St.Destiny's Day
ナツキは苛々していた。
今日はロクな事がなかったからだ。
朝はギリギリのところで電車に乗りそびれ、駅につくほんの少し手前で事故が起きて散々待たされ、昼は楽しみにしていた週末限定・フライデーランチを食べ損ね、こっそり思いを寄せていたユキちゃんはよりによって親友の鳩屋とイチャイチャしている。
がっくりとうなだれるナツキに、現実は更なる牙を向けた。放課後、女子更衣室を覗いていただろうと突然、教師から事情聴取を受ける事になったのだ。
それは勘違いであり、無実だとわかってもらえたが、既に女子生徒の間では「覗き趣味の変態野郎」という噂が広まっているらしい。担任教師がホームルームで一言言ってくれる事になっているが、それは明日の事で、今日の間は変態野郎の汚名を晴らすことができない。明日の朝までの間に、どれだけ噂が広まるか。変態の称号はみんなのメールにのってのって、まわってまわって何処までも。面白半分で広められた汚名を完全に雪ぐことができるのは一体いつの日か。考えると憂鬱だし、腹が立って仕方がない。
家へ向かって苛々と歩き、しかし、道の途中でナツキはふと足を止めた。
いつまでも苛々していてもいい事などない。今日起きた事はすべて、偶然だ。そんな日もある。変態野郎の濡れ衣を着せられたが、それは真実ではないと理解してもらえている。「いやあ、いきなり女子更衣室のぞいただろうとか言われてさー、参ったよマジで!」と、笑い話にしてしまうべき事だろう。友人たちにも一緒になって笑ってもらえば、女の子たちも「ああ、なんだ、違ったんだ。良かったー!」と同調してくれるはずだ。
着ている制服を軽く手で払いながら、ナツキはクリーニング屋の自動ドアに映っている自分の姿を確認していった。特におかしなところはない。不機嫌そうな顔だが、髪の長さも、服装も、不潔な印象ではないだろうと思う。いかにも女子更衣室を覗きそうな、いやらしい男と思われてはいないはずだった。
いつも通りにしていればいいんだ。そうだ、俺はごく普通の、ちゃんとした男子高校生なんだから。
小さく頷き、気を取り直してナツキは再び家路へと歩いた。
気持ちを落ち着かせて、明日に臨みたい。
人通りの少ない住宅街の、既に真っ暗い冬の夕暮れの道の上、ナツキの向かう先にぼうっと明るく浮かび上がっているものがある。
街灯の下、スポットライトに照らされているのは自動販売機だ。ナツキが贔屓にしているメーカーのもので、定番のドリンク以外に冬の新商品がいくつか並んでいる。
一息つこう。そう、暖かい飲み物でも飲んで。
お気に入りのアイドルが出ているCMを見て気になっていた、期間限定のミルクたっぷりのコーヒー。小銭を入れて、ボタンを押す。
ウイーンの後に当然続くはずの、「ガシャン」という音がしない。
ナツキにとって、今日は本当に運がない日だった。
せっかく収めたはずの苛々が再び沸騰し、男子高校生の中で爆発を起こす。
「なんなんだよ、畜生っ!」
怒りにまかせて、ナツキは役立たずの自動販売機に思いっきり蹴りを入れた。
「きゃうんっ!」
ガン、という音の後に聞こえた、甲高い声。怒りはぱあっと飛び散っていって、かわりに驚きと焦りがナツキの中に満ちていった。
スポットライトから外れた自動販売機の少し後ろ。街灯のあかりも、自動販売機の光も届かない暗い場所に、女の子が倒れている。よく見えないが、金髪に近い明るい髪の色、真っ白いコート、真っ白いブーツを履いた女の子が、地面に両手をついた姿勢で首を振っていた。
何事かと戸惑い、ナツキは動けない。
一方、女の子の方は小さく「ううん」と漏らすと顔を上げ、驚いているナツキに気が付いて勢いよくぱっと立ち上がった。
「あ、あの、あのっ」
パタパタと足音を立てながら、どこか鈍くさい雰囲気で女の子はナツキへと近寄ってきた。
街灯の下に現れたその姿は、本当に愛らしいもので。
