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scene 3 「契約」

遺跡に中に勇んで入った凖だが、すぐに困ったことを発見する。


「暗い・・・」


当り前である。


凖は当面は腕時計のライトを使い、忙しなげに足元や頭上などを照らし、先を行くことにした。まぁ、それ以外に光を発するものは持っていない訳だが。


遺跡の外面は時代の割にはしっかり形を残しているように見えたが、果たしてそれは遺跡の内面も同様であった。

むろん、蔦はそこらに巻きつき、遺跡内のそこかしこで石が崩れているのが見受けられる。それでも全体のつくりはしっかりとしており、歩くのに不都合はない。


外からは良く見えなかったのだが、内部は意外に広く、彼が立っても歩いても不都合を感じない。凖は174cmの体格だが、まだ縦には10cm以上の余裕が残っている。その分か、幅は狭く、もし反対側から人が来ればすれ違うのも一苦労だろう。


「しかしこれは・・・・下に向かってるのか」


てっきり道は遺跡の上部に繋がっているのかと思いきや、目の前には下へと降りるための階段があるではないか。


「ホラーゲームはこんな感じなのか・・・?」


元来幽霊だのなんだのを信じていない彼は、一般に言われるホラーゲームなどをやっても、ちっとも面白いと感じたことが無い。しかし今は、ひんやりと冷たい風、土のにおい、そして暗闇。全てが彼の神経を攻め立てる。


「いくか・・・」


そう嘯き、彼は階段を下り始めた。

階段はらせん階段になっており、かなり奥は深そうだ。


彼は左手を壁に当て、一段一段をゆっくりと下り始めた。




「何だ、ここは・・・?」


階段を下りた先は、5m四方程度の小部屋であった。

ここだけは天井から光をどうやってか取り入れているらしく、仄かに明るかった。


凖は、正面にある2つの像を良く見てみた。

それは片方はとても美しく、片方はとてもおぞましい顔をしている。


像の周囲には見たこともない文字でなにやら書かれており、その下には石を彫って作られた絵があった。


「彫刻?」


何か良く分からないもの・・・・神様だろうか?それが二人の人間を従え、大地に降り立つ図のようだが・・・


「ああ、この人間って、この像のことか、もしかして」


最初の良く分からないものではなく、この場所には例の像2つしかない。カミサマの像が盗人によって運び出された可能性もあるが、そしたらこの2つの像も運び出さない理由が無い。するとここには最初から2つの像しかなかった、ということは・・・


「この像を祭っている、神殿か、ここは?」


2つの像・・・姉妹神なのだろうか。

いや、きっとそうだろう。

おそらくカミサマと、その配下の2柱か。

まぁ、どちらにせよ・・・


「今の俺の役には、立ちそうもないな・・・」


まさか像を食べるわけにもいくまい。


かなりバチ当たりなことを考えながら再び像を見ていると、ふと右側の像に、コケかなにかが付着していた。

美しい方とおぞましい方とで言うと、こちらは美しいほうである。


「キレイにしてやるか」


そう言って彼は手を像に伸ばした。


≪あの≫


「!?」


何か声が聞こえた。

思わずびくりとして像から手を離し、周囲に目をやる。


ゴトリ、と像が音を立てて床に転がる。


しかし、相変わらず周りには誰もいない。

自分と、足元で転がる像しか、音を発するものはない。


「なんだ、いまのは」


マズイ、まさかこれが本物のユーレイとかいうやつなのだろうか。


「大丈夫だ。いない。問題ない」


彼はそう言って、床に落としてしまった像を手にと


≪いたかったです≫


「ッ!?」


なんだ、これは!?


≪あの、私の声、聞こえますか?≫


何だこれは!


耳から聞こえてくるのではなく、頭の中に直接聞こえてくるイメージ。鈴の音の様な女性の声。魂を抜かれそうな、そんな声。いやそれよりも大事な事がある。


≪あの・・・≫


「き、聞こえる」


≪ああ、よかった。久しぶりなので、ちゃんと出来たかどうか不安でした≫


「ふ、不安?」


≪ええ、念話なんて本当に久しぶり≫


念話?

いわゆるテレパシーに通じる、あれだろうか?


「あ、ああ、そうか」


≪はい≫


だんだんこの不思議な存在と会話しているのが異常じゃなく思えてきてしまっていた。騙されるな霧下 凖。あからさまにこの怪しげなやつは何かトリックがある。後ろにスピーカーとかが付いているのだろうか?


