ハーレム男と縁の下
「──と、まあ、昨日の状態だとこんなもんだなー。最近ゆっくり話せてないってんで生徒会長が不満そうだったから、どっかで時間取っておけよ。甘いもんが好きだそうだから、菓子でも買っとくと良いかもな」
「そういやそうだったかも。いつもありがとなー、トモ。ていうか、お前ってどっからそういう情報仕入れてきてんの」
「そりゃおめー秘密だよ。あるいはシークレット……いや、門外不出ってやつだ」
「ごめんそれどっか違うか?」
「ナオくーん、早く学校いこってば!」
「すぐ行くよ!……なあ、トモはマジ一緒に行かねぇの?」
「馬に蹴られたくねー。ほら、さっさと行けよ。幼馴染殿がお待ちだぜー」
ひらひらと手を振る友和に、名残惜しげな目を向けながら直己は美少女と連れ立って先を行く。俺はそれを遠くから見守って、いつものように友和に歩み寄るのだった。
なんせまあ、通学路なので。
「うッス、友和」
「はよーッス、龍之介」
万人から好感を抱かれるであろう爽やかさと、誰にも強い印象を残さないであろう穏やかさ。溢れる空気は8割の窒素と2割の酸素の配分を欠かすことなく、尋常極まりない容姿は驚くほど毒にも薬にもならない。
俺、東城龍之介から見て、この小笠原友和という人物は、まさに「平凡」を体現したかのような、当たり障りのない人物だった。
その類稀なる情報収集能力は別として。
「で?今日もせっせと朝っぱらから、働きアリさんのように、ハーレムくんの恋物語のお手伝いに精を出してやってるわけだ」
「大まかに言えばまあ、そだなー」
草食獣の目が向き直るのに、呆れを隠さず溜息を落とした。パックの牛乳を啜る友和に、不躾な俺の態度を咎める色は一切ない。まあ皮肉も毎日のこととなれば慣れようというもんだが、そもそもこの友人は入学以降、一度足りとて怒りを露わにしたことがないので、やはりいつものことである。
とはいえ高校生の身分になってからというもの毎日がひたすら濃いせいで忘れがちだが、ちょっとは汗が滲むことがあるものの、春の麗らかな日差しはまだ僅かながら健在な時分だった。2ヶ月と少しを共にした間柄、悋気もそろそろ見える頃だろうと踏んでいる。この世に真の聖人君子がいるのなら、そういう奴は俺みたいな半分頭が不良品である輩とつるんだりはしないだろう。
「他人の恋路に口出して、何が楽しいわけ」
「楽しーわけじゃねーけど」
家路を急ぐ他人の姿を教室から見下ろしてぐだるのも、すでにいつものことである。
家に帰っても、「宿題やったの」だの「ちょっとは手伝え」だの、典型的な母ちゃん代表が口を磨いて待ち受けているだけだ。
毎日、夜の帳が下りるギリギリまで、誰と一緒にいるでもなくぼんやりと窓際を陣取っていた俺に、声を掛けた変わり者が友和だった。なお、掛かった声が「人生諦めんなよ」という、全力で後ろ向きに走る言葉だったことはいつまでも根に持つ予定だ。誰が自殺志願者だ。この野郎。
当時の自分の怒髪天状態を思い出して据わらせた目を見ることなく、のんびり野郎は腕を組んだ。
「ほっとけないっつーか。あいつ根本的に要領悪いんだよな。どうやったらうっかりデートバッティングさせそうになんの。おっかしーだろ。そこは普通、いの一番に気ィ付けるべきとこだろ」
「ほっとけよそんなん、ガキじゃねんだから。修羅場っても自業自得だろ。つかナチュラルに股掛けんなっていう。今、何股だよあいつ」
「5……いや、ついこないだ例のお嬢様学校のマドンナと運命の出会いを果たしたみたいなんで、6股かな?おにーちゃんベッタリな妹も入れるなら7股」
「妹は絶対に数に入れんな。イエスシスコン、ノータッチだ!」
「龍之介そういえば妹ちゃんいたっけ。相変わらずかわいー?」
「妹に手を出す男はのべつまくなく腹八分目にコロス」
「エターナルフォースブリザード!」
「相手は死ぬ」
ちょっと俺も、奴の家での様子とか調査してみようかと思う。
万が一にでも己が妹相手にラッキースケベイベントでも勃発していてみろ。肉親相手に肉欲を帯びる畜生に生きる価値なし。その日がテメェの息子さんの命日だと思え。
開け放った窓枠をブチ折る勢いで握り締める。俺のイメージトレーニングに朗らかな笑みをこぼす友和は、この世界の危機とも言える事態をわかっていないのだ。
直己の妹に襲い掛かる魔の手。すなわち妹という同じ場所にカテゴライズされた俺の妹が間接的に汚されるも同然。同性の局部を握るという屈辱など血の涙と共に飲み干そうではないか!妹よ安心しろ、蔓延る獣の汚い武器は、兄ちゃんが片っ端から丁重に、ぽっきぽきに折り畳んでおいてやるからなッ!