長いストレートの髪。緑がかった青い瞳は大きく、バサバサのまつ毛にデコレートされている。大きな垂れ目はどこか、甘えん坊っぽい印象で、艶のあるぷるぷるの唇とセットでナツキの好みにストライクだった。真っ白いコートには襟元と裾にもこもことしたファーがついていて、それも甘ったるい可愛らしい顔によく似合っていた。すとんとした形のブーツも愛らしい。
「どうしたんですかー? すごく、怒ってるみたいですけど」
突然現れたエンジェルは、ナツキの顔をのぞきこみながらこう質問をしてきた。
「え?」
「今、蹴ったでしょう? こわーい顔して」
「ああ、いや……。買おうと思ったやつが、ちゃんと出て来なくって」
白いコートの美少女は驚いた顔で小さくぴょんと飛ぶと、突然バタバタと手足を動かし、散々わたわたしてから勢いよく、ナツキに向かって頭を下げた。
「ご、ごめんなさあーい! それじゃあ、怒って当然ですよね!」
「や、全然そんな、あなたが謝る必要なんてないですし」
「いいえ、あります! だって私、この自動販売機の精ですからーっ!」
そんな事、あるわけがない。
常識的な男子高校生であるナツキは当然、そう思う。
「ごめんなさあい。ホントに、どうしてだろう。時々、ミスしちゃうんですよねえ。ちゃんとお金を入れたのに、飲み物が出て来ないなんて。怒られてもしょうがないですう」
けれど、こんなにも可愛い女の子に、涙を浮かべながら必死で謝られると、「バカじゃねーの?」なんて気分は引っ込んでいってしまう。
「いや、君のせいじゃないでしょ?」
「いいえ、私のせいです! 皆さんにいつでも、どんな時でも飲み物を提供する為に私たちがいるのに。ちゃんとお渡しできないなんて、わたしの、バカ! バカ!」
頭をぽかぽかと殴る仕草は、そこら辺のブサイクがやれば蹴りを入れられてしまうであろうリアクションだ。だがしかし、この自動販売機の精にはよく似合っていて、正直ナツキ的には「許せる」どころか、「やべえめちゃめちゃ可愛い」レベルのものだった。
「いいって、いいって。ホント大丈夫。よくあるよ、こういう場合そこにほら、電話すればいいんでしょ? 後でかけるから。それでいいから」
コインの投入口の付近に貼られた有事の際の連絡先がプリントされたシールを指差し、ナツキは湧き出すデレデレを押さえ込み、紳士的な微笑みを浮かべながら答えた。
「ほんとうですかあ? うう……、優しいんですね! あ、そうだ、お名前聞いてませんでした。お名前、なんていうんですか?」
普通ならば、わざわざ名乗ったりしない場面だ。だがしかし「相手がばっちり好みの美少女」だったら、そりゃ当然心のネジは緩む。緩んで、名乗っちゃう。
「……ナツキ」
「ナツキ。ナツキ、さん、ですね! ふふ、ナツキさん、ありがとうございます! 許してくれて」
ぱあっと輝く笑顔。白いふわふわのファーの中に煌めくスマイルは、雪の中に咲いた花のようだ。春は近くまで来ている。そう思える程の眩さに、ナツキも微笑む。
自動販売機の精はひとしきり笑った後、突然振り返った。自分の出てきた自動販売機を見つめて、今度はじっと黙っている。
「あの、どうかしたの?」
「え? ああ、ごめんなさい。えへへ」
ナツキが声をかけると、自動販売機の精はくるりと振り返ってそれはもうとんでもなく愛らしい顔でにっこりと笑って、こう答えた。
「こっちから見たの、初めてなんです! こんな風になってるんですねー、へえ。うふふ。面白ーい」
普通の冷静な人間だったら、アホか、と。何言ってんだお前とつっこむ場面だっただろう。だが、自称「自動販売機の精」は、ナツキにとって脳裏に描いた理想の女の子像をそのまま三次元に持ってきましたレベルで好みにストライクだった。なので、ついつい、こんな受け答えをしてしまう。
「そっかあ、外から見たの初めてなんだあ」