≪あ、そうでした。申し訳ありませんが、お名前頂戴してもよろしいですか?≫


「な、なぜだ」


ない。ざっと見てみたが、スピーカーどころか人工物のカケラも見当たらなかった。


≪契約のためです≫


「契約?」


一体何のことだろう。クーリングオフのことでも説明してくれるのだろうか。

いやそもそも、契約と名のつく以上は、何かを求めてくるということだろうか。正直、今の自分で答えられるのであれば無条件にその契約とやらに判子を押してしまいそうだ。


≪はい。あなたさまはまだ契約精霊をお連れではないように見えるので。私でよければ、是非ともあなた様と契約を取り交わし、従属精霊になりたく存じます≫


うん?

今こいつなんて言った?


(精霊、だと!?)


危うく声が出るところであった。


精霊。


臆面もなく言い放つこいつは、自分のことを精霊と言い放ちやがった。ファンタジーにもほどがある。


「ドッキリか」


今度は口に出た。

誰かの質の悪いイタズラなのだろうか。


≪えと、どっきり、ですか?≫


「まぁ仕掛け人は皆そう言うだろうな」


≪あの、なんのことですか?≫


色々と怪しいこの存在。

普段であれば見なかったことにし、日常に埋没するようなレヴェル。


だがこの時の準は独りだった。


たとえドッキリでも構わないと思った。いやむしろ、この森の中で遭難しそうな状況が人為的なものなのであれば、ドッキリ歓迎だ。もしそうなら仕掛け人を小突いて、夕食でも奢らせよう。そうだ、それがいい。


とにかく今は日常に帰りたい。


≪えっと、あの~・・?≫


「ああ、大丈夫だ。それで、"契約"だったか?」


戻れるのであれば、お芝居に付き合うのも吝かではない。


(だから頼む、俺を帰してくれ)


≪あ、はい。お名前を頂戴できますか?≫


「分かった。俺の名前は、霧下 準だ」


≪キリシタ・・・ジュン様。≫


精霊とやらは俺の名を呼んだ。

ここは欧米風に「ジュン・キリシタ」と名乗ったほうが良かったのだろうか?


≪それでは、ジュン様。これより契約の儀を執り行わさせて頂きます≫


「任せる」


なにやら手の込んだことだ。

兎にも角にも、早く開放してほしい。


≪はい。お任せ下さい≫


準は像を両手に持ったまま、自身の周囲に意識をやる。

物音は、ない。


≪集え、集え、集え≫


精霊(?)がそう呟いた、その瞬間。


「ん?」


光の粒だろうか。

白い光を放つ掌ぐらいの光球が、準の周囲に溢れだした。


≪舞え、踊れ、謳え≫


精霊の呟き――いや、これは『呪言』だ。

古今東西の呪いの類――、もっとも一般的な言葉を使うのであれば、これはそう、呪文。


ともかく、精霊が再び言を発したことで、光が周囲を周りはじめる。


恐ろしく幻想的な、そしてとても怖ろしく、畏ろしい。


≪無に在りしは、2つの対極。子等に授けし想いの果て、王の願いを奉る≫


光が明滅しだし、動きが不規則になる。


≪我が意が望むは王の安寧。我が身が臨むは主の黎明≫


そこで精霊は一拍を置いた。


≪全ての力が在るのなら、それは全てを失うでしょう≫


それはどこか儚げに、


≪其処に何も無いのなら、いずれは全てを得るのでしょう≫


それはどこか優しげに、


≪もしも神が居なくとも、あなたの願いはソラに響くでしょう≫


確信を持って、


≪私が、あなたの護りとなりましょう≫


誇り高く、


≪我が名「Ruhamadaza」に誓い、『精霊』の契約を結ぶ。意義ありや?≫


「ない」


俺は、"彼女"と契約した。






白色の光が一段と強くなり、周囲に眩しいぐらいに溢れた。


「うわっ!」


準は思わず腕で目を覆う。

手で持っていた精霊像は床に落ち、再び音を立てた。

光は弱まる気配を見せず、寧ろ強くなる。光が爆発し、薄暗かった遺跡の内部は、一瞬にして光に埋め尽くされ、周囲の森を照らす。

目が潰れてもおかしくない。その位強烈な光。


(これが・・・契約・・・?)


しかし凖は、その光の奔流に暖かさを感じていた。全身が満たされて行くような、充足感。そして、自身へ注ぎ込まれる力と、それを扱えるのだという超越感。


(悪くない)


寧ろ最高である。

ある種のオルガスムのような、悦楽を凖は感じていた。



そして、光が収束する。



全身を廻っていた得も言われぬ感覚は引いていき、代わりに目の前に光球が集まってゆく。それは楕円形から段々複雑な形へと変化してゆき、最終的には人型へと成っていった。光が完全に収まった頃には、そこには腰まで届く銀髪を湛えた、美しい女性の姿が在った。


「初めまして、マスター。これから、宜しくお願いしますね?」


そう言って、凖と契約を交わした精霊は、柔らかに微笑むのだった。


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