「燃えてきた!俺は旅に出るッ!」
「その淫猥な手付き止めろよー。何となく何考えてるか分からんでもないせいで俺の繊細な股間が縮むわぁ」
「友和のサイズなんぞ聞きたくねェよ。生えてりゃ問題ないから元気出せ」
「酷い誤解で侮辱を受けた!違う、断じて違う。繊細なのはサイズではなく精神力。俺のアームストロング砲はデリケートなのであるッ!」
「えー、どうでもいいわー」
「どうでもよくない!あらゆるものは、他のあらゆるものと関連するがゆえに訂正を求めるッ!」
「おいおい、敵を倒した者より自分の欲望を克服した者が勇者だろ。現実を認めろよ。自分に勝つことこそ、もっとも難しいことだぜ」
「アリストテレス先生の名言を股間の話に絡めるのは止めろ!」
「ダ・ヴィンチさんのお言葉を股間にまで関連させるのを止めろ!」
意外と早く悋気が知れた。達成感とかそういうの一切ない。当然だが。
ふうふうと呼吸を整えて、再び窓枠にしな垂れかかった。俺には友和とは違って背を伸ばそうという願望はないので、甘い炭酸水でのどを潤す。
「適当やめろやー。身長コンプレックスねーから俺」
そりゃ悪かった。
「話を戻すが、俺の目算に寄れば、C組のイインチョも直己にアチチのはずだ」
「何たる美少女ホイホイ……友和よォ、今更だけど、悔しかったり嫉妬したりとかねーの?」
世の中とは不公平である。俺のように、バレンタインデーには妹からのチョコ一つに歓喜できる一途な男もいるかと思えば、困惑をイケツラに貼り付けて無数のチョコを手にする男もいる。
羨ましいか羨ましくないかと言われたら当然のこと羨ましい。しかし変わりに妹のチョコがなくなると思えば別に良いやと思える摩訶不思議。この世に俺の妹に勝る天使なし。おお、そう考えると俺は血尿を流して羨ましがられる方の立場じゃないか。神により人の上に創られたもうた人間。それが俺だ!
ええと何の話だっけ?
横を見ると、きょとんと目を丸くした男がこちらを見返していた。男に凝視される趣味はないので、拝観迷惑料は1万円となります。
「俺、彼女いるし」
「マジでか!」
「おめー絵里ちゃんのこと何だと思ってんの」
「てっきり友和の部下の産業スパイだとばっか。えー、マジか。坂下ってそうなのか」
「よんだーぁ?」
遠慮の欠片もない勢いで叩き付けられた扉が可哀相だと思った。窓ガラスの命を危ぶむ騒音に、俺は顔を顰めて、友和は喜色を滲ませる。
なるほど、知識を入れれば、単純に友人を歓迎する顔には見えんモンだなあ。
坂下絵里。教室でひたすらだらける放課後に、毎度同席するのがこの女だ。大和撫子どころか女たる所以の片鱗も窺わせない原生生物だが、反面、さっぱりとして取っ付きやすい。大々的な下ネタを堂々と正面から迎え撃つ猛者はである。
「お前が友和の彼女だって知って驚いたとこだよ」
素直に吐くと、空いた椅子に尻を下ろした絵里が、中の中の容姿を歪めて睨んできた。そうやって大股で座るから女に見えんのだと小一時間。
「あんた、わたしを何だと思ってたの」
「てっきり友和の部下の産業スパイだとばっか」
「やーよぉ、ハーレム男の恋を見守る(株)とか運営する友和見んの」
「俺だってやだよ」
眉尻を下げた彼氏にフォローを入れるでもなく鞄を漁る。取り出したノートは見慣れたショッキングピンクで、表紙には飾り気のない黒ペンで「マル秘」とでかでか記されていた。指摘したことはないけど、どっこも秘せてないよな、と俺は常々思っている。
取り出したペンを走らせる。女子とはチマチマと線に合わせて小さな文字を綴るもの、と思い込んでいた俺には、男らしく駄々草に、縦横無尽に走る筆跡はショックなものだった。今は昔の話である。
