彼女はゲーマー
俺の彼女はゲームが好きだ。
好きというか、俺よりも好きなのではないかと思う。あれは愛だ。
もちろんプレイするゲームに偏りはあるものの、基本家ではゲームをしている。俺もゲームが嫌いというわけではないが、その、もうちょっとゲームより俺に気持ちを傾けてはくれないものかと思うところもある。
元々ゲーマーだったという彼女からしてみれば、俺と付き合ってからはだいぶ落ち着いてきたらしい。全盛期は毎日のように近所の中古ゲームショップで、欲しいソフトを買ったり眺めたり吟味したりリストアップしたりとしていたらしい。ちなみに全盛期は学生時代なんだとか。
今は中小企業の会社員として働いている俺だが、彼女は薬局の薬剤師として働いている。好きなゲームの発売日には栄養ドリンクを大量に買い込んでくる。その栄養ドリンクを買って帰ってきた彼女曰く『これが一番効き目があるのよ』とのこと。薬剤師の彼女が言うんだから説得力がある気がして困る。
そんな彼女は、今もウチのリビングでほぼゲーム専用となりつつあるテレビで、コントローラーを振りながらホラーゲームをしていた。
「そろそろゲームやめなよ。ご飯冷めるよ」
「お母さんみたいなこと言わないでよ。大人になってまで小言言われたらたまったもんじゃないって」
「小言って……」
お母さん。あなたの娘はなかなか成長しません。
「せめて食べながらやんなよ」
「んー……もうちょっとでセーブポイントだから、ちょっと待って」
むむむ。
俺は冷めてしまったおかずを手に取って立ち上がり、台所にあるレンジで温め直すことにした。
とはいえ、いつものことだから慣れてはきたけどさ、きっとこれが惚れた弱みってやつなのだろう。彼女がゲーム好きだということは付き合う前からわかっていたことだし、付き合う時にも彼女に念を押されたし。
ソファに座って前かがみでゲームをする彼女の横顔を遠くから見る。
やっぱり可愛い。可愛いと思うし、テレビに向かって真剣なんだか無表情なんだかわかんない顔でゲームをしている姿も好きだ。その熱を少しでも俺に向けてくれないものかと思うのだが、そのへんは彼女の気分次第だ。
レンジの温めが終わり、それを持って彼女のところへと戻る。画面を見るとちょうどセーブが終わったところらしく、コントローラーを置いてフーッと息を吐く彼女。
「食べる?」
「うん」
テーブルにおかずを置き、また台所に戻って白飯を茶碗によそる。
彼女の前に茶碗を置くと、手を合わせて『いただきます』と彼女が言うので、俺も『召し上がれ。いただきます』と言って食べ始める。
一つ気になることがあったので、聞いてみた。
「電源切らないの?」
セーブはして中断したものの、テレビとゲームの電源はつけっぱなしだった。
「どうせ食べたらやるし」
「さいですか」
だそうです。長い夜はまだ続くそうです。
付き合い始めて六年、同棲を始めてかれこれ二年が経とうとしているけど、彼女は本当に俺のことを好いてくれているのかを不思議に思うところがある。いや、同棲をしているのだから、一応は俺のことは好きなんだろうけど、彼女の口から『好き』という関連の単語をあまり聞いたことがない。というか、覚えている限りでは三回だけ『好き』と言ってくれた。
最初は、告白の返事での『私も好き』。
二回目は、付き合って三回目の彼女の誕生日で、彼女のリクエストとして買ったPS3の本体を渡した時の『ありがとう。好きだわ』。
三回目は、彼女が俺の誕生日に買ってくれた3DSとそのソフトを俺が受け取った時の『好き』。
思い出せば出すほど、愛情がこもっていないような『好き』ばかりだけど、そのたまに言われる『好き』の度に、俺は変にドキドキしては満足してしまっている。
周りからするとこのままじゃいけないんだろうけど、俺は彼女とのこの関係が居心地が良くて、彼女もこのくらいじゃないとダメなんだと思うと、このままでいいかなと思ってしまう。
「ごちそうさまでした」
「えっ!?」
見ると、彼女が食べ終わったらしく、手を合わせて箸を置いていた。
「ちょっ、食べるの早くない?」
「早くない。いつもこのくらいでしょ?」
「そんな馬鹿な」
まだ食べ始めて十分くらいしか経っていない。しかしおかずは綺麗に食べてあり、ご飯も一粒残らず無くなっている。きちんと食べてはいるのだ。
俺はもちろんこの謎の早食いの原因を知っている。まぁご察しの通りだが、テレビのポーズ画面が解かれたのがその原因だ。
彼女はやりたいゲームがあると、食べるのも早くなり、そのことに向けて全力を注ぐのだ。
って、これもどうなのかと思うけどね。
俺は隣でおかずを食べながらご飯を食べ、彼女がプレイするゲームを見る。ちなみにここ何日かはこんなのが続いている。
「ごちそうさまでした、っと。片付けるかな」
俺は皿を重ねて台所へ持っていき、シンクに置いて、また戻って彼女の分も片付ける。
「コーヒー飲む?」
「ん」
「はいよ」
食後のコーヒーはかかせない、と彼女が言っていた。我が家に常備してあるインスタントコーヒーなのだが、彼女が今まで飲んだ中では一番好きな味らしい。きっとそこまでこだわりはないんだろうけど、そんな彼女が好むというのだから、俺はなるべくこれを常備するようにしている。
電気ケトルでお湯を沸かしている間に洗い物を終わらせ、終わったタイミングで沸いたお湯でインスタントコーヒーを作る。それを持って彼女の元へ戻り、テーブルに置く。
「面白い?」
「うん」
「ふーん」
俺は自分の分のコーヒーをちびちび飲みながら彼女の隣に座ってゲームを見ていた。
何口目かのちびちびを飲んで、マグカップを置いた。
すると彼女が唐突にゲームを中断し、リモコンを置いた。
トイレかな、と思い、横に座る彼女を見ると、すぐそばに顔があった。
そしていきなりキスをされた。
長いものではなく、短いものだったが、俺はいきなりで驚いた。別にキスをするのが初めてというわけではないというのは断っておく。
「え? え?」
少し混乱している俺を見て、彼女はたまに見せる笑顔を見せた。
「いつもありがと」
「えっ? あ、はい。こちらこそ……」
そしてまたコントローラーを持ち、何事もなかったかのようにゲームを再開していた。
俺は固まってしまった思考回路が徐々に溶けていくにつれて、今の状況を理解していった。
「え? 今の何?」
「日ごろの感謝の気持ち」
彼女は何でもないように言う。
「いきなり? 今このタイミングで?」
「……ん」
俺はなんだかどうしようもなく彼女が狂おしく愛おしくなり、思わず彼女に抱き付いた。
「ちょっと! ゲーム中はダメって言ってるでしょ!」
「はい、すみません」
彼女に叱られて、おとなしく引き下がった俺だが、顔のニヤけは取れなかった。
こんな彼女だが、俺はやっぱり彼女が好きだ。
おしまい。