「そうなんですー。お金を入れてもらって、ボタンを押してもらって、それで飲み物を出すんです。それはわかってるんですけど、……取り出し口ってこんな風になってるんですねー! わあ、わあ、すごーい!」
きゃっきゃとはしゃぐ美少女と、二人。暗がりの中で、二人。
心があったかい。
今日あったすべての嫌な事が、きれいさっぱり流されていくような清々しさだった。
「すごいですねえー、これでみんな好きな飲み物を買って、喉を潤すんですね。えへへ、面白いなあ。私もいっぺんやってみたーい!」
「やってみる?」
ナツキの心のネジはもう既に、ゆるっゆるだ。湯せんにかけたチョコレートのように、でろんでろんだった。そのくらい、自動販売機の精は可愛かった。
どうしようもなく好みの可愛い女の子が目をキラッキラ輝かせながら、手をぎゅっと握ってきて「ホント?」と言ってきたら、君は断れるだろうか? いや、断れない。
「いいんですかー?」
「いいよいいよ、お安い御用だよ!」
財布から小銭を出して、放り込む。ボタンのランプが一斉に光って、自動販売機の精はまた歓声を上げた。ああ、冬で良かった。辺りが真っ暗で良かった。これが真夏の昼間だったら、ぴかっと光った自販機のランプごときで「きれーい!」なんて言われなかっただろうから。
自動販売機の精はホットココアのボタンを押して、楽しげに取り出し口から小さいサイズの缶を取り出している。プラスチックのカバーの奥にある、銀色の蓋っぽいものに苦戦している様子がまた可愛らしくて、ナツキは「しょうがないなあ」なんて呟きながら取り出す作業を手伝った。そして取り出したはいいが、初体験の缶ジュースの仕組みがわからないらしく、クエスチョンマークを沢山浮かべた困り顔で首を傾げている美少女の為に、男らしく力強く蓋を開けてやる。
「わあ、ありがとうナツキさん! あ、あつい……」
「ホットはちょっと、冷まさないと」
両手で包み込むようにココアを持ってふうふうする様が、これまた可愛い。可愛くて、このまんま家に連れて帰れないかとか、そんな妄想までもがナツキの脳裏をよぎっていく。
ちびちびとココアをすする自動販売機の精。ちょびっと飲んで、ナツキが見つめている事に気が付き、にっこり。
ゲル状になってしまいそうなほどに心をトロトロにされたナツキの耳に、こんな音が聞こえてきた。
ぐう。
大きな腹の音をさせた事に、自動販売機の精は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「おなかすいてる?」
「え、えと、……よくわかんないです。外の世界に出たのなんて、初めてだから」
「じゃあさ、じゃあさ! ご飯食べに行こうよ。せっかく自動販売機の中から出てきたんだから、だからさ!」
もう設定とかその辺りの事はどうでもいいから、とにかく目の前の美少女と一緒にいたい。例えば、この後自動販売機の中に戻ってしまうとしても、その前にもう一個! もう一個思い出が欲しい! 出来れば誰か友人が通りかかって、なんだお前ナツキなにその美少女うわもう俺やってらんねえ! とか言ってほしかった。最近彼女が出来て威張っている、しかもそれがたいして可愛い子じゃない、っていうかむしろブスでしかない女と付き合ってるっていうのに散々惚気た挙句「俺、この間とうとう生のおっぱい触っちゃったよ!」と自慢してくる石倉あたりが来てくれたら最高だ。
「いいんですか?」
フィッシュ・オン! ナツキの投げた釣り針にかかった魚は今世紀最大級にデカかった。
「いいよいいよ! もちろんだよ! 駅前の方はイルミネーションがあって綺麗だし、見にいこう!」
真っ白いふわふわの彼女の手を取って、ナツキは走った。自動販売機の精は、嬉しそうに笑顔を浮かべながら一緒になって走ってくれた。きゃっきゃうふふ、冬の寒い空気が、ピンク色に染まっていく。
LEDのライトが色を変化させながら輝く、駅前の商店街。なんの変哲もないファミレスで、ナツキは最高の美少女と向かい合って今世紀最初で最大で最高のディナーを楽しんでいた。なにせ自動販売機から出てきたのは初めての事なので、自動販売機の精はどんな些細な事にでも驚いて、そして、笑った。わあ、これはなんですか? これで店員さんが来るんですね。これとっても可愛い、これカッコイイ、これは美味しそうとかもう、美少女によく似合った少し高めの可愛い声で、自動販売機の精は周辺の席に座った男性の視線を独り占めしている。
その中に知り合いの姿はなかったが、ナツキはひどくいい気分だった。どうだい、俺のツレは。超絶に可愛いだろう。自動販売機から出てきたんだぜ、信じられるかい? とか、そういう気分だった。
しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
運ばれてきたディナーセットを食べ終えて、更に季節のおすすめデザートである苺のスペシャルパフェまで食べて、自動販売機の精はご機嫌な笑顔を浮かべている。
支払いを終えて出た、ファミレス前。二人の吐き出した白い息がふんわりと夜の空気の中に浮かび、ゆっくりと消えていく。
さて、この後どうするか。どうなるのか。自動販売機の中に帰っちゃうのか。それとも、俺の部屋に来る? って言えば来てくれるのか。そんな漫画みたいな超展開があっていいのか、いや、あってほしい。是非あってほしい。両親にバレないように二階にある自室へ二人でこそこそ入っていって、それでベッドにちょこんと腰かけてもらって、それでなんだかんだアクシデントがあってうっかり押し倒す感じになっちゃったりして! そんなラッキーなあれやこれやもあったりなんかしたりして!
いざ、フライデー・ナイト・フィーバーッ!
「あれーリサじゃん! 何してんの?」
「あー、ゴッホくん! 今ね、親切な人にご飯奢ってもらってたんだあ」
妄想を打ち砕くのは、いつだって現実だ。
現実というのは本当に容赦がない。
前方から聞こえてきた会話に一気に現実に引き戻されて、ナツキは見た。自動販売機の精の前に止まっている若いバイクの男を。耳と鼻にピアスなんかつけて気取ってる茶髪のチャラ男は「超良かったじゃーん!」とヘラヘラ笑いながら、麗しの自動販売機の精にヘルメットを差し出している。
「今から俺っち、ミレーのとこ行くんだ。リサも一緒にいこうぜ!」
「あーうん、行く行くー!」
自動販売機の精はあっさりとヘルメットを受け取ってかぶると、バイクの後ろにまたがってしまった。
二人は爽やかな笑顔を浮かべ、手を振っている。
「ナツキくーん、ごちそうさまー!」
「ナツキくん、サンキューじゃあねー!」
何故かゴッホにまで礼を言われ、茫然と立ち尽くすナツキの前からバイクは去って行った。
ナツキは苛々していた。
今日はロクな事がなかったからだ。
朝はギリギリのところで電車に乗りそびれ、駅につくほんの少し手前で事故が起きて散々待たされ、昼は楽しみにしていた週末限定・フライデーランチを食べ損ね、こっそり思いを寄せているユキちゃんは親友の鳩屋なんかとイチャイチャしていて、女子更衣室を覗いただろうと濡れ衣を着せられ、その後「自動販売機の精」と名乗る嘘つき女にまんまと騙されたからだ。
自分のアホさ加減に、哀しみさえ覚える。んなわけねーだろうと。自動販売機の精とか、いるわけねーだろうと。ちょっと可愛いからってころっと騙されて、とんかつ御膳に苺のスペシャルパルフェまで奢ってしまうなんて! 馬鹿、俺の馬鹿! 超絶に阿呆だし、これ以上ない最高峰の間抜けぶりだった。
一度は絶頂近くまで高まった幸福感の分だけ、苛立ちは激しかった。
だから、家路の途中にある自動販売機を見て、ナツキは思わずそれに蹴りを入れてしまった。
思いっきり蹴った瞬間、ナツキは驚いて身をすくめた。