「きょ、う、はぁー」
調子外れた音程でリズムを取る様に、ちらっと横目で友和を見る。微笑ましそうだった。まあ、満足ならそれで構わんのだが。
「こーんなカンジーィ!」
ジャーン、と効果音付きで突き出されたノートには、女しか知りえない、俺たちが決して視野聴覚に収めることのない情報が連なっている。いわく、生徒会長やら学年のマドンナやら、高値の花々の本日の過ごし方だとか、女同士の会話で端々に浮かぶ、彼女の好みだとか──下着の色だとか。
マドンナまさかの黒か、と鼻の下を伸ばす俺とは対照的に、友和は飄々と口笛を吹いた。
「お、早速アイツ生徒会長とコンタクト取ったのか。感心、感心」
「おかげで生徒会室があっかるいのなんの。かわりに会長に恋する副会長からキノコ生えそうだったけど、しょーがないね」
「おおお、光の裏に影あり……イケメンは人を不幸にする。やはり俺が直々にちんこ始末してこないといかんな」
「じゃあ記念に写真取っといてあげる。警察署に持ってったら丁寧に保管してくれるよねぇ」
「貴様この裏切り者!イケメンに絆されたかッ!」
「わたし彼氏いるし」
「マジでか!」
「おめー俺のこと何だと思ってんの」
「てっきり坂下の上司かと」
冗談はともかく、まあ二人は良いコンビだと思う。
絵里は妙なツテが多いようで、どこからともなくこういう情報を集めてくるのが得意だ。普通では手に入らない詳細なそれを、友和は大雑把に仕入れた情報と統合して纏める。
どちらも他人の評判に詳しくて、他人をよく見ている。そうして傾向と対策を打ち立てて、何故だがこいつらはハーレム男たる直己をアシストするのだ、が。
「な、もっかい聞くけどよ」
「んー?」
「なーによ」
ノートに向かっていた2対の視線に突き刺される。眉目秀麗とは程遠い2つの顔は、しかしやけに親しみやすい顔だとも受け取れる。息を詰まらせることも、圧迫感を覚えることもない。
気負うこともなく、俺は純粋な疑問をぶつけることにした。
「藤村のためにこんなメンドイことまでしてさぁ、お前ら何か得あんの?」
藤村直己──ハーレム男の何があそこまで女を駆り立てるのか、俺にはいまいち分からない。
良い奴だとは思う。世の中の女性陣のことごとくを魅了する男の敵ではあるものの、性格に難があるわけではないのだ。爽やかで、陰口を叩くことのない正直者で、どんな相手にも分け隔てなく接することができる、困った人を見過ごせない、正義感に溢れる男。
容姿は極上とまでは行かないが、誰がどう見ても整っている。完璧な美貌でない分、近寄りやすくも感じるのだろう。そこそこの容姿があれば自分にもチャンスがあると思える、神の微調整が入ったとしか思えない仕様。
とはいえ、あそこまで露骨に好意を示しまくる「極上の女」を複数人、誘蛾灯もびっくりに引き寄せるほどとは思えない、というのが正直なところだった。
顔を見合わせたカップルは、少し考えるように空を仰いだ。先に戻ってきたのは絵里の方で、さっぱりとした口調で告げる。
「わたしは藤村を応援してるのもあるけど、友和がそうしたいから手伝ってるってのがおっきいかなぁ」
「秘書かよ」
「んん、この件に関しちゃあんま否定できないかも。フェロモンっての?やたらと過剰に女の子引き寄せちゃうのには同情するけど、わたしは友和よりは優しくないからさ、同情だけじゃあんまり動く気になれないんだよねぇ」
「……つーと?」
向けた先で、友和は地面を見下ろしていた。視線を追うと、くだんの集団が団子になって騒いでいる。
牛歩の速度で進む7人ほどの団子は、あからさまに下校の邪魔になっていた。通り際、女子からは直己の周囲を固める敵への嫉妬ビームが飛び、それを見て男子は女子の好意をおよそ独占する直己への嫉妬の炎に燃料を足す。
中央で困った顔をする直己の心中を誰も考慮せず。
「俺もさー、そりゃ、最初は嫉妬しないでもなかったんだよ。絵里ちゃんも、うわイケメンだね、とか言ってたし」
「ただの感想だよ。空青い。ネコさま可愛い」
「ん、それは分かってんだけど、男の子って負けず嫌いでしてねー」
双方向から珍しいものを見る目を向けられて、友和はオホンとわざとらしく咳払いをした。嫉妬とかあったんだこいつ。てっきり煩悩の数が常人の半分くらいしか存在しないもんだと思い込んでた。
「んでもさ、ちょっと見てると、周り女の子しかいねーの、あいつ。男のトモダチって俺くらいじゃねーのって、思って、長々見てたらマジそーなの。俺しかいねーの。男連中の気持ちは分かるよ。俺だって絵里ちゃんが本気で直己に見惚れたりしてたらさー、多分トモダチ続けれてねーし」
「うわ照れる」
「何このキリっとした横顔の精神的イケメン。さっきと違って照れないの何でなのコイツ」
「でもさー、あんまりじゃん?本人が悪いわけじゃないんだよ。龍之介、朝見ただろー。俺と学校行きたそうな寂しげな顔。腐女子大歓喜」
「腐女子の皆さんだって相手を見繕う権利はあるんじゃね?」
「ケシゴムとエンピツとかを擬人化なしにくっ付けちゃう腐女子の皆さん舐めたらあかんよ」
「怖い」
「意外な流れ弾だよな……」
何そのたそがれっぷり。もしかして既に、固形化されたプライド粉砕装置が存在したりしてんの?恐る恐る出た疑問は、振られる細首に解答を得た。正解はCMの後。
そりゃ、ご愁傷様である。同じ男として軽く同情をして──次いで、背筋が寒くなった。
顔を青くした俺を視界に入れて、また空へと顔を戻した友和が彼女と同じくこっくりと首を振る。
「おめーが想像した通りだ」
「あいつ世界一不幸だ……ッ!」
涙が止まらない。締め付ける胸の痛みにのたうち回りたい気分だった。
アングラ世界に腐女子という生物が存在するのをご存じだろうか。知らなかった方が一生を幸せに送れただろうことを俺は確信しているが、ご存じない人間を巻き込むために、敢えてこの口を汚そう。感嘆に言えば思考回路が腐った女子だ。
世界のありとあらゆる関係性を理不尽に妄想という糸でねじ曲げて、あろうことか、一緒にいたり特に関係なかったりする凸と凸の一方を無理矢理凹ませてしまう超能力者だ。噂をすれば何とやら理論でうっかり召喚してしまうといけないから、直接的な分かりやすい説明文は提示しないものとするが、存在を知る男からは基本的に、人類の敵黒きGを凌ぐほどに恐れられている。凹まされるのも嫌だが、凹凸の凸の方に分類されるのも虫酸が走るし。
友和と直巳は、毎朝顔を合わせて情報交換をしているものの、学校では通りざまに一声掛け合うだけの仲だ。友和なりの正当な防護の結果であることは言うまでもない。直巳に想いを寄せる女子に固められた中で親密に会話をしてみろ。男だろうと容赦なく嫉妬の炎は降り注ぐ。その温度たるや、太陽が白旗を掲げて涙するレベルであるからして、いっくら本当は親しかろうと誰だってそうなる。俺だってそうなる。
それだけの関係の凡夫でも、腐女子の呪いは降り掛かる。それなら、斜め45度の角度から見ると月光花のごとき煌めきを誇る俺などがうっかり何かの間違いで直巳と同じフレームに写り込んでしまった日には!
