんもできねえ」
フォウズの発言に、残りの三人も納得したようだった。
「戦法は集団戦で決まりだな。じゃあ、次はどのようにして戦う? 正面衝突なんてできやしない。やっぱみんなしか知らない所に集まって、罠を仕掛けるか?」
「実はね……計画してた策はあるんだ」
アイルンがそういうと、ポケットからボロボロの紙切れを出してきた。
そこには、この国の地図が細部まで書き込まれていた。この国の全体の図は始めてみる。八割くらい海だ。
「見てわかると思うけど、ここは海が大半を占めているの。あなたが期待しているような地の利はないわ。複雑な山もなければ、罠を仕掛けられるような土地も、もう魔王軍に知られてしまっている」
「そんな……」
愕然としている俺に対し、なぜかアイルンは不敵に笑った。そこまで余裕があるということは、とっておきの策があるのだろうか。
「この家って実は私が作ったのよ。地下室も私が設計した。本当はこの部屋も地下室も豪勢にしたかったんだけど、できるだけ殺風景にしたわ。まあ、ここは豪華になっちゃったけど」
「確かに……綺麗な感じだけど、家具の類はあんまないよな。ここは暖炉と台所と机があるくらいだし、地下に至ってはテーブルとベッドしかない……で? なにが関係してるんだ」
いきなり自分の設計こだわりを聞かされて苛ついてしまう。事を争っているというのに、何をのんびりとしているんだ。
「ここはね、家であると同時に巨大ミサイルの発射台になっているの。地下室の更に下にあるタンクの中に、毎日海の水を溜めているわ。スイッチを押せば今まで補充してきたタンクが一斉に飛ばされ、敵を殺す仕掛けになっているの。魔王軍といえども、凄まじい速度で発射される水の塊には流石に勝てないだろうとね」
「でも、そんなにも凄い物を飛ばすとなれば、この家は勿論、周辺の土地も危険だ。俺等もただではすまないぞ?」
「大丈夫ですよ。そのために二つの乗り物があります。頑丈で大きな戦艦と、一人用の自動車です。それらの乗り物もスイッチを押したら直ぐに地下からでてくるので、直ぐに避難すれば問題ありません」
なんてとんでも機会だ。もはやなんでもありだな。流石は地球を超えた科学技術。こっちも俺にしてみれば魔法だよ。
「でも、アイルンはこの国を守りたいんだよな? いいのか? そんなことしたらこの国もただではすまないだろう。国を崩壊させた人間が魔王じゃなくて俺達になるだけで、結末は変わらないんじゃ……」
国を守るのが俺達の役目だ。そんな自爆みたいなことをしても、ゲームオーバーになるだろう。
魔王を恐れて他国に渡った住民も、二度とこの国に戻ってこれなくなる。
そんなものは敗北と同等だ。
「そうね……国の地盤と強度を考慮して、水のミサイルを一発でも撃てばで半壊すると言われてるわ。ミサイルの数は全部で四つ。全て打てば、国もただでは済まない。でも、それは最終手段よ。なんとか一発で確実にしとめるために、成るべく敵を同じ場所に誘導させる必要があるわ」
悟ったような表情が返ってきた。戦時中で仕方がないとはいえ、自分の手で国を傷付ける行為は避けたいのかもしれない。
その気持ちは俺には分からん。
自分の世界に思い入れはないし、楽しもうともしなかった。ゲームに逃げ、いつの間にかそれが日常となっていた。
もう少し、他に可能性があったのなら、俺はどうしてそこに辿り着かなかったのだろう。
「……」
考えるのはあとだ、今は、この国を守ることだけに集中しよう。
アイルンは人差し指を地図の中心地にあてた。
「この国の中心地に敵を誘導させる。この周辺には小さいが山がある。なんとかその山を登らせて、そこでミサイルを発射させる。水爆と土砂崩れであいつらを一網打尽にするんだ」
「でもそれって囮が必要ですよね? 囮の人間はどうするんですか?」
ウンケルの問いに、代わりに俺が答えた。
「自動車を使ってもらうわ。車に乗って敵を誘導し、ミサイル発射の合図と同時に
一気に退散してもらう。数分くらい水に埋もれてしまうかもしれないけど、車内に酸素ボンベが搭載されているから潜水艦が迎えに来るまでそれで持ちこたえて」
「おいおい、そんなのリスクが高すぎんぞ。もし間に合わなかったら……」
フォウンヌが当然の反駁をする。それはそうだ。自分の保身を考えたら、あまりにも無謀すぎる。
「引き受けよう。車の運転はゲーセンで何度もしている。地形さえ教えてくれれば安全な運転をしよう。いざとなったら完全武装で転移できる武器を復元させればいいさ」
少しだけ恐怖で足が震えているが、俺は胸を張って名乗り上げた。
女性にはそんな危ないことはさせられないし、フォウズとフォウンヌは囮になるよりも戦場で暴れていた方がいい。
「そうか。都合がいいな。私も竜ちゃんにやって貰おうと思っていたんだよ」
「こいつ……」
恐ろしい奴だ。
でも、アイルンの人間性はともかく、こうして一通りの作戦は完成した。
あとは、奴らが来るのを待つだけだ。
そう意気ごんでいると、外からキーンコーンと、学校のチャイムのような音が聞こえてきた。
「なんだ?」
怪訝な顔をして、俺は呟く。瞬間、予想外の人物の声が聞こえた。
「どうも、デアルーン共和国の皆さん。魔王軍の回収係りをやっている、レドワールと申します」
「魔王軍だと!?」
一斉に叫ぶ。魔王軍が直々に接触を図るだなんて、いったいどういうことだ。
「私達は、三日後、正午丁度にそちらに乗り込み、国を滅ぼす準備をします。動員する数は五千人ほどです」
「ご、五千人!?」
フォウンヌが目を見開く。フォウンヌだけじゃない、みんなその途方もない数に口をあんぐりと開けていた。六百人だなんて嘘じゃないか。約四倍だぞ。
「貴方方にこれを教えたのは、死の選択を与えるためです。今から国を去るか、自殺するか。それとも挑んで私達に殺されるか。選ぶのはあなた達です。まあ、そう言っても毎回挑んでくる愚か者がいるんですけどね」
魔王達も一方的に惨殺しているわけではないのか。猶予を与えたうえで、邪魔者を消している。
アイルンの言ったとおり、国そのものに目的があるのかもしれない。
「ですが、今回はあなた方はたったの五人。他の国とは戦力が違う。五千人を前にして、あなた方は何かできるのでしょうか? 悪いことは言いません、逃げたほうが賢明といえますよ」
どこかしら見下した口調だったが、彼女の言い分は最もだ。
さっきまで練っていた策も、相手が五百人くらいという前提で作っていたものだ。
五千人も小さな山に集められるか?
ミサイル一発で全員始末できるか?
無理に決まっている。できるはずがない。
「そして、最後に俺井崎竜二郎さん」
名指しで呼ばれ、反射的に胸がドキリとする。名乗った覚えはない。なら、彼女はどうしてっているんだ。
「私はあなたを地球に帰す方法を知っています。知りたければ、明日の朝九時に、この国の最奥『フルエンッテオ街』まで来てください」
「な……」
俺の心の奥底に残っていたわだかまりを、見事に当てられた。
地球に帰り、やりなおしたいことがいくつもある。それを見抜き、揺さぶるつもりだろう。
しかし、いったいどこでそんな情報を……。
「では、失礼します」
そして、沈黙が訪れた。
先程までとは全く違う空気だった。
圧倒的な戦力差に、戦意が消失してしまったのかもしれない。
俺もそうだ。
どうすればいい。このまま死ぬくらいなら、いっそ地球に帰った方がいい――
「って、何を言ってんだ」
浮かびかけた思考を、強引に忘れる。こいつらを見捨てるなんて、ありえない。
それから俺達は、一言も口を発さず、飯も食わず一日を終えた。
逃げて国を捨てるか、国を守って己を捨てるか。
その答えは、未だに見いだせない。