突然、爆発音がしたからだ。ハリウッド映画の中でしか聞いたことのない、非現実的な轟音。それが何度も何度も響き渡り、更に何かが崩れ落ちるような音もする。
慌てて振り返ると、空が真っ赤に染まっていた。燃えている。空が、燃えている。つい先ほどまでかすかに星が見えるだけのまっ黒い空だったはずなのに、オレンジがかった赤で染まっている。あちこちで黒い煙まで上がっていた。ビルが倒壊して、もうもうと粉塵を巻き上げているのだ。
「なっ……」
何故そんな事が起きたのか。見上げた空の先には、その原因らしきものも見えていた。巨大な土偶のような何か。特撮番組で見るような巨大で悪そうな何かが、目からビームを放ちながらアパートやらビルやらを殴り倒しているのだ。
「大変、もう……目覚めたのね!」
また突然。背後から声がして、ナツキは振り返った。
先ほど蹴り飛ばした自動販売機の前面が開いている。中は缶ジュースを入れるスリット上の投入口だとか、お釣りをセットする為の装置だとかがあるはずなのに、そこに見えていたのはコックピットのような何かだった。えーっ、奥行きが広すぎなーい? と思わされる意味不明の光景に口をあんぐりとあけて立ち尽くすナツキに、声の主であるへんてこなデザインのオレンジのワンピースを着た少女が力強く頷いてきた。
「あなたが、選ばれし戦士ね!」
「えっ?」
違う違う、と慌てて手を振るナツキ。しかし少女は構わずナツキの右腕を取ると、どう見ても様子がおかしい自動販売機の中のコックピットへと引きずり込んだ。
少女は悲しげに目を伏せ、首を何度も振りながらこう呟いている。
「時間がないの。思ったよりも復活が早かった……。ポイステン帝国が、こんなにも早く侵攻を開始するなんてね」
「あのすいません、ちょっと意味がわかんないんですけど」
「うん、わかるわ。でもね、戦士の目覚めとか選ばれる理由の説明とかって大抵最初の戦いの後なの。だってほら、とりあえず倒さなくちゃ大変でしょ? 大丈夫、あなたならやれるわ、ナツキ! 私がサポートするから!」
そうそう、私の名前はシーズ! と親指を立てる少女はとりあえずめっちゃ可愛かった。
混乱しつつもそう判断して、ナツキはコックピットに収まり目の前にあったレバーを握った。
たったそれだけで自動販売機の扉は閉まり、ぶるんと揺れて起動し、目の前に外の光景や敵の情報みたいなものを浮かび上がらせた上、空まで飛び始めていた。
「うーわ、何これ!」
「ベンダーマシーン、サマーウェーブ号よ!」
いけ、超自動販売機マシン・サマーウェーブ号!
オーシャンブルー・レーザーで敵を撃退だ!
ナツキは、高層ビルの屋上で呆然としていた。
今日はとことんツイてない日だと思っていたけれど、そうではなかったのだ。
今日あった全ては、運命として定められていた。
そう、超自動販売機マシン・サマーウェーブ号を起動する「運命のキック」を放つ為に――。
すべては些細な事だった。ナツキは今日という一日を振り返り、イライラとしていた愚かな自分にふっと笑う。地球を救うという崇高な使命の前に、覗き魔の濡れ衣を着せられたなんて余りにも小さい事だ。
横には、自称自動販売機の精よりはちょっと落ちるものの、なかなかの美少女が立っている。
今日からどうやら、一緒に戦う仲のようだ。うん、悪くない。へんてこなデザインのワンピースだが、それは戦闘の時だけで、普段はちゃんと日本の流行のファッションに身を包むらしいので、是非、ミニスカートにニーソックスで決めて欲しいと思う。
今日からは、運命の戦士として生きていくのだ――。
思いもよらなかった自分の定め。ナツキは両手を強く握りしめ、空にぽっかりと浮かぶ月に向かって誓いを立てるのだった。
復活した邪悪なる存在・古代ポイステン帝国の王を倒す為、運命の仲間と超自動販売機マシンを操れ!
ハルキとナツキとアキキとフユキの四人の戦士、そして運命の少女、シーズ。
五人の熱い戦いが、今、始まる!