「嫉妬より恐ろしいな……男子が近付かないのも無理はねェ……!」
「お兄ちゃんが勤めてる精神病院って評判良いみたいだけど、予約取っといてあげた方がいいかな?」
「幸せそーだから放っといたんだけど、やっぱ病状悪化したら良くねーし、現実に戻してやるのも必要かもなー」
「失礼なカップルだなお前ら」
「世界の美醜観を貶める竜之介ほど失礼じゃねーぜ」
「精々枯れたキンギョソウくらいだよねぇ、東城は」
「止めろ、画像出すな、グロ注意!怖いッ!骨格がイケメンと褒めるなら人体模型をサンプルにせよ!」
「うわこいつ強い」
「最初から混乱してるから精神攻撃きかないのかな」
防弾ガラスより繊細な俺になんたる言い草。このカップルには人の心がないのだと確信する。
胡乱な目を向ける俺と、可哀相なものを見る目を寄越す二人。数の暴力にはさすがの俺も敵わない。不貞腐れて炭酸水を煽り、うっかり含み過ぎて鼻から噴いた。
「えーっと何の話だっけ」
「腐女子大歓喜?」
「あーそうそう、あの留守番命じられた子犬の目。実はものすっごい友情育みたいのに、女性陣によるAナントカフィールドのために距離を置かれるっつうかわいそーな状態なわけよ」
「率先して突っぱねてたよな、お前」
「罪悪感がねーでもない」
それにしては清々しいお見送りだったと思うが。
さりとて他人の心情を推し量れるほど機微を感知できる特技は持っていないので、実は毎朝の拒絶に心を痛めているのかと──思おうとしたが、目の前の健やかな笑顔からは特に反省の色は窺えない。数秒考えて、納得した。要は、アレだ。罪悪感はあるが譲歩する気は毛頭ないという。
「そこで俺は考えたわけだー。早く誰か本命つくってくっついてハーレム状態落ち着いたら、何とか普通の友情くらいはあっためられるんじゃねーかとな」
平凡顔をきらりと輝かせてドヤ顔を見せた友和だが、それはつまり。
「友情を深めるのはやぶさかでもないが、害を被るのはゴメンだから先に取っ払おう、と」
「やだー、俺のちょっと良い言葉が台無しー」
「ちなみにあんまり友情あっためすぎると、彼女がヤンデレ化して包丁持ち出してくる可能性が出てくるのが難点」
「絵里ちゃんがくっついててくれれば回避できるんじゃないかなーと俺は期待してる」
「え、何かの拍子にうっかり藤村と指先が接触したりしちゃったら状況を把握する間もなく命が潰えると思うから、わたしは藤村の半径10m以内に近寄らないよぉ?」
「比翼連理!」
「自己責任」
カップルの小爆発を無視して、ふむなるほど、と俺は考える。
女子が状況構わず牽制し合っているのがいけない。ならば、状況を落ち着かせれば──つまり、彼女という一人を定めれば、直巳の交友関係への過剰反応はなくなる、かもしれない。少なくとも嫉妬の炎が「彼女」一筋になるとすれば、男子への被害はなくなると思う。
彼女の座に尻を下ろせなかった負け犬こと女子一同は、恐らく大半が友情という皮を被って虎視眈々と破局を狙う悪魔と化し、残りは素直に友情を得るに諦めるだろう。愛を得られないならもう会いたくないという殊勝な女子がいるかは分からんが、様子を見るにきっといない。楚々とした女子も、一皮剥けば肉食である。俺は直巳の周囲を飾る喧噪から深く学んだ。
傷付いた女子。これからどうしようかと迷う女子。得られない愛に心を切なく震わせる女子。
──狙い目ではないか?
「俺も手伝おうではないか!」
「なーんか悪そうなこと考えてんだろー」
「やだ、友和、恋のキューピットだぞ。素晴らしいではないか。そこに何の邪念が入ろうと、行い自体は素晴らしいではないか?」
「邪念が入ってることを素直に認める潔さは評価するわぁ」
善行を成そうという俺に降り掛かる2対の半眼ときたら、パンツとズボンを纏めて脱いで洗濯機に放り込んだ俺を見るかーちゃんの目とそっくりである。この世には似た人物が3人いるというが、まさかお前たち。
しかし細けェこたぁいいんだよ、ということで、俺は輝く明日に向かって立ち上がる。勢い余って飛んでいく、知らぬ同級生の椅子。大義の前に小事は無用。ごめん、明日自分で直してな!
鞄も持たずにきびすを返した俺の背を、どこ行くんだー、と気の抜ける声が押した。
「そうと決まれば俺ァ情報が正しいかどうか確かめてくるぜ──黒いぱんつの是非をよォッ!」
扉を開け放ち、廊下を疾走する。
桃色の妄想に胸を躍らせる俺は、残された二人が、興味なさげに視線を外へと戻したことを知らなかった。
その口からこぼれる残酷な事実も、また。
「そういえばマドンナちゃん、古式ムエタイ達人級なんだってぇ」
「そりゃー是非とも炸裂を拝見したいなー」
俺は後にこう語る。
もっと早く言えよ、と。
ギャルゲーやってて常に思うのは、一番主人公に尽くしてくれるみんなの情報くれるキャラとの友情ENDとか欲しいよねということですよね。
どう考えてもお前が一番俺を分かってくれてる。
現在短編小説の半分がぱんつオチというていたらくであります。




