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13.両親への後悔

「できましたよー」

 ウンケルの暖かい言葉が地下室の上から聞こえてきた。とても胃袋を刺激するようなにおいが鼻腔をくすぐる。


「今日は貴重な肉を使った料理だよ。地球から来た救世主に感謝を込めたね」

 おどけた口調でそう言い、俺にウインクを飛ばすアイルン。これがもしアイルンじゃなくてむっさい男だったら俺は煽られたと勘違いして激高していたかもしれない。

 褒められることになれていないのだ。昔からゲーム上手いですねー、ゲームは。みたいなことしか言われたことがないからな。


 出された品の数々は、お世辞にも豪華といえるものではなかった。茶碗の半分にも満たない量の白米に、白ネギが沢山入っているスープに、お情けに少しの肉が入っているだけだった。

 こんな量では、空かした胃袋を満足させることはできないだろう。


 それでも普段不健康な食生活しかとっていない俺にとっては、十分すぎる御馳走だ。


 美女の作った手料理とか、ゲームでは最高のご褒美だぞ。

「すみません。がっかりしちゃいましたか?」

 俺の表情を気にしながら、ウンケルは申し訳なさそうに顔を下に向けた。

「え? いや、久しぶりに家庭的な料理が食べれて嬉しいよ」

「竜ちゃんの家は親がご飯作ってくれなかったの? なんかゴメンね」


 心苦しそうに口を塞ぐアイルン。やばい。何か勘違いさせてしまった。ただ単に俺が部屋に籠っていて喰わなかっただけだ。


 可愛い息子が突然ゲーム廃人になってどんどんダメな方向に成長していってしまったことを、両親はどう思っていたんだろうな。自分の好きなことに打ち込めていいよなどとは当然思っていないだろうし、いっそ消えてほしいとでも思っていたのかもしれない。俺が地球を去った今、二人はどのような反応をしているのだろうか。


 小学生時代の修学旅行以来のホームシックが俺を襲う。そういえば、俺は今まで両親に親孝行していないぞ。こんなとこで世界を守っている場合じゃないんだろうか。


 俺がずっとここにいたら、両親はどうなるんだ。

 このまま老いていく二人の面倒を、いったい誰が見るんだ? 

 怪我や病気をしたとき看病してやれるのは俺しかいないんじゃないか?

 俺はこの世界の命運よりも、現実でお世話になった親を何よりも大切にしないといけないんじゃないか。


「どうしたんですか? 俺さん」

 長考していた俺の顔を見て心配したのか、ウンケルがその綺麗な顔を近づけてきた。その整った顔を見てはっと我に返る。

「いや……なんでもない」


 心配かけぬように無理をして笑う。ただでさえ数えきれない問題を抱えているウンケル達だ。これ以上負担をかけたくないし、これは俺自身の問題だ。

「うん、いいスープだ」

 口内を潤してくれるスープを存分に味わう。肉の油とネギが混ざったスープは俺の体を隅々まで温めてくれる。


「よかったです」


 ウンケルはニコリと笑うと、ふーふーとスープの熱気を覚ましていた。猫舌なのだろうか。いちいち愛らしい仕草を仕込んでくるな。たまらん。


 その日の食事は、俺史上一番の楽しさだった。誰かの笑顔を見ながら食卓を囲むのがこんなにも賑やかなことだとは知らなかった。


「そのイベントを、俺は家族とするべきじゃなかったのか」

 みんなが寝静まった夜に、俺は独りでに呟いた。

 盛り上がった食事が終わると、直ぐに歯を磨いて就寝の準備に入った。


 デアルーン共和国は常にお日様が上っているため、今が何時なのかは正確には知れないが、体感時計を参考にすると、今は九時くらいだ。こんな早くに寝るのは生まれて初めてかもしれない。


「ぬおおおお」

 右隣でうるさいいびきをかくフォウンヌに舌打ちしながら、俺は考える。

 これまでろくでもない人生だったが、そんな俺を見捨てないで支えてくれた親をこのまま残していいのだろうか。


 それは、まだわからない。

 でも今は、こいつら四人の笑顔を守ろうと思う。

 そう無理やり結論付けて、俺は意識を夢へと向けていった。



今回も短いですが、次から長くなる予定です

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