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scene 13 「飛翔」

いつものことですが遅れて申し訳ありません。。。

時は再び遡る。





疑問と言うよりは、確認のニュアンスを含んだその声が、連邦軍戦艦内の艦橋に響いた。


「第二次攻撃ですか?」


思わず、といった風に問いかけたのは、赤を基調とした軍服に身を包む、オーク族の青年だ。

訝しげな目線で隣の人物を見ている。


「私の決定に文句でもあるのか!」


それに応じたのは、こちらも軍服を着たオークだ。

はちきれんばかりに膨らんだ軍服にその身を包み、先の青年に目を向ける。


「閣下、既に初回攻撃が終了してから、かなりの時間が経過しています。敵艦と遭遇しないうちに退くべきではないでしょうか」


「だ、黙れ!本来であればもっと早く二次出撃が終わっていたはずではないか!この作戦は速度が命だといったのは貴様だぞ!そ、それを棚に上げおって、連邦軍人のか、風上にも置けぬ奴だ!」


理不尽とも言える怒声を浴びた青年士官は、頭に血が上るのを感じた。

ただ、腐っても相手のほうが上官だ。立場上、そして未来の自分のためにも、相手の頭をぶん殴って此方の意見を通すことは遠慮したほうが良いだろう。


二次攻撃が遅れたのは、魔導駆動炉に若干の異常が認められたためと聞いているが、果たしてこの喚き散らすだけの男がどこまで知っているか。


「それになにより、見てみろ!貴様は時間が経ったというが、それほどまでに待っていても奴らはやって来ないではないか!みすみすこの好機を逃すことはできん!」


確かに、彼らのエヴァーモア王都への空爆は理想的とも言える成功を見せた。


事前に情報部が王都の警備網を調査した結果、名目だけの警備で実質は殆どされておらず、無人の監視衛星が幾つかあるのみ。これを知った連邦統合軍上層部が考えたのが今回の作戦だ。


最新鋭の戦艦<<スピネル>>。


今回用いられたこの船は、戦艦にしては小ぶりで、武装や装甲も他の戦艦と比べると見劣りする。

しかし、この戦艦には魔術的なステルス機能が搭載されており、魔導波による探知を主力にしている王国に対しては、画期的な戦艦と言えた。


とは言え、その分運用にも注意を払わなければならない。

今回の作戦はこのスピネル3機を用い、実際に王都に接近することで、ステルス性能の確認、王国軍の首都への威力偵察といった目的があった。


事実ステルス性能は驚くほどの性能を見せ、王国軍の防衛ラインを難なく突破、監視衛星の穴を突き、王都へ肉薄。そして空爆に成功していた。


因みに陸地攻撃が目的ではないため、今回は空爆自体は戦艦自らが大気圏内に突入する他無かった。つまり、それなりにリスクが伴う作戦ではあった。


予断ではあるが、本来は強行偵察のみの予定が、戦果が欲しい軍上層部の横やりから、無理矢理に対地攻撃も行う羽目になっていた。


(……確かに好機ではあるのだが、余りにも上手く行きすぎやしないだろうか)


必ず、『揺れ戻し』がある。


慎重派である事を自覚している青年士官は、上官の説得を早々に諦め、ならば確実に作成を成功させることが自分の任務、と思い返し、艦橋を後にした。



彼が、上官をぶん殴ってでも二次攻撃を諦めさせるべきだった、そう思い返したのは、これからさほど後の事ではなかった。











艦を降りた準はリオスに詰め寄っていた。


「二次攻撃が来るのは構わない。避難するのも当然だろう。だが、迎撃が行われないとはどういう意味だ」


避難したほうが良い。

その言葉を容れた準は、ルアと共に船を降りていた。


しかし、リオスが発した言葉に、準の脳裏には公園での一幕が思い起こされていた。


「そのままの意味さ、キリシタくん。先も言った通り、王都からの援助要請は付近の友軍全てに対して発信されている。ただし、最も近い所にいる警邏艦隊でもあと1時間はかかると思うよ。それまで敵さんの好きにさせるしか無いんだ」


「ありえないだろう。だってここは」


「そう、王都さ。我らがエヴァーモア王国の首都、ティヴィクスだよ。でも答えは変わらない。少数精鋭を地で行く王国軍は元々絶対的に数が少ない。戦艦なんて、一隻も残らず前線にいるんじゃないかな。王都防衛ラインも無人衛星だよりのお粗末なシロモノさ」


リオスの笑顔は変わらないが、それはつまり無表情と変わらない。


「……」


「このままだとまた王都は火の海になるね。どうしよう、こまったね、キリシタくん?」


「……」


「ああ、でも、そう言えば、ここに一隻だけあるね。戦艦が。それも、最新鋭のが」


「……、リオス、お前、俺達をハメたな?」


準はそう答えるのがやっとだった。

今の彼の中には様々な思惑がせめぎ合っている。


あるものは自分を罠にはめたリオスに立てる義理など無い、今直ぐここを去れ、お前はルアが居るから死ぬことはない。そう囁くが、あるものは救える命があれば救うと決めたのだろう、お前は何だ。元自衛官ではなかったか。

そう喚き立てる。


そして、準がそう考えている間にも、準の隣で控えているルアの気配が不穏なものに変わってゆく。


「リオス。あなたは、マスターを愚弄しました」


ルアは己が主の敵を見据え、彼女の手に、先ほど通路で見た<<森羅/シンラ>>が宿った。


「まさか、五体満足で居られるとは思っていませんよね……? 順序ぐらいは選ばせて差し上げます。両手両足のどこが最初か選びなさい」


「や、やだな、僕は唯の一研究者だよ?連邦軍の作戦なんて知るわけ無いじゃない。タダの偶然だよ、偶然!」


若干冷や汗を流しつつ、リオスがシラを切る。

ルアの目線がますます鋭くなって行く。


と、そこで準が口を挟んだ。


「……何分だ」


敵の空襲まで。

準の言いたいことを正確に読み取ったリオスは、手元の端末を確認する。


「そ、そうだね~、猶予はあと10分から15分、ってところかなぁ」


「何分必要だ」


この戦艦が、発着するまで。


「面倒な手続きとか全てなくせば、今直ぐにでも」


「OK、了解した、リオス」


準はルアに目配せをする。

顔はどう見ても納得していないのだが、一応、ルアは魔力の奔流を止めた。凶悪無比なまでの魔術も立ち消える。


凖自身も、良いようにお膳立てされている感があり、不快感はある。


だが、それよりも――


(足掻くだけ足掻くと、そう決めたのだったな)


目に見える全てを護ることは出来ないだろう。

しかし、凖は自らの正義で悪徳を為すと決めていた。


ならば、寧ろ戦うための力を用意してくれたリオスと、その後ろに居るであろう何らかの組織には感謝するべきだろう。

例えそれが彼らの掌で踊っているだけだとしても。


凖は大きく息を吐き出し、何時の間にか乱れていた呼吸を元に戻す。


「盾くらいにはなるんだろうな、あの艦は」


そう嘯いた準は、先ほど降りた戦艦に戻って行った。






目の前の戦艦に戻って行った2人は、それぞれの場所へ向かった。

即ち、ルアは駆動炉へ、凖は艦橋へ。






戦艦へ走る二人を眺めながら、リオスは手近な椅子へ腰を下ろす。


「ふぅ、流石に疲れたよ……これだったら、まだデイスの無茶ぶりを聞いていた方がましだったなぁ」

自分と、もう一人の手で作り上げた目の前の戦艦を見やり、リオスは感慨深げに呟いた。

彼が来ている白衣も一層くたびれて見えるのは気のせいか。


「迎撃できればよし、もし出来なくても……まぁ、あのルーアマダザと契約しているんだ。死にはしないか」


小さな声で呟いた彼は、段々と駆動音が高くなる戦艦から注意をずらし、視線を天井に向け、はたと気付いた。


「……あ、そう言えば武装とかまだ取り付け終わってなかったっけ」


思わず立ち上がり、目の前の新鋭戦艦へと見やるが、


「……まぁ、初期装備だけで大丈夫じゃないかな」


そう頷いた彼は、想定される事後処理のために、場所を移動することにした。


「うん、たぶん、大丈夫でしょう」






艦橋に着いた凖は、早速艦長席に身を預ける。

ルアは既に駆動炉へ定着しているだろう。


「よし」


声に出し、覚悟を決めた凖は、意識をズラす。


特定外認識領域――凖はつい先ほどまで潜っていた白い空間へ意識を飛ばした。





(ルア、いるか)


『はいマスター、お傍に』


凖は幾ら元自衛官と言っても、戦艦の操舵や戦闘には詳しくない。

そう、本来であれば。


今は既に知識を学習している。

あの頭蓋骨の裏側にナメクジが這いまわるような感覚。


それで凖は艦の一通りの操作方法や、戦闘に纏わる基礎的な知識を"学習"していた。


(各武装確認)


『現状の錬魔供給量で使用可能な武装は……申し訳ありません、対空魔導砲のみです』


(十分だルア)


現在の出力は3割程度と先ほどルアが言っていた。

航行も覚束ないことを覚悟していた事を考慮すれば、上々だろう。


脳裏に対空魔導砲の細かな仕様が表示される。


基本的に宇宙空間内での戦闘を考慮した設計だが……、大気圏内でも問題なく使用可能のようだ。


『周囲索敵完了しました。障害物ありません』


ルアが周囲を確認した結果を報告してくれる。

どうやら敵機が到着するまでには間に合いそうだ。


『あの、マスター』


(なんだ、ルア)


『……いえ、駆動炉の稼働を開始しました。全機構異常ありません』


(分かった)


準備は整ったみたいだ。

俺の方でも艦や兵装の操作法を改めて思い起こす。

問題なし。特に現時点では不明点は無さそうだ。

あとはぶっつけ本番の実戦で何が出るかだが、もうそこは臨機応変にいくしかない。



さあ、往くか。



(翔べ、シグルーン)


『前扉開きます!』


駆動炉が唸りを上げる。

この戦艦が格納されていた場所の天井が開く。


黒を基調とした優雅な肢体を惜しげもなく晒し、新造戦艦シグルーンは、その大地を飛び立った。